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「プロジェクトニュース(障害者雇用の優良事例)」Case29 タヴァン・ボグド・フーズ・ピザ社

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世界最大級のピザチェーン・ブランドで働く聴覚障害者
「さまざまな配慮と情熱により実現した社会への参加」

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ピザ・ハットのユネスコ通り店の前で、上司のニャムフーさん(右)、
紹介してくれたジョブコーチトレーナーのバトツェツェグさん(左)
とともに微笑むエンフマンライさん(中央)(2024年3月撮影)

「初めて尽くし」を乗り越えて始めた仕事

2010年代前半から外国資本の進出が飛躍的に増えているモンゴル。首都のウランバートルには、シャングリラやホリデイイン、ノボテル、東横インといった世界的なホテルチェーンが相次いで登場したほか、CUやGS25など韓国のコンビニエンスストアも街のあちこちで目にする。
なかでも外食産業への外資の参入の勢いは目覚ましく、KFCやバーガーキング、カフェベネなどの国際フードチェーン店は、どこも子どもから大人まで、幅広い年代層の人々で賑わっている。

1958年にアメリカのカンザス州で誕生した世界最大級のピザチェーン・ブランド、ピザ・ハットもその一つだ。世界100カ国以上に1万9,000軒を超える店舗を展開するピザ・ハットは、モンゴルではタヴァン・ボグド・フーズ・ピザ社によってモンゴルに上陸し、ウランバートル市内に1号店がオープンした。以来、順調に店舗を拡大しており、2024年7月時点で出店数は25軒、従業員数は約700人に上る。ウランバートル北部に位置するダルハンオール県に地方初の店舗もオープンした。

国際的にチェーン展開しているブランドだけあって、企業の社会貢献(CSR)の意識も高く、障害者も各店舗で2人ずつ雇用することを目標に掲げて積極的に採用を進めている。2024年7月現在、障害者の人数は全25店舗で21人に上る。

ユネスコ通り沿いにある店舗を訪ねたのは、まだ道路脇や建物の影に溶け残った雪が白く光る2024年3月中旬のことだった。2015年4月にオープンしたこの店舗は、ショッピングやエンターテインメントが楽しめるシャングリラモールや、子ども連れの家族層に人気の遊園地に近いことから他店より規模が大きく、約35人の従業員が交代で働いている。この日も、オーダーカウンターの前には、楽し気にメニューを選ぶ若者グループからテイクアウトをオーダーする人まで、さまざまな客が次々に列を作り、店内にはピザをシェアしながらおしゃべりを楽しむ人々の明るい声と活気があふれていた。

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ピザ・ハットのユネスコ通り店で働く エンフマンライさん(2024年3月撮影)

エンフマンライさんは、2023年11月からこの店で働いている。現在32歳のエンフマンライさんには、聴覚障害に加え軽度の知的障害がある。周囲に馴染めず小学校を退学して以来、一度も学校に通ったことがないため、文字の読み書きはできない。私立のエネレル職業訓練学校にも1年間通ったが仕事は見つからず、アパートの清掃人として働く母親を手伝いながら2人で暮らしていた。

そんなエンフマンライさんがピザ・ハットで働くことになったのは、DPUB2の研修を受けてジョブコーチトレーナーの1期生になったバトツェツェグさんだ。エネレル職業訓練学校の副校長であり、ジョブコーチトレーナーの同期でもあるオヤンガさんからエンフマンライさんを紹介された。エンフマンライさんと彼の母親にさっそく面会し、息子の将来を案じる彼女の切実な思いに胸打たれたバトツェツェグさん。エンフマンライさんにアセスメントを行い、人柄が温厚で、立ち仕事ができる体力もあることを確認したことから、ピザ・ハットを紹介したという。

本社での面接後、自宅から最も近いユネスコ通り店に配属されたエンフマンライさんにとって、毎朝、決まった時間に家を出ることも、一人でバスに乗ることも、そして複数の人たちと長時間、一緒に過ごすことも、「初めて尽くし」の経験だったが、最初の数回、母親に付き添われながら出勤しているうちにルートを覚え、一人で通えるようになった。遅刻はこれまで一度もないという。新入社員は全員、1週間は店内の掃除を担当するという同社のルールに従い、エンフマンライさんも最初は掃除を担当していたが、現在は厨房に配属され、ビザの生地づくりを任されている。毎日、鍋3つ分の生地をこねているが、「とても楽しいよ」「仕事が大好きです」と笑顔を見せる。

近くで見守る上司の包容力

エンフマンライさんには、いつも近くで見守ってくれる心強い上司がいる。接客マネジャーのニャムフーさんだ。大学時代にピザ・ハットでアルバイトをしていたことが縁で、卒業後、そのまま就職した。

ニャムフーさんは、手話が堪能だ。近所に住む叔母に聴覚障害があるため、いつしか自然に習得したという。一方のエンフマンライさんは、小学校を中退したきりで手話も流暢に使えないが、二人はジェスチャーと手話を交えながら密にコミュニケーションを取っており、大の仲良しだ。

「エンフマンライさんは仕事が大好きで、始業時間は9時であるにも関わらず、いつも8時過ぎには出社しているんですよ」「掃除を担当していた時も、生地作りをしている今も、いつも丁寧に仕事に取り組んでくれます」と微笑むニャムフーさん。「機嫌がいい時に一人で踊り出したり、その場で物真似をしたりすることもありますが、性格はいたって穏やかで周囲と揉めることはありません」と話す優しい口調には、彼女自身の包容力とあたたかさがにじむ。エンフマンライさんの母親とも密に連絡を取り合い、店での様子や仕事ぶりを報告しているという。

エンフマンライさんに安心して働いてもらえるように、ユネスコ通り店ではさまざまな工夫も行っている。オーダーカウンターやレジではなく、自分のペースで作業できる厨房に配属したのもそうした工夫の一つだ。また、勤務時間も、他の従業員のようにシフト制ではなく、9時から17時までの定時制とし、夜間勤務をしなくていいように配慮している。掃除の仕方や生地作りのやり方については、各部署の従業員が身ぶり手ぶりを交えつつ、実際にやって見せながら教えたという。

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エンフマンライさん(左)は接客マネジャーのニャムフーさんと仲良しだ(2024年3月撮影)

そんなエンフマンライさんと働くうえで心掛けていることについて尋ねると、ニャムフーさんは、「これは障害者に限らず、学生アルバイトやすべての新入社員に言えることですが」と前置きしたうえで、「最初から難しい仕事をさせると、できなかったり失敗したりした時に諦めてしまいがち。確実にできそうなことから任せることが大切だと思います」と、答えてくれた。

「障害者も周囲も自分の人生を送れる社会を実現したい」

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手話でコミュニケーションを取るエンフマンライさん(右)と上司のニャムフーさん(中央)を見守る、ジョブコーチの バトツェツェグさん(2024年3月撮影)

エンフマンライさんを同社に紹介したバトツェツェグさんは、ホブド県の出身だ。ウランバートルの人文大学ではジャーナリズムを専攻し、卒業後は一貫して障害者の自立支援に尽力してきた。

活動の皮切りとなったのは、2018年にオープンしたコーヒーショップだ。ダウン症の若者たちに職業訓練の機会を提供することで彼らの将来の選択肢を広げたいと、三菱財団の助成金を元手に開店した。シャングリラ・ホテルで働くバリスタの協力を仰ぎ、母親たちがコーヒーの淹れ方やサンドイッチの作り方を学んだうえで子どもたちに繰り返し教えるというやり方で運営を続けている。

また、以前はダウン症協会の副会長を務めるなど、一貫してダウン症の若者の支援に携わってきたバトツェツェグさんは、2021年9月にDPUB2の研修を受講してジョブコーチトレーナーとしても活動を開始。2023年10月には国連開発計画(UNDP)と連携して職場における障害者への配慮に関する研修を実施したうえで、障害者と企業をマッチングするジョブフェアを開催した。エンフマンライさんをピザ・ハットの人事担当者に紹介したのも、ダウン症の男性を2人、韓国系コンビニエンスストアのGS25に紹介したのも、この会場だったという。その後、2024年2月には再び企業を招いてフォローアップのセミナーを開催したほか、大手飲料メーカーのAPU社とともに、障害者や高齢者が働きやすい「インクルーシブな職場」の実現に向けたプロジェクトも実施している。

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UNDPと連携して開いた職場における障害者への配慮に関するセミナーの様子(バトツェツェグさん提供)

バトツェツェグさんがこれほど精力的に障害者、特にダウン症がある若者の就労支援に尽力してきたのには、理由がある。バトツェツェグさんと建築家の夫、バトザヤさんとの間に生まれた3人の娘のうち、次女のヤルグンちゃんにダウン症があるのだ。バトツェツェグさんもバトザヤさんも両親を早くに亡くしているため、夫婦で子育てと仕事を頑張ってきた。

おりしもモンゴルでは、2019年からインクルーシブ教育が始まり、知的障害がある子どもたちも普通学校に入学できるようになったことから、今年10歳になるヤルグンちゃんも、特別学校ではなく普通学校に通っている。しかし、いくら制度が変わっても、学校や教員側がダウン症の子どもへの接し方に戸惑い、右往左往するなど、障害に関する社会の知識不足や意識の低さを折に触れて痛感しているバトツェツェグさん夫妻は、ヤルグンちゃんが将来、自立生活を送れるかどうか深く憂慮している。

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バトツェツェグさん(右)と次女のヤルグンちゃん(バトツェツェグさん提供)

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草原で微笑むバトツェツェグさん(左)とヤルグンちゃん(バトツェツェグさん提供)

とはいえ、バトツェツェグさんは、ヤルグンちゃんの姉と妹にも彼女の面倒を押し付けたくはないと考えている。「三人には末永く仲良く暮らしてほしいと思いますが、ヤルグンのために姉妹が自分たちの生活を犠牲にすることはしてほしくはありません」「だからこそ、自立生活センターの拡充をはじめ、政府には取り組むべき課題がまだまだあります」と力を込めるバトツェツェグさん。障害者の就労支援に人一倍、情熱を燃やし続ける彼女を突き動かしているのは、娘や、娘と同じような障害がある人たちが将来、安心して働けると同時に、障害者の周囲の人たちもまた負担を背負うことなく、自分の人生を送ることができる環境を実現したいという思いにほかならない。

就労がもたらすインパクト

コロナ禍の時期をのぞいて経済が堅調に成長しているモンゴルでは、労働市場における人出不足の問題が年々、深刻化しており、企業が障害者雇用を進める理由の一つになっている。もっとも、障害種別による格差は大きく、バトツェツェグさんが友人と独自に調査した結果によれば、350職種のうち290以上の職種が障害者を雇用するなら聴覚障害者を希望しているという事実もある。バトツェツェグさんは「聴覚障害者は聞こえないこと以外に障害がなく、いったん仕事内容を覚えると高い集中力で取り組むため、企業の希望は聴覚障害者に集中しがちです」と顔を曇らせた後、「だからこそジョブコーチが経営陣や人事担当者に働きかけて職場のアセスメントを行い、意識啓発を行うことが必要です」と、力を込める。

一方、接客マネジャーのニャムフーさんも、エンフマンライさんの受け入れを通じて自信を深めたようだ。ピザ・ハットでは本部が一括して応募者の面接や配属を行っており、ニャムフーさん自身が採用に携わることはないものの、「また障害者がユネスコ通り店に配属されたら、エンフマンライさんのように仕事を好きになってもらい、ピザ・ハットで働いて良かったと思ってもらえるように支援したいです」と意気込む。

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黙々とピザ用の生地作りに精を出すエンフマンライさん(2024年3月撮影)

小学校を中退して以来、満足に学校にも通わず、ほとんどの時間を自宅で過ごしてきたエンフマンライさん。そんな彼がDPUB2で育ったジョブコーチを通じて仕事と出会い、毎日、規則正しく出勤し、家族以外の人たちとコミュニケーションを取り、仕事に楽しさややりがいを感じるようになっていく様子からは、障害のある人にとって、社会に出て働くことがいかに大きな意味とインパクトを持つのかが伝わってくる。と同時に、障害者が安定して働き続けるためには、周囲の物理的なサポートや配慮だけでなく、強い思いと情熱が重要であるかということも改めて思い知らされる。

モンゴルで幅広い層に人気のピザ・ハット。その店舗で働く障害者たちの姿を目にした人々が、障害者の就労について考えるようになることで、インクルーシブな社会の実現にまた一歩、近づくことは間違いない。

企業概要

企業名 Tavan Bogd Foods Pizza LLC
事業 ピザの製造・販売
従業員数(全体) 約700人(2024年7月時点)
従業員数(ユネスコ通り店) 35人(2024年7月時点)
障害者数(全体) 21人(2024年7月時点)
障害者数(ユネスコ通り店) 1人(2024年7月時点)
雇用のきっかけ ・国際展開するフードチェーン店として各店舗で障害者を2人雇用することを目標に掲げるなど、企業の社会貢献(CSR)の意識が高い
・DPUB2のジョブコーチトレーナーが本人のアセスメントを実施したうえで紹介した
雇用の工夫 ・自宅から通いやすい店舗に配属した
・レジカウンターでの接客業務ではなく、自分のペースで作業に取り組める厨房での生地作りを担当させている
・手話ができる上司を身近に配置している
・本人だけでなく、母親とも密に連絡を取り合っている

ジョブコーチ就労支援サービスとは

ジョブコーチを通じた障害者と企業向けの専門的な就労支援サービスのことで、モンゴル障害者開発庁が中心となって2022年6月から提供が開始された。
このサービスを通じて、今後、年間数百人の障害者が企業に雇用されることが期待される一方、障害者の雇用が難しい企業には、納付金を納めることで社会的責任を果たすよう求められている。