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「プロジェクトニュース(障害者雇用の優良事例)」Case23 ハス・トランス・ニュース社

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障害者と一緒に事故車や違反車の一時保管に取り組む

「社会に出たいという気持ちを応援したい」

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ニャムゲレル社長(左端)とオユンツェツェグさん(後列右端)に見守られながら生き生きと働く3人の障害者たち(2023年9月撮影)

観光地の近くで区の警察から業務を受託

秋の深まりとともに日一日と気温が下がり始めた9月下旬、ウランバートル市内の渋滞を抜けて両側に広がる草原を眺めながら車を東へ1時間半ほど走らせて、ナライハ区を訪れた。このあたりはかつて炭鉱の街として栄えたという。また、モンゴルで人気の観光名所であるチンギス・ハーン像やテレルジ国立公園も近く、観光客でにぎわう夏や休日には事故も多い。

ハス・トランス・ニュース社は、この街で2016年に創業した。同社はナライハ区の警察から委託を受けて違反車や交通事故車の一時預かりを行っている。連絡を受けると運転手を派遣して車を引き取り、取り調べが終わるまで敷地内で保管する。一連の手続きが終わり、再び警察から連絡が来るまで車の持ち主が取りに来ると、入念に本人確認を行ってから引き渡す。このほか、冬の間は近くのタワントルゴイ鉱山から掘り出された石炭の運搬も行っているという。平屋の社屋の周りは駐車場になっており、車が数十台は停められるほど敷地は広いが、防犯のためだろう、四方は人の背丈より高いトタン塀で囲われ、外から中を見ることができないようになっている。

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ナライハ区にあるハス・トランス・ニュース社(2023年9月撮影)

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ハス・トランス・ニュース社を立ち上げ、2018年からナライハ区で事故車や違反車の一時預かり業務を請け負っているニャムゲレル社長

創業者で社長のニャムゲレルさんは、落ち着いた話し方が印象的な女性だ。夫は軍人で、スーダンやアフガニスタン、イラクなどにたびたび駐留して不在がちであったため、最初の頃は市の中心部にあるチンギルテイ区で縫製の仕事をしながら娘1人と息子1人を育てていた。子どもたちが大きくなった頃、たまたまチンギルテイ区の警察から頼まれて違反車や事故車の管理事務を手伝ったのを機に、ナライハ区で今後、同様の業務が開始されると知ったニャムゲレルさんは、ナライハ区に拠点を移すことを決意。車を保管できるだけの土地を探して現在の場所で創業し、車の修理を手掛けながら準備を進めた。念願かなって2018年にナライハ警察との委託契約を結んで以来、1年ごとに更新しながら一時保管業務を続けている。2人の子どもたちはそれぞれ結婚し、今は離れて暮らしているが、夫は25年にわたり勤務した軍を退役後、ドライバーたちの管理や警備の仕事などを手伝ってくれている。

柔軟な受け入れで身体に負担なく勤務

そんな同社では現在、5人の正社員と5人の契約社員が働いている。これ以外にも冬季は日雇いや季節労働の形で約10人のドライバーが働いている同社だが、注目されるのは正社員5人の中でニャムゲレルさん夫妻以外の3人が障害者である点だ。

このうち、車の種類や預かった日、所有者の情報をタブレットに入力しているホンゴルゾルさんには内部障害がある。ウランバートル市内にある大手携帯会社で働いていたことがあるが、周囲に馴染めず孤立し、退社を余儀なくされたという。

そんな彼女をハス・トランス・ニュース社に紹介したのは、DPUB2のジョブコーチ養成研修を2022年9月に受講したエンフチョロンさんだった。3人の子どものうち、一番下の子どもが二分脊髄症で、「二分脊髄症基金」を立ち上げて活動する傍ら、ジョブコ―チの資格を取得したエンフチョロンさんは、同年11月に開かれた求職イベントでホンゴルゾルさんに出会い、ジョブコーチとして支援することを決意した。

内部障害があるホンゴルゾルさんには身体が冷える屋外作業や長時間の車通勤は不適切だと考え、テレワークできる職場か、自宅から近いナライハ区内の企業の求人を探したが、すぐには条件に合う職場を見つけられなかったという。そこでエンフチョロンさんが相談したのが、2020年に障害児のイベントで知り合って以来、交流を続けていたニャムゲレルさんだった。ホンゴルゾルさんの状態を説明すると、ニャムゲレルさんはすぐに「ちょうどうちの会社で事務員を探そうと思っていたところなんですよ。うちに来ませんか」と言ってくれたという。

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車種や所有者の情報を登録して管理しているホンゴルゾルさん(2023年9月撮影)

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ホンゴルゾルさんをハス・トランス・ニュース社に紹介したジョブコ―チのエンフチョロンさん(本人提供)

これを受けてエンフチョロンさんはすぐにハス・トランス・ニュース社を訪問し、仕事の内容や職場環境を確認。ホンゴルゾルさんにとって負担が大きすぎないことを確かめたうえで、在宅勤務の可能性についても相談すると、ニャムゲレルさんは「登録用タブレットを自宅からインターネットにつなぐなら」という条件で快諾してくれた。

ホンゴルゾルさんが入社してからも、エンフチョロンさんは彼女が仕事に慣れるまで支援を続けた。最初のうちはほぼ毎日、会社に顔を出して事務資料の整理を手伝っていたが、少しずつその頻度を減らしていったという。

二人の配慮によって、その日の体調に合わせて勤務場所を選びながら働く環境を得られたことについて、ホンゴルゾルさんは喜びをかみしめており、「障害がある自分がこうして給料をもらいながら無理なく仕事できることに感謝しています」と話す。

社長のニャムゲレルさんには「いつも人の気持ちを想像し、常に寄り添おうとしてくれる」のを感じており、心から信頼できる人だと感じている。また、ジョブコーチのエンフチョロンさんについては「常に誰かのことを心配し、サポートできることがないか考える人」だと話し、「私が元気にしているかや仕事が大変ではないかといつも気に懸けてくれ、頻繁に電話をもらいます」「長時間、同じ姿勢で座り続けているのも良くないよ、と心配してくれることもしばしばです」と、嬉しそうに話す。

「仕事に行くのが楽しみ」

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母親のオユンツェツェグさんと一緒に調理場に立ち、食事の準備をするのがホンシャガイさん(右)の役割だ(2023年9月撮影)

ハス・トランス・ニュース社では、区の労働福祉サービス課の紹介で、2人の知的障害者も正社員として働いている。調理場担当のホンシャガイさんと、警備担当のヒルチンバートルさんだ。

30歳のホンシャガイさんは、知的障害に加え、てんかんもある。以前はバヤンズルフ区内にある特別支援学校に通っていたが、周りに馴染めず中学1年の時に退学して以来、毎日、家で手持無沙汰な日々を過ごしていたが、現在は母親のオユンツェツェグさんと一緒にハス・トランス・ニュース社の調理場に立ち、食材を切ったり、お皿を洗ったりしている。娘に働くことを経験させたいと考えたオユンツェツェグさんが、社長のニャムゲレルさんに「自分が娘をサポートするので働かせてほしい」「自分はアルバイトでいい」と相談したのだという。「仕事が大好き!」と手をたたきながら顔をほころばせるホンシャガイさんをいとおしそうに眺めながら、オユンツェツェグさんは「娘は朝、出勤前に“今から仕事してくるよ”と近所の人に言いに行ったり、“働くということは、私も大人になったということだよね”と満足そうに笑ったりするんですよ。ここで働き始めて笑顔が増えました」と嬉しそうに微笑む。

ウランバートルで夫と共にホンシャガイさんと弟を育てていたオユンツェツェグさんは2001年、離婚を機にテレルジに引っ越してきた。景色が良いところで暮らす方がホンシャガイさんにもいい影響があるのではないかと考えたためだ。今はホンシャガイさんに加え、週に3日は近所に住むヒルチンバートルさんも連れて、3人で一緒にハス・トランス・ニュース社に出勤している。

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ヒルチンバートルさんは警備担当として責任感をもってモニター画面に目を凝らす(2023年9月撮影)

33歳のヒルチンバートルさんにも、軽度の知的障害がある。会社では、事故車や違反車が運ばれてくるたびに門を開閉したり、薪を切ったりしている。特に好きなのは、保管している間に車が盗まれないよう監視する警備の仕事だ。駐車場に設置された4つの防犯カメラからオフィスに設置されているモニターには、常時、映像がリアルタイムで送られてくる仕組みで、ニャムゲレルさんの夫とヒルチンバートルさんが交代しながら24時間体制で監視している。モニターにじっと目を凝らすヒルチンバートルさんの横顔は、責任感に溢れて頼もしい。

そんなヒルチンバートルさんには、兄が1人と弟が2人いる。父親は幼い頃に亡くなり、兄も弟たちもすでに結婚して家を離れているが、兄の息子にも身体障害があり寝たきりの生活であるため、現在は、母親と甥の3人で暮らしている。これまで学校に通ったことがなく、週に3日、決まった時間に家を出て出勤すること自体が初めての経験だが、「みんなと話すのが楽しいし、社長も優しいから仕事は大変じゃないよ」と笑う。

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駐車場の様子は常に4つのカメラを通じて警備を行っている(2023年9月撮影)

ヒルチンバートルさんと一緒に出勤している前出のオユンツェツェグさんは、テレルジに引っ越してきた当時から彼のことを見守ってきた。「ヒルチンバートルさんも本当に仕事を楽しみにしているようで、“今日は会社に行く?”“今度はいつ行くの?”と、しょっちゅう電話をかけてくるんですよ」と微笑む。モニターを監視する時にはどんなことに注意しなければならないかといった仕事のやり方も、社長のニャムゲレルさんが直接、教えるのではなく、まずオユンツェツェグさんに説明し、彼女からヒルチンバートルさんに繰り返し教えたという。ニャムゲレルさんは、「信頼関係があるオユンツェツェグさんを通じて学ぶ方が、緊張したり怖がったりせず覚えられると考えました」と振り返ったうえで、「ヒルチンバートルさんは多弁ではありませんが、仕事にはしっかり取り組んでくれていますよ」と話す。

社長とジョブコーチ、そして従業員が密に連携

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あたたかい日差しを浴びながら談笑するホンゴルゾルさん(左)、ホンシャガイさん(中央)、そしてヒルチンバートルさん(右)(2023年9月撮影)

ニャムゲレルさんが障害者雇用について知ったのは、DPUB2が2023年2月に開催した企業啓発セミナーに参加したのがきっかけだった。エンフチョロンさんに声をかけてもらい顔を出した同セミナーで、ニャムゲレルさんは仕事の機会を提供することを通じて障害のある人々の「社会に出たい」という気持ちを後押しできたらと考えるようになったという。正社員5人のうち、自分と夫以外の3人が全員障害者である事実が、その思いの強さを物語っている。会社の規模が大きくないうえ、24時間体制の警備以外は長時間勤務の必要がなく、融通が利く業態であることもニャムゲレルさんの背中を押した。皆、家が近いため、それぞれの家族の事情や状況をよく理解していると話すニャムゲレルさん。外出のついでにホンゴルゾルさんやホンシャガイさん、ヒルチンバートルさんの家を訪ねることもあるし、車で送り迎えすることも珍しくないという。

また、同社の場合はジョブコーチのエンフチョロンさんに加え、ホンシャガイさんの母親であり、ヒルチンバートルさんのことも長年にわたりよく知っているオユンツェツェグさんがアルバイトという形で一緒に勤務し、家でも職場でもそばにいることも、二人にとっては大きな安心につながっていると言えるだろう。ニャムゲレルさんは、しばらくは障害者の雇用を拡大せず、まずは現在の3人が定着してくれるように努力するつもりだというが、社長とジョブコーチ、そして従業員が密に連携し、あたたかく見守る中で障害者がのびのびと自分のペースで働く同社の事例は、障害者を取り巻く社会の望ましい在り方を示していると言えよう。

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ハス・トランス・ニュース社の敷地には多くの車が停められている(2023年9月撮影)

取材が終わった後、オユンツェツェグさんから「私たちの声に耳を傾けようとしてくれる人は少なく、相手にすらしてもらえないことも珍しくありません」「わざわざ私たちの話を聞きに訪ねて来てくれてありがとう」と声をかけられた。障害を理由に肩身の狭さや居心地の悪さを感じている人々やその家族は多く、そうした人々が社会に踏み出せる形で仕事を提供するインパクトは非常に大きい。DPUB2が育成するジョブコーチや企業啓発セミナーの開催を通じて障害者雇用の意義に気付いたハス・トランス・ニュース社の事例は、モンゴル社会に広まってほしい新たな企業の在り方を体現している。

企業概要

企業名 ハス・トランス・ニュース社
事業 ・事故車や違反車の一時預かり
・石炭の運搬(冬季のみ)
従業員数(企業全体) 正社員 5人(2023年9月時点)
契約社員 5人
アルバイト・季節労働者 約10人(2023年9月時点)
障害者数(企業全体) 3人(2023年9月時点)
雇用のきっかけ ・ナライハ区の労働社会福祉サービス局からの紹介(2人)
・ジョブコーチからの紹介(1人)
雇用の工夫 ・障害者本人と一緒に母親をアルバイトとして雇用、近所に住む知的障害者も一緒に通勤し、仕事の手順もその母親が指導
・ジョブコーチ制度も活用し、助言に従い在宅勤務などの要望にも柔軟に対応
・社長とジョブコーチが頻繁に連絡を取り合い情報交換している

ジョブコーチ就労支援サービスとは

ジョブコーチを通じた障害者と企業向けの専門的な就労支援サービスのことで、モンゴル障害者開発庁が中心となって2022年6月から提供が開始された。
このサービスを通じて、今後、年間数百人の障害者が企業に雇用されることが期待される一方、障害者の雇用が難しい企業には、納付金を納めることで社会的責任を果たすよう求められている。