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「プロジェクトニュース(障害者雇用の優良事例)」Case32 国立リハビリテーションセンター 職業訓練学校

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専門技術の指導から就職支援までジョブコーチの知見を生かす
「一人一人に合った丁寧なサポートで生徒の可能性を広げたい」

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生徒たちの就職指導を行っているジョブコーチのウンドラルさん(右端)と、
ベーカリークラスを指導するジョブコーチのデルゲルジャルガルさん(右から2人目)とともに、
焼き立てのクッキーを手に笑顔を見せる生徒たち(2024年6月撮影)

2年間のカリキュラムで丁寧に指導

案内されるがままドアを開けて部屋に一歩入った瞬間、芳醇で濃厚なバターとナッツの香りに全身がふんわりと包まれたような気がして、思わず頬が緩んだ。お揃いの青いエプロンを身に着け、衛生帽をかぶった受講生たちが数人、和やかに談笑しながらパンやクッキーの生地をこねている。ピピッ、ピピッという控えめなタイマーの音に合わせて一人が焼き上がったばかりのクッキーをオーブンからトレイごと取り出すと、甘い香りが一段と立ち込めて鼻腔を心地よくすぐった。

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粉と水を計量し、丁寧にこねるベーカリー製造クラスの受講生たち(2024年6月撮影)

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国立リハビリテーションセンターの外観(2024年6月撮影)

ここは、障害者開発庁傘下の国立リハビリテーションセンターにある職業訓練学校だ。15歳から45歳までの障害がある人を対象に、冒頭のベーカリークラスをはじめ、縫製や大工、コンピューター技術、携帯やカメラ修理など、全部で10種類のクラスを開講している。定員は各クラス12人ずつ。一方、教職員は各科目を教える指導員10人を含めて、全部で16人だ。
また履修期間については、私立の職業訓練学校の場合は1年制が多いが、この学校には重度の障害がある生徒が多いため、2年間かけて丁寧に指導を行っている。学費は無料で、コースを修了する時には、起業支援金として400万モンゴルトゥグ(約18万円)の支給を受けられる。それでも、さまざまな理由から途中で訓練を断念する人は少なくない。毎年約100人いる新入生のうち、2年後に卒業できるのは30~50人にとどまっているのが現状だという。

なお、国立リハビリテーションセンターには、この職業訓練学校のほか、道具を使って機能訓練や電気治療を行ったり、義肢 装具の製作と装着訓練を行ったりするリハビリテーション病院もあり、どちらも市民から高い信頼を得ている。

就職担当として貪欲に知見を吸収

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生徒たちの就職支援を担当している ウンドラルさん(2024年6月撮影)

職業訓練学校の教務課で生徒たちの就職支援を担当しているのは、ウンドラルさんだ。ここでの勤務は、丸8年になる。以前は民間企業で販売を担当していたが、妊娠を機に公務員を志し現在の仕事に応募した。
最初のうちは障害に関する理解や知識がなかったため、知的障害のある男性にボディタッチされて驚いたこともあったというウンドラルさん。しかし、「まずは1年、ここで頑張ってみよう」と自分に言い聞かせ、生徒たち全員の顔と名前を覚えて言動を観察したり、会話に耳を傾けたりして、交友関係を把握しようと努めたという。一人一人の障害の特性や留意点が理解できるようになると、今度は年間計画やカリキュラム内容を検討する会議で自分のアイデアを積極的に提案するなど、学校の運営にも主体的に関わるようになった。また、生徒たちの中には聴覚障害者も多く、授業や進路指導の際は手話でのコミュニケーションが欠かせないため、空き時間を利用して手話が堪能な同僚にゼロから学んだという。努力の甲斐あって、今では地方で研修を行う時に自分で通訳できるぐらい上達した。

そんなウンドラルさんがDPUB2のことを知ったのは、たまたま目にしたジョブコーチ入門セミナーの案内がきっかけだった。ここで働き始めて6年目、2022年3月のことだった。
ジョブコーチ入門セミナーに参加できる公務員の人数は、NGOや企業の職員に比べると限られていたが、ウンドラルさんは「生徒の就職支援を担当している自分にとって、このセミナーはぜひ受講する必要があると思う」と、当時のセンター長に直談判したという。見事、セミナーの参加枠を勝ち取り、障害者の就労に必要な合理的配慮やアセスメント、日本における事例について学んだウンドラルさんは、言葉どお り、セミナーで学んだ知識を就職支援に応用し、大手コンビニエンスストアのCUやハーン銀行などに次々と卒業生を紹介した。特にCUの時は、生徒が繊細な性格でひどく緊張していたうえ、彼女自身、今後、他の卒業生もCUに紹介するためには企業文化を知っておきたいとの思いがあり、入社時に行われた2週間の研修を生徒と一緒に受けたという。

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2年間の訓練を終えて卒業間近な生徒たちに企業支援金の受け取りについて説明するウンドラルさん(2024年6月撮影)

その後、2022年11月のマレーシア研修や、翌2023年8月の本邦研修も受講してジョブコーチトレーナーになったウンドラルさんは今、DPUB2の研修の意義をさまざまな場面で感じている。「ジョブコーチになる前の私は、卒業生をいかに一人でも多く就職させるかということだけ考えていましたが、今は企業がどんな人材を求めているか、そしてどうすれば卒業生が紹介した職場に長期的に定着できるのかという視点からも考えられるようになり、視野が広がりました」と振り返るウンドラルさん。さらに、ジョブコーチトレーナーとして、他の15人のトレーナーたちと連携し合えるようになったことで、卒業生の就職支援もいっそう円滑に進められるようになったと感じている。

専門技術を教える指導員とも知見を共有

そんなウンドラルさんは、同校の教職員もジョブコーチ養成研修に毎回2人ずつ派遣している。実際に専門技術を教える指導員にもジョブコーチの知見があれば、生徒一人一人に合った指導を提供することができ、いい就職につながると考えているからだ。

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クッキー生地の扱い方を指導する デルゲルジャルガルさん(2024年6月撮影)

冒頭のベーカリー製造クラスでパンやクッキーの作り方を教えていた デルゲルジャルガルさんも、ウンドラルさんの勧めでジョブコーチ養成研修を受講した一人だ。この学校で27年間、調理を教えているデルゲルジャルガルさんは、「研修を受け、ただ調理の技術を指導するだけでなく、企業に啓発を行う必要性を理解しました」「生徒たちが少しずつ技術を身に付け、成長していく姿を見ていると、こちらが励まされます」と話す。

また、2020年からこの学校で裁縫を教えている ザグドツェンドさんは、「はじめのうちは“障害について何も知らなくても裁縫は教えられるだろうと思っていたのですが、実際はとても大変でした」と振り返る。
「特に、知的障害者と接する時には、知識と工夫が求められるうえ、脳性まひがある人の身体の状態もそれぞれ違うのだと知りました」「ジョブコーチ養成研修を受講し、一人一人に合った合理的な配慮が必要であることを学んだため、もう生徒たちの言動にも驚かないし、それぞれの様子に気を配れるようになりましたよ」と話すザグドツェンドさんの表情には、自信が浮かんでいる。

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教え子たちの作品とともに微笑む ザグドツェンドさん(右)とウンドラルさん(2024年6月撮影)

社会のニーズに応えて意欲的に組織を改革

2016年5月から8年間にわたり職業訓練学校の校長を務めた後、2024年6月に国立リハビリテーションセンターのセンター長代理に就任した アルトマさんは、「モンゴルは2009年に障害者権利条約を批准し、2016年2月には障害者権利法を制定したため、障害に対する考え方もだいぶ変わりつつあります。特にこの5~6年は目覚ましい変化があります」と話す。
アルトマさんは、職業訓練学校の校長を務めていた間にいくつか組織改革を行った。まず着手したのが、訓練期間の延長だ。同校の生徒には、他の職業訓練校に比べて重度の障害者が多いことに気付いたアルトマさんは、それまで1年だった訓練期間を2年に延長することを決めた。

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職業訓練学校の校長を務めた後、2024年6月から国立リハビリテーションセンターのセンター長代理を務めている アルトマさん(2024年6月撮影)

また、企業や障害当事者などから幅広くニーズを聞いて訓練内容も拡充した。たとえば、通学が難しい障害者のために、自宅から受講できるオンラインのコンピューターコースを開講したほか、国営企業の要望を受けて事務職やサービス職を養成するコースも開始した。さらに、カシミア工場の要望を受けて織機の操作方法を指導するオーダーメイド型コースの提供も始めた。相次ぐ意欲的な改革によって、アルトマさんが校長に在任中にコースの数も生徒数も倍増した。

そんなアルトマさんがウンドラルさんに寄せる期待は高い。「ここを卒業してもすぐに就職できる人は3~4割にとどまり、6割以上は就職できていません。だからこそ生徒たちと民間企業をつなぐジョブコーチの存在は重要です」「彼女はそのことを十分に自覚し、自身の役割を果たそうと正面から取り組んでくれています」と微笑むアルトマさんからは、ウンドラルさんへの信頼が伝わってくる。
さらにアルトマさんは、モンゴル社会が近年、深刻な人材不足に直面していると指摘。「特に、理学療法士や作業療法士など障害者のリハビリテーションをサポートする医療従事者の不足が深刻です」としたうえで、「職業訓練学校で新たなコースを立ち上げ、リハビリ病院や装具工場とも一層連携を深めながら人材を育成し、国立リハビリテーションセンター全体としてこの問題に取り組んでいくつもりです」と、意気込みを見せる。

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ベーカリークラスには、香ばしくて甘い香りと、和気あいあいとしたあたたかい笑顔が溢れている(2024年6月撮影)

異なる業界からこの分野に飛び込み、驚きや戸惑いの連続の中で「まずは1年」「もう1年」と地道に努力を続けながら8年にわたり経験を重ね、障害に対する理解を深めてきたウンドラルさん。「DPUB2との出会いを通じて、一人で取り組むよりも教員が一丸となってチームとして取り組んだ方が生徒たちの可能性を広げられることに気付きました」という彼女の言葉からは、試行錯誤しながらも一途に取り組んできたここまでの歩みへの自負と、周囲への信頼が伝わってくる。さらにウンドラルさんは、使命感と決意のこもった声で、「ジョブコーチがもっと多くの人に知られ、社会の仕組みとして広まるように、ジョブコーチの普及活動にも力を注ごうと思います」と続けた。

2016年に障害者権利法が公布され、中央に「障害者国家委員会」、全県およびウランバートル市に「障害者支部委員会」が設置された後、関係機関の円滑な連絡調整を行うことを目的として2018年に設立された障害者開発庁は、DPUB2を共に実施する合同調整会議(JCC)のメンバーである。
その傘下にある国立リハビリテーションセンターが運営するこの職業訓練学校は、重度の障害者に2年かけて職業訓練の機会を提供するなど、モンゴルの障害者にとってこれまでも重要な就労の入り口となってきた。事実、この連載で紹介してきた優良事例の中 にも、同校で訓練を受けて仕事に就いた人々が多く登場している。 オフィスビルやショッピングセンターなどの清掃を請け負っているユニサービス・ソリューションズで屋外の清掃に精を出すゾルバヤルさんをはじめ、世界最大級のネットワーク型フィットネスクラブのゴールドジムで清掃や器具のメンテナンスをしているホブトゥグルドさん、化粧品メーカーのモノスコスメティクスの工場で商品を箱詰しているシジルムンフさん、そしてノンバンク金融機関であるネットキャピタルファイナンシャルグループのコールセンターでオペレーターとして働くプレブスレンさんは、皆、この学校の卒業生だ。モンゴル社会のネットワークの濃さを実感させられる。
そんな同校の教務課で働くウンドラルさんや、専門技術を教える指導員たちもDPUB2の研修を受講し、日々の業務に生かすようになったということは、今後、障害当事者がここで職業訓練を受け、就職の相談をし、企業に就職するまで、一貫してジョブコーチの支援を受けられるようになることを意味している。さらに、アルトマさんも指摘する通り、今後、リハビリテーション病院との連携を一層強化することで同校の役割はさらに拡大すると期待されており、同校でジョブコーチの知見を有する人材が活躍する意味は大きい。

モンゴル社会における障害者雇用の優良事例を訪ねてさまざまな企業を紹介してきたこの連載も、今回が最終回となる。国立リハビリテーションセンターの取り組みを最後に取り上げることで、ジョブコーチ制度の定着とさらなる発展、そして開発庁とDPUB2の絆の深化を願いたい。

これまでご愛読いただきありがとうございました。

組織の概要

組織名 国立リハビリテーションセンター内の職業訓練学校
事業 成人障害者向けの職業訓練
従業員数(職業訓練学校) 教職員16人(2024年6月時点)
障害者数(職業訓練学校) 生徒約240人(1学年約120人)(2024年6月時点)
ジョブコーチを導入したきっかけと運営の工夫 ・就職指導の担当者がDPUB2のジョブコーチ入門セミナーに自ら手を挙げ参加。その後、マレーシア研修や本邦研修などにも参加し、ジョブコーチトレーナーになり、生徒たちを企業に紹介する際に知見を生かしている。
・専門技術を教える指導員たちも毎回2人ずつジョブコーチ養成研修に派遣し、日々の指導に知見を生かしている。

ジョブコーチ就労支援サービスとは

ジョブコーチを通じた障害者と企業向けの専門的な就労支援サービスのことで、モンゴル障害者開発庁が中心となって2022年6月から提供が開始された。
このサービスを通じて、今後、年間数百人の障害者が企業に雇用されることが期待される一方、障害者の雇用が難しい企業には、納付金を納めることで社会的責任を果たすよう求められている。