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「プロジェクトニュース(障害者雇用の優良事例)」Case20 UB グランドホテル

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ホテルの調理場で腕を振るう聴覚障害者

「ジョブコーチの働きかけによって育まれた信頼と笑顔」

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調理場で働く聴覚障害者のバドバドルさん(右から3番目)を囲んで、
ジェネラルマネジャーのオユンツェツェグさん(右から2番目)、
ジョブコーチのチメグスレンさん(中央)、
ジェネラルシェフのプレブドルジさん(左から2人目)と、
レストランフロアの同僚たち(2023年6月撮影)

宿泊客の朝食やまかない作りを担当

ウランバートルの街の中心に広がる、石畳敷きのスフバートル広場。モンゴル革命を率いた国民的英雄、スフバートルの騎馬像を中央に擁し、北側にそびえる白い重厚な政府庁舎の前には、モンゴル帝国の初代皇帝、チンギス・ハーンの像が端座するこの広場は、この国の歴史を今に伝える観光名所であると同時に、季節ごとにコンサートや子ども向けアトラクション、式典などが開かれ、市民の憩いの場ともなっている。

2019年、このスフバートル広場と政府庁舎の東側に新しいホテルが開業した。モンゴル資本のサンジェム社が経営するUBグランドホテルだ。晴れた日には、17階建ての建物が青い空によく映える。全45室の客室のほか、レストランやコーヒーショップ、レンタルオフィスなどもあり、立地の良さから外国人客の利用が多いという。

フロントや客室清掃、調理スタッフなど約40人が働くこのUBグランドホテルで、2022年8月から一人の聴覚障害者の男性が働いている。調理場で働くバドバドルさんだ。宿泊客の朝食の準備や従業員のまかない作りを任されているほか、他の調理スタッフの補助にも入ることもある。朝の8時半から夜は22時まで、長時間勤務であるため、2日働いて2日休むシフト制だ。昨年のクリスマスや忘年会の時期は忙しくて大変だったが、とても楽しかったと笑うバドバドルさん。「子どもの日(6月1日)にも、ピザをたくさん焼いたんですよ。上手に焼けるようになりました」と、笑顔が弾ける。

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UB グランドホテルは5年前、ウランバートル市の中心部にあるスフバートル広場に面した好立地に開業した(2023年6月撮影)

バドバドルさんは、ヘンティ県の出身だ。7人兄弟の中でバドバドルさんだけが聴覚に障害がある。1歳の時に受けた注射が原因で、まず左耳の聴力を失い、少し聞こえていた右耳もしばらくして聞こえなくなった。ウランバートルの特別支援学校に通うために実家を出たバドバドルさんは、寮で暮らしながら学校に通い、2003年に同級生だった聴覚障害者の女性と結婚。2人の娘に恵まれた。

従業員の理解を促しながら受け入れ環境を整備

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バドバドルさんをUB グランドホテルに紹介した、ジョブコーチのチメグスレンさん

バドバドルさんがUBグランドホテルで働くことになったのは、DPUB2の養成研修を受けてジョブコーチになったチメグスレンさんの紹介がきっかけだ。以前は肉の加工会社で小麦粉の皮にひき肉の餡を包んで蒸し上げるモンゴルの国民食、ボーズを作っていたが、2021年に突然、コロナ禍による不景気を理由に不本意な形で解雇されたバドバドルさんが、困ってSNSで見かけたチメグスレンさんのデブチフ職業紹介所(「成功」の意味)に登録したのを機に、二人は知り合った。

2020年にデブチフ職業紹介所を立ち上げたチメグスレンさんは、下肢障害者をはじめ、さまざまな障害者やその家族から「働きたい」という相談を受けることが続いたことから、「彼らに適切な職場を紹介できるようになりたい」と考えるようになり、ジョブコーチを志したという。バドバドルさんにホテルを紹介したのは、調理スタッフならば彼のボーズ作りの経験を生かせるのではないかと考えたからだ。デブチフ職業紹介所としてもホテルに何人か紹介したことがあり、顔馴染みだったジェネラルマネジャーのオユンツェツェグさんに相談しつつ、ホテルの従業員向けに障害理解セミナーも開き、熱心に働きかけた。

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UBグランドホテルのCEO、ナンディンツェツェグさん(右)と、ジェネラルマネジャーのオユンツェツェグさん(2023年6月撮影)

オユンツェツェグさんは、ドイツに留学した経験があり、ヨーロッパ各地のホテル業界で長年にわたりキャリアを積んできた人物だ。その豊富な経験を買われ、UBグランドホテルの開業にあたって招かれた彼女は、モンゴルでも、障害者権利条約の批准をはじめ、社会貢献の機運が急速に高まっていることを実感し、ホテルとして対応策を検討する必要性を感じていたという。オープニングスタッフの採用を通じて知り合ったチメグスレンさんからバドバドルさんを紹介されたのは、そうしたタイミングだった。

最初に話を聞いた時は、バドバドルさんが正式な調理師免許を持っていないために清掃担当として採用しようと考えていたオユンツェツェグさんだが、実際に面接してみると、調理の仕事に対するバドバドルさんの意欲が高く、器用で飲み込みが早いことも分かったことから、1カ月の試用期間後、CEOのナンディンツェツェグさんの了承も得たうえで、特別に調理補助として採用することを決めた。

受け入れ準備も、チメグスレンさんと一緒に相談しながら進めた。社内の規定や仕事の手順書は、見返すことができるようにプリントアウトして手渡し、仕事上必要な細かい指示はスマートフォンでテキストを送ることにした。また、調理場のあちこちに置かれた電化製品や高温調理器具、床に飛んだ水はねへの注意を喚起するために、チメグスレンさんの発案で「熱い」「感電に注意」「滑るな危険」といった注意書きとイラストを掲示した。

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調理場の壁には安全意識を喚起するために、言葉とイラストで注意書きが掲示されている(2023年6月撮影)

戸惑いから一転、職場に広がる笑顔

障害者を雇用する際は、前述のように、働くうえで障害があるために生じる困難を解消したり軽減したりするために職場環境を整備し調整する「合理的配慮」が必要だ。しかし、それと同じぐらい欠かせないのが、受け入れる社員たちの理解だ。オユンツェツェグさんは、バドバドルさんを雇用することを従業員に初めて伝えた時のことを、「皆、たいそう驚いていましたね。障害者に何の仕事ができるのだろう、といぶかしく思っている様子が伝わってきました」と振り返る。

そのうえで「チメグスレンさんがジョブコーチとして、全従業員とレストランスタッフ向けに障害の特性について繰り返し説明し、理解の促進を働きかけてくれたことで、皆の不安が和らぎ、安心して雇用することができましたよ」と続ける。

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従業員のまかないを準備するバドバドルさん(2023年6月撮影)

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バドバドルさんと一緒に働く調理場スタッフたち(2023年6月撮影)

さらに、CEOのナンディンツェツェグさんとオユンツェツェグさんは、バドバドルさんが入社して以来、ホテル内の雰囲気が以前に比べて明るくなったのを感じているという。ナンディンツェツェグさんが「手話ができる従業員はいませんが、お互いにジェスチャーを楽しんでいます。コミュニケーションが大変だ、と苛立つ人はいません」「まかないを作ってくれる彼のことは、全従業員がよく知っていますよ」と言えば、オユンツェツェグさんも「つい先日もバドバドルさんが親戚の都合で休みがほしいと絵を描いてきて、皆でそれを見ながら理由を類推し合って一緒に大笑いしたんですよ。彼の周りはいつも明るい笑いで溢れています」と話す。

また、調理場でバドバドルさんと一緒に働いているジェネラルシェフのプレブドルジさんも、「調理場スタッフとレストランスタッフが皆で話し合い、バドバドルさんが一人にならないよう、常に気を遣っています」と話したうえで、「バドバドルさんは、教えたことをしっかり守ってくれるので安心して任せることができます。彼が作る饅頭はおいしいですよ」と笑った。

「障害者をサポートする専門職」がつくる就労事例

一方、ジョブコーチのチメグスレンさんは、バドバドルさんの変化も感じている。最初に会った時はおどおどして人見知りだった彼が、ここで働き始めてみるみる快活になっていったという。

最初の3カ月間はほぼ毎日、ホテルに顔を通ってバドバドルさんの様子を観察したり、オユンツェツェグさんから話を聞いたり、従業員たちに障害の特性を繰り返し説明したりしていたチメグスレンさんも、バドバドルさんが同僚たちに囲まれて笑顔を見せるようになった頃から次第にホテルに行く頻度を減らしていった。今は時折、ビデオコールをする程度だという。

さらにチメグスレンさんは、「バドバドルさんが今後、調理師としての資格を取ることができるように、オユンツェツェグさんたちが今、働きながら研修を受けられるところを探してくれているそうです。障害者の雇用を進めるためには職場の理解が不可欠ですが、バドバドルさんをこのホテルに紹介して本当に良かったと思います」と、安堵の表情を見せる。

デブチフ職業紹介所では、成人の職業相談にのるだけでなく、将来の進路に悩む中学生や高校生、特に障害のある子どもたちの相談にも力を入れているという。「その子たちのためにも、目標となるような就労事例を多くつくりたいのです」と話すチメグスレンさん。その口調は穏やかだが、強い使命感に満ちている。

そんなチメグスレンさんには、バドバドルさんも高い信頼を寄せており、「もし、前の職場にもジョブコーチがいてくれたら、僕は辞めなくてすんだかもしれません。ここでは、チメグスレンさんのおかげで、他の従業員と対等に、楽しく働くことができています」と、満足気だ。

ナンディンツェツェグさんとオユンツェツェグさんも、「今回、初めてジョブコーチについて知りました。障害者をサポートする専門職は、企業にとってありがたい存在です」「今後はホテルの従業員もDPUB2の研修に参加させ、障害者を積極的に受け入れられるように準備したいです」と話す。さらにオユンツェツェグさんは、「職場は人生の7割の時間を過ごす場所です。一緒に美味しい料理を食べながら楽しく働ける職場を作っていきたいですね」と、微笑んだ。

UBグランドホテルの事例からは、ジョブコーチが事前に障害の特性について企業側に説明を繰り返して理解を促し、職場環境を調整したことによって受け入れが円滑に進み、職場の良好な雰囲気が醸成されたことが伝わってくる。これを機に、同ホテルがDPUB2との連携を一層深め、障害者雇用を推進して、障害者と企業、そしてジョブコーチの三者のモデル事例が他企業にも大きな示唆を与えることが楽しみだ。

企業概要

企業名 UB Grand Hotel(親会社:SUNGEM LLC)
事業 ホテルの経営
従業員数 約40人(2023年6月時点)
障害者数 1人(2023年6月時点)
雇用のきっかけ ・モンゴル社会で障害者法定雇用率の遵守や企業の社会的責任が求められる風潮が高まっているのを感じていた時にジョブコ―チから連絡を受けた
雇用の工夫 ・ジョブコ―チがホテルの授業員向けに複数回、障害理解を促進するための説明会を開催
・ジェスチャーやメッセージパッド、イラストなどを通じて柔軟にコミュニケーションを楽しむ
・「熱い」「滑るな危険」「感電に注意」といった注意喚起を調理場内に掲示

ジョブコーチ就労支援サービスとは

ジョブコーチを通じた障害者と企業向けの専門的な就労支援サービスのことで、モンゴル障害者開発庁が中心となって2022年6月から提供が開始された。

このサービスを通じて、今後、年間数百人の障害者が企業に雇用されることが期待される一方、障害者の雇用が難しい企業には、納付金を納めることで社会的責任を果たすよう求められている。