今後の普及にむけて2つのワークショップを実施しました
「全人教育推進プロジェクト」(通称MAKMurプロジェクト)では、特別活動を始めとする日本の全人教育の実践にヒントを得た教育的活動を、「MAKMur活動」と呼んでいます。本プロジェクトでは、すべての子どもに機会が与えられ、子どもが主体的に取り組み、失敗からも学べるこのMAKMur活動の実践及び普及を支援しています。クアラルンプールのSentul地区、パハン州のBentong地区、クランタン州のPasir Mas地区のそれぞれ5校の小学校からなる計15校のパイロット校において、昨年からMAKMur活動を実施しています。これらの小学校には1年間の幼稚園が併設されており、幼稚園においてもMAKMur活動に取り組んできました。
さて、今後のMAKMurの普及に向けて、各地区の教育局の方や、パイロット校以外の先生も参加される2つのワークショップを2023年5月に実施しました。
一つ目のワークショップは就学前教育についてです。幼稚園におけるMAKMur活動を具体的に組み立てるにはどのようにしたら良いでしょうか? 小学校の簡易版で進めれば良いのでしょうか? MAKMurプロジェクトでは、就学前教育を小学校以降に実施されるMAKMur活動を実施するための基礎を涵養する段階と捉えています。そうした基礎的な非認知能力は集中して「遊びこむ」ことを通じて学びが起こると考えており、小学校とは異なるアプローチが必要となります。しかしながら、マレーシアでは就学前教育は、小学校の準備教育として位置付けられ、認知能力を重視した教科学習が大半であり、遊びそのものが学びであるという考え方はまだ少数です。全人教育を就学前教育から行うことの難しさがここにあります。そこで今回は、「遊びを通して学ぶ」をコンセプトにワークショップを開催しました。
前述の3地区において3日間の「Fun Learning(楽しく学ぶ)」ワークショップが実施され、日本側の坪川専門家が指導を行いました。パイロット校だけでなく、今後普及していくことになる非パイロット校(中華系インド系の国民型学校を含む)の幼稚園と低学年担任の教員が日本の幼稚園で日常的にある集団ゲームやお店屋さんごっこ等をしながら、遊びのなかにある学びの意味を考えるという内容です。幼稚園の教員を養成する教員養成機関の教員や地区教育事務所の幼稚園教育行政官も参加しました。
日程 | 地区 | 参加人数 |
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5月9日~11日 | パハン州Bentong地区 | 35人 |
5月16日~18日 | クアラルンプールSentul地区 | 28人 |
5月22日~24日 | クランタン州Pasir Mas地区 | 35人 |
ワークショップは、各日2時間半から3時間の設定で講義と実践が行われました。1日目には、「遊びを通して学ぶ」、2日目に「論理的思考の芽生え」、3日目に「統合的活動の教育的意義」の講義に続いて、教員が5歳の子どもになりきり、集団ゲーム、模擬学級会、算数コーナーでの遊びなどを体験しました。これらは、それぞれパイロット地区の実情に合わせて既存のリソースを使用したもので、教員らに好評でした。昨年秋に本邦研修に参加したMAKMurコーディネーター教員らがファシリテーターとして活躍しました。2日目及び3日目には、パイロット校の教員はワークショップで実践したことを実際に自分のクラスに試し、翌日の振り返りセッションで試した手ごたえを発表、有意義なディスカッションとなりました。
ワークショップ一日目(マレーシアの伝統工芸であるバティックを使用した集団ゲームの一つ)
ワークショップ二日目(算数コーナーでの遊びの一つであるピックアップスティックのゲームの様子)
ワークショップ三日目(お店ごっこの準備の様子)
参加者の感想の一部を紹介します。
- 「とても楽しかったです!このワークショップを通じて新しい学びができました。より楽しい授業を計画実施するのにすごく役立ちます。」
- 「より楽しい教育を実践するための知識が深まりました。」
- 「非常に優れたワークショップであり、マレーシアの教育システムに取り入れられるべきです。このようなワークショップが半年ごとに実行されることを願っています。」
- 「幼稚園の教員にとってまたとない引き出しです。アイデアが増えました。今後もこのプログラムが継続されることを期待しています。」
- 「お金をかけずにすでにあるもので様々な遊びを作り上げることができることを改めて実感しました。子どもと教員が一緒に楽しめます。」
- 「実際に自分の教科時間に試しにやってみました。子どもが楽しく生き生きしていました。」
二つ目のワークショップは、特別支援教育あるいはインクルーシブ教育にかかるものです。プロジェクト終了後も将来にわたりMAKMur活動をマレーシア全国に普及していくためには、障がいのある子どもも含め、特別な配慮が必要な子どもたちの活動への参加をMAKMur活動の中で想定しておくことが肝要です。たとえば、MAKMur活動のなかでも掃除は入り口として取り組みやすいという特徴があります。また、共同で活動することにより、障がいのある子どもにとって居場所ができたという意識や自己肯定感が強まるだけでなく、他の子どもたちの忍耐力、協調性、自己肯定感といった非認知能力も高まることに繋がりやすいという利点があります。
今回、教育省からの要請で、川口専門家によるワークショップ「MAKMur and Special Needs Education(MAKMurと特別支援教育)」が実施されました。参加者は今後、MAKMurプロジェクト全国普及にあたり、鍵を握る地区教育局の職員や小学校の校長です。
日程 | 地区 | 参加人数 |
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5月7日 | クランタン州Pasir Mas地区 | 37人 |
5月8日 | パハン州Bentong地区 | 32人 |
5月9日 | クアラルンプールSentul地区 | 34人 |
ワークショップ「MAKMur and Special Needs Education」は3日間にわたり、3つのパイロット地区で実施されました。冒頭、各地区の教育局職員によりこれまでの経緯やMAKMurの枠組みを中心としたプロジェクトの紹介がされました。その後、川口専門家が非認知能力の育成におけるインクルーシブ教育の重要性や効果について説明を行いました。講義後、参加者が4、5人のグループに分かれて、特別支援を必要とする児童も含めてできるMAKMur活動のアイデアを出しました。そして、実践にあたり予期される課題を発表しました。その後、各グループの発表に対して川口専門家からフィードバックがされました。本ワークショップはMAKMurにインクルーシブ教育の要素を取り入れ、より充実した活動を実現していくための一歩となります。
ワークショップ一日目(グループディスカッションの様子)
ワークショップ二日目(専門家による講義の様子)
ワークショップ三日目(参加者による発表の様子)
参加者からは、「非常に有意義な講義とワークショップであった。双方向コミュニケーションがありとても良かった。今後の行動についての具体的なガイドがあればなお良い。障がいのない生徒にとっても良い取り組みだと思う。学校現場における定期的なモニタリングがあれば効果的なのではないか」との意見が聞かれました。
これらの2つのワークショップを通じて、今後はパイロット校の幼稚園におけるMAKMur活動の本格的な実践や、MAKMur活動におけるインクルーシブ教育の視点の強化など、プロジェクト活動の改善が期待されています。