「プロジェクトニュース(障害者雇用の優良事例)」Case14 国営企業の時代から障害者雇用を進めるミシェル・グループ

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障害者雇用の現場から CASE 14

「仕事を通じて自信と積極性を身に付けた」

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知的障害と麻痺があるサランダギナさん(左)は、ミシェル・グループで働き始めたのを機に、自信と積極性を身に付けた

国営企業時代から続く障害者雇用

ウランバートル市の中心部から車を30分ほど走らせたハンオール区に広大な敷地を構えるミシェル・グループLLC。前身は1980年に設立された国営の皮革加工工場、タワン・エレデネだが、市場経済化の波を受けて1993年に民営化され、チョノグループの傘下に入った。2004年からは海外の高級家具を輸入して販売するようになり、モンゴル国内の家具の売り上げの6割を占めるまでに成長を遂げた。DIY用品やガーデニング用品を扱うミシェル資材デパートをはじめ、フードコートを運営するミシェル・ワーキングストリートや、旅行・観光、建築など、年間50件近くの展示会を開催するミシェル・エクスポセンターなどを子会社に擁しており、グループ全体の従業員は300人に上る。

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ミシェル・グループは、DIY用品やガーデニング用品から輸入家具まで輸入・販売しているほか、フードコートやイベント会場なども経営している

そんなミシェル・グループは、障害者雇用も積極的に進めている。同社が初めて障害者を採用したのは、まだ社会主義時代のことだった。国から聴覚障害のある男性を受け入れるよう指定され、皮革加工機械の修理工として受け入れたという。男性はその後も働き続け、今年、勤続35年目になる。その後もミシェル・グループは、2004年には左右の足の長さが異なる人を採用するなど、障害者の雇用を進め、現在は152人の従業員のうち15人に視覚障害や聴覚障害、下肢障害、知的障害などがあるほか、腎臓病などの内部障害や小人症のある社員もいるという。

面接では働く意欲を重視

同社で障害者の雇用を担当するのは、人事マネジャーを務めるオトゴントヤさんだ。障害者から応募があったら、必ず最初に面接しているという。MIU大学で情報技術を専攻した後、2011年にチョノグループに入社した彼女は、受付業務や社長の秘書業務に携わった後、2016年にミシェル・グループに異動した。幼い頃に一緒に住んでいた叔父が事故で足を切断して車椅子利用者になったこともあり、障害者の存在は身近だったという。

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オトゴントヤさん(左から2人目)は、ミシェル・グループで人事の業務を担当しており、障害者から応募があった場合は最初に面接している。

オトゴントヤさんの採用方針は慎重だ。いったん採用したら長く働いてもらいたいため、応募者がどの程度真剣にミシェル・グループで働く意欲があるか見極める。「本当にうちで働きたいと思っているかどうかは、面接をすればすぐに分かりますよ」と笑う。
また、障害者に限らないが、応募者は全員、面接の後に丸1日、配属予定の部署で試しに働いてもらい、業務内容と希望に齟齬がないか、お互いに再確認するという。社員の8割が清掃や修理、運搬など身体を動かす業務に従事するため、後から「こんなはずではなかった」という状況になることを避けるためだ。その後、3カ月間の試用期間の間に最終判断し、場合によっては別の業務を提案することもあるという。いよいよ正式採用が決まると、配属部門のメンバーを集めて、障害の特性や接する際の注意点を説明するオトゴントヤさん。丁寧なアセスメントと適性の確認を怠らず、職場の定着を促そうという姿勢が表れている。

社会に出て見つけた新たな目標

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社内最年少ながら、仕事にスポーツにリーダー研修にと全力を尽くすサランダギナさん

通りの樹々や建物にクリスマスのデコレーションやイルミネーションが輝き始めた2022年12月上旬、同社を訪ねると1人の少女が出迎えてくれた。2021年11月から働いているサランダギナさんには知的障害があるほか、神経麻痺のため右手に力が入らないという。
サランダギナさんは、ウランバートルの出身。祖父母の家で暮らしながら特別支援学校(63番学校)に通った。卒業後は祖母の商売を手伝っていたが、「この子に合う仕事はないだろうか」と祖父に連れられ店に来たという。前出のオトゴントヤさんは「面接してみると、明るく前向きな性格が伝わってきて、大切に育てられたことが分かりました」と振り返る。

割り当てられたのは、清掃の仕事だった。週に5日、朝10時半から19時半まで働いている。「見ていると簡単そうで、すぐできると思ったが、やってみると掃除用具が重いし、雑巾もうまく絞れず大変でした」とサランダギナさん。クリスマスを控えたこの時期は客も多いため、邪魔にならないように一層手早く、かつ頻繁に掃除する必要があるが、「だいぶ慣れましたよ」と得意げに笑う。

そんな彼女には、もう1つの顔がある。中学3年の時に学校のクラブ活動で始めた2つの球技、ボッチャとポートボールの腕前が上達して現在も練習を続けており、特にボッチャはパラリンピックの強化選手として活躍しているのだ。「将来は、障害がある子にスポーツを教える先生になりたい」と意気込む。

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雑巾もだいぶスムーズに絞れるようになった

ミシェル・グループも、必要経費の支援をはじめ全面的にバックアップしているが、だからこそ試合に参加する時には必ず会社に連絡を入れ、あらかじめ休暇を取得するなど、責任感ある行動を心掛けているという。
障害者というだけで、これまで嫌な思いもたくさんしてきた。外を歩いているだけで露骨に差別され、悔しさを飲み込んだ経験も無数にあるが、サランダギナさんは、「働き始めてから、“ずいぶん変わったね”“頑張っているね”と褒められるようになりました。家族も常に応援してくれています」と、嬉しそうに話す。臆すことなく発言できるようになったのも、社会に出たおかげだと感じている。最近、「自分の経験を伝え、社会参加を訴えるリーダーになりたい」という夢もでき、パラリンピック協会で行われているリーダー育成プログラムに参加したり、プレゼンテーションスキルを学ぶ教室に通ったりし始めた。
「忙しくて大変だけれど、仕事もスポーツもリーダーになる勉強も諦めたくありません」と、充実した笑顔を見せた。

社内に広がる応援団

何事にも全力で取り組むサランダギナさんの姿は周囲にも伝わり、彼女の応援団が社内に増えつつある。
同僚のドルゴルさんは、彼女をまるで自分の子どものように可愛がっている一人だ。ミシェル・グループが創業して間もない2005年に入社して以来、新しくメンバーが入るたびにサポートしてきたドルゴルさん。最初こそ清掃用具を満足に扱えずにいたサランダギナさんのことを早く一人前にしようと、つい叱って泣かせたこともあるというが、「今はすっかり頼もしくなりました」「しっかり働いてほしいという祖父母の願いを受け止め、よく頑張っています」とあたたかく見守る横顔には、優しい愛情があふれている。

2人の上司で、清掃メンバー9人を統括するリーダーのトゥメンナストさんも、最初の頃は、毎朝、朝礼で作業の分担を確認しながら、「チームワークが大切で、同僚に認められない限りは継続が難しいこの仕事がこの子に務まるだろうか」と、サランダギナさんを見守っていたが、常に真面目に取り組む姿にほだされ、いつしか自分の手が空いたら手伝うようになったという。「1年前は周りとほとんど話そうとしませんでしたが、お客様と日々、接する中で成長したと思います」と、目を細める。

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清掃グループを統括する トゥメンナストさん(右)と、サランダギナさん(中央)、そしてドルゴルさん

育まれる助け合いの精神

人事を担当するオトゴントヤさんは、「ミシェルとしてはこれからも引き続き障害者を積極的に雇用していく予定です」「うちで働きたいと応募してきてくれる障害者に対しては、どうすれば長く働いてもらえるのかという観点から、社を挙げて環境整備にも取り組みます」と、意気込む。同社では、誕生会や社員旅行、社内教育など、社員の交流を促す取り組みも年に数回、実施しており、障害者の雇用を通じて社員の間に助け合いの精神が育まれることを実感しているという。
一方、サランダギナさんは、社内最年少の21歳と思えないほどしっかりした、頼もしい口調で、「これから生まれてくる世代も含め、皆が生きやすい社会を作るために頑張りたいと思います」と、話した。
同社は、オトゴントヤさんの上司にあたる人事部長のトゥブシントゥグスさんを2023年2月に日本で行われるDPUB2の研修に2週間参加させることにしており、帰国後は、ジョブコーチとしてさらなる障害者雇用の推進に向けて活躍することが期待されている。社会主義時代から長年にわたり障害者の雇用に取り組んできたミシェル・グループの幹部職員がDPUB2の本邦研修に参加し、日本のジョブコーチの知見を習得することによってモンゴル社会にもたらされるであろうさらなる機運の盛り上がりに期待したい。

企業概要

企業名 ミシェル・グループLLC
事業 高級輸入家具の販売など
従業員数(チョノグループ全体) 約300人
従業員数(ミシェルグループ全体) 約152人(2022年12月時点)
障害者数(ミシェルグループ全体) 約15人(2022年12月時点)
(視覚障害、聴覚障害、知的障害、身体障害、内部障害など)
雇用のきっかけ 前身のタワン・エレデネ時代から働いている障害者を継続して雇用しているほか、新たな採用も進めている
雇用の工夫 ・面接後、正式に採用する前に配属予定部署で丸1日、試しに働いてもらった後、3カ月間の試用期間を経て本人の意思と業務内容を何重にも確認し、採用する
・障害に応じた配属や業務の割り振りを行う
・誕生会や社員旅行、社内教育など社員の交流を促すための取り組みも行っている

ジョブコーチ就労支援サービスとは

ジョブコーチを通じた障害者と企業向けの専門的な就労支援サービスのことで、モンゴル障害者開発庁が中心となって2022年6月から提供が開始された。
このサービスを通じて、今後、年間数百人の障害者が企業に雇用されることが期待される一方、障害者の雇用が難しい企業には、納付金を納めることで社会的責任を果たすよう求められている。

お問い合わせ先

ジョブコーチ就労支援サービスを利用したい方・企業はこちらまで:

障害者開発庁(Хөгжлийн бэрхшээлтэй хүний хөгжлийн ерөнхий газар)
info@gadpwd.gov.mn
Tel: 77073008, 77032222