「プロジェクトニュース(障害者雇用の優良事例)」Case13 経営から障害者雇用の仕組みまで日本に学ぶブリッジグループ

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~ 障害者雇用の現場から CASE 13 ~

「大好きな清掃業務で社内を美しく」

会議室を掃除するエルデネチメグさん(左)と、同僚のダワスレンさん。エルデネチメグさんには、心室中隔欠損症と、口唇裂・口蓋裂による言語障害がある

会議室を掃除するエルデネチメグさん(左)と、同僚のダワスレンさん。
エルデネチメグさんには、心室中隔欠損症と、口唇裂・口蓋裂による言語障害がある

グループを挙げて育む日本との深い絆

ウランバートルの東に広がるバヤンズルフ区に、日本と深い絆のある企業がある。ブリッジグループ。モンゴルと日本の間をつなぐ架け橋(ブリッジ)になる、という目標を掲げ、1991年に翻訳会社として創業した。その後、着実にビジネスを拡大し、3つの子会社と、4つの関連会社を擁するグループ企業へと飛躍的に成長を遂げた。日本の四輪車と二輪車メーカー、スズキや、タイヤメーカーのブリヂストンと代理店契約を結び輸入販売業を営む子会社や、日本の化粧品と健康サプリメントの製造販売メーカー、DHCの商品を輸入する子会社、さらに、モンゴル産のチーズやバターなどの乳製品や、肉を製造・加工して日本に輸出する関連会社など、同グループが手掛けるビジネスは幅広く、モンゴル企業の中でも、特に日本との絆が深い。正社員はグループ全体で約100人だが、乳製品の生産や肉の加工が佳境を迎える時期には、さらに100人を契約社員として雇用し、地方4カ所とウランバートル市内の加工工場で、乾燥や袋詰めなどの作業をしてもらっている。

モンゴルのヤクの乳から作ったバター (c)ブリッジグループのFacebookより

モンゴルのヤクの乳から作ったバター
(c)ブリッジグループのFacebookより

子会社のうちの1社は、日本のスズキやブリヂストンと代理店契約を結んで四輪車やタイヤなどの輸入販売を行っている

子会社のうちの1社は、日本のスズキやブリヂストンと代理店契約を結んで四輪車やタイヤなどの輸入販売を行っている

そんなブリッジグループは、モンゴル日本センターが定期的に開催するビジネス研修に幹部職員や従業員を参加させるなど、日本式マネジメントを経営に取り入れている。さらに、障害者雇用も積極的に進めており、現在、4人の障害者が社員として働いているという。

その1人、エルデネチメグさんは、清掃部に所属している女性だ。同社は、20年前から日本大使館の清掃作業を請け負っており、9人のメンバーのうち2人を大使館に派遣し、残り7人が手分けしてグループ内を清掃している。朝晩の冷え込みが厳しくなってきた2022年12月初旬、エルデネチメグさんに会うために、ブリッジグループを訪ねた。

仲良しの同僚から手順を学ぶ

エルデネチメグさん(左)とダワスレンさんは、自他ともに認める大の仲良しで、休憩時間にはいつも一緒に語り合っているという。

エルデネチメグさん(左)とダワスレンさんは、自他ともに認める大の仲良しで、休憩時間にはいつも一緒に語り合っているという。

エルデネチメグさんが満面の笑顔で部屋に入ってきた瞬間、辺りが明るくなった。性格の好さが伝わるはにかんだ表情と小柄な背格好のせいか、52歳という実年齢とは裏腹に、かわいらしくて初々しい印象だ。

ブリッジグループとして採用した3人目の障害者だというエルデネチメグさんは、心室中隔欠損症を患っているうえ、口唇裂・口蓋裂が原因の言語障害もある。

運転手をしていた父親と、シェフとして働いていた母親の間に生まれた。7人兄弟の上から5番目。障害があるのは彼女だけだった。口唇裂・口蓋裂による言語障害は手術を受ければある程度治ると言われているが、その機会がなかったエルデネチメグさんは、学校に通って読み書きも習うことがないまま大人になった。現在は、妹夫婦とその2人の子どもたち、16歳になる自分の息子、そして姉と一緒に暮らしている。

ブリッジグループで働き始めたのは、10年ほど前のこと。同社で警備員として働いていた兄から紹介されたのがきっかけだった。勤務は週に5日、朝7時半から夕方16時半までの9時間だが、仕事が大好きで、毎朝7時には出社しているという。その思いは働きぶりにも表れており、「エルデネチメグさんが掃除してくれるといつもぴかぴかだ」と、社員からの評価も高い。人事と清掃部の統括を兼任するエンフイレデュイさんも、「エルデネチメグさんは、技術の高さが認められた人にしか任されない管理職の執務スペースの清掃も担当しているんですよ」「いつもにこにこ笑顔でコミュニケーション力があり、皆に愛されています」と、太鼓判を押す。年に一度、社内で表彰される優秀社員にも、エルデネチメグさんはこれまで3回、選ばれたという。

床掃除からガラス拭きにいたるまで、一連の掃除の手順は、すべて同僚のダワスレンさんが教えてくれた。2008年からここで働いているエルデネチメグさんの先輩で、4階部分に入居している子会社や関連会社のオフィススペースの掃除を担当している。エルデネチメグさんと担当場所は異なるが、お互いの子どもの年齢が近いこともあって、2人は大の仲良し。いつも一緒に休憩室でくつろぎながらいろいろな話をしているという。前出のエンフイレデュイさんは、「エルデネチメグさんは携帯電話を持っていないので、用事がある時はダワスレンさんに電話します。2人は休憩時間にはほとんど一緒にいるので、だいたいつながりますよ」と、いたずらっぽく笑った。

バヤンズルフ区になる社屋には、ブリッジ本社のほか、傘下にある子会社や関連会社が入居している

バヤンズルフ区になる社屋には、ブリッジ本社のほか、傘下にある子会社や関連会社が入居している

「気を遣い過ぎない」という配慮

大学でビジネスを専攻した後、人事に関心を持つようになったというエンフイレデュイさん。卒業後、別の企業で1年間、人事を経験してから、2013年にブリッジグループに入社した。清掃部の統括も兼任している。

そんなエンフイレデュイさんが、通算9年にわたる人事の業務を通じて気付いたことがある。障害者は非常に繊細で傷つきやすい一面があるが、その一方で、特別扱いし過ぎると、かえって落ち込んでしまうことがあるため、極力、他の人と同じように接した方がいいということだ。エルデネチメグさんも、言語障害があるからと気を遣って人前で発言させないようにすると、逆に自分と周囲の違いについて考え込む傾向があると気付いたエンフイレデュイさんは、月に一度、清掃部内で開く会議で、補充が必要な掃除用具や、業務の改善アイデアについて、エルデネチメグさんに発言してもらうことを心がけるようになったという。

ブリッジグループの社屋の裏には、乳製品と肉の生産・加工工場と、スズキの倉庫がある  (c)ブリッジグループのFacebookより

ブリッジグループの社屋の裏には、乳製品と肉の生産・加工工場と、スズキの倉庫がある
(c)ブリッジグループのFacebookより

その一方で、「障害者を雇用する難しさもあると聞いています」と、エンフイレデュイさんは顔を引き締める。一般的な話として、清掃や力仕事など身体を動かす職種の場合、「軽いものしか運ぶことができない障害者と自分の給料がなぜ同じ金額なのか」という不満が寄せられやすいと聞いたことがあり、もし自分がそう尋ねられたらどう答えればいいのか、考え続けているという。

「簡単に答えが出ない場面もありますが、通勤手当や有給休暇など、特に福祉に関する制度は丁寧な説明を心掛けています」「人事としては、本人が職場でどんな様子かというだけでなく、家族関係や家庭環境も含めて把握する必要があることに気が付きました」

ブリッジグループでは、エルデネチメグさん以外に3人の障害者が働いているが、内部障害ということもあって、彼らは障害を周囲に隠しているという。「車椅子ユーザーのように、見た目で分かるわけではない障害の場合、モンゴル社会ではまだまだ認知度が低く、理解もされていません」と、エンフイレデュイさんは話す。

実は、エンフイレデュイさん自身、以前は障害者と接することが怖かったという。手話が分からない自分にコミュニケーションが取れるとは思えなかったし、どう接すればいいか分からず不安だったのだ。しかし、エルデネチメグさんと一緒に働くようになって、障害の有無に関わらず、適切な配慮と環境があれば、皆が働けることを理解してもらえたことで、自信が持てたという。「今後、道端で障害者を見かけたら、躊躇せず自分から話しかけようと思います」と話すエンフイレデュイさん。「大手企業と違い、弊社は障害者雇用の経験がまだ浅いうえ、障害者側もどんな仕事であれば自分にもできるのか分からない人も少なくありません。両者をマッチングしてくれる専門職はありがたいです」と、DPUB2のジョブコーチにも期待を寄せる。

エンフイレデュイさんが指摘する通り、モンゴル社会では障害者に対する理解がまだ十分とは言えない。その一方で、企業が求人を出しても障害者からの応募はなかなかなく、エルデネチメグさんのように家族や知り合いから紹介されたケースがほとんどだ。障害者の就労を促進し、さまざまな障害者が当たり前のように活躍できる社会を実現するために、DPUB2が育成するジョブコーチには大きな役割が期待される。ブリッジグループが、経営面にとどまらず、ジョブコーチを活用して障害者雇用の面でもモンゴル社会の先進事例となれば、日本とモンゴルの架け橋として、より一層、独自の存在感を発揮することは間違いない。

企業概要

企業名 ブリッジグループ
事業 ・翻訳
・清掃業
・乳製品の製造と輸出
・肉の加工と輸出
・スズキの四輪車や二輪車の輸入と販売
・ブリヂストンのタイヤの輸入と販売、など
従業員数(ブリッジグループ全体) 約100人(2022年12月時点)
障害者数(ブリッジグループ全体) 約4人(2022年12月時点)
(言語障害、内部障害)
雇用のきっかけ ・警備員として働いていた兄からの紹介など
雇用の工夫 ・同僚とペアを組ませて作業内容を指導する
・言語障害に配慮し過ぎず、会議の際には発言もしてもらう

ジョブコーチ就労支援サービスとは

ジョブコーチを通じた障害者と企業向けの専門的な就労支援サービスのことで、モンゴル障害者開発庁が中心となって2022年6月から提供が開始された。

このサービスを通じて、今後、年間数百人の障害者が企業に雇用されることが期待される一方、障害者の雇用が難しい企業には、納付金を納めることで社会的責任を果たすよう求められている。