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「プロジェクトニュース(障害者雇用の優良事例)」Case27 NetCapital 社

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迅速かつ正確に ——— ノンバンクのコールセンターで働く下肢障害者
多様な人々が共に働くインクルーシブな職場の実現を

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カスタマーセンターでコールセンター業務にあたる下肢障害者のプジェさんことプレブスレンさんは、
同僚たちと仲良しだ。先輩のシネバヤルさん(後列左から2人目)は
「プジェさんは努力家で人柄も良く、頼りになる存在です」と話す。(2024年3月撮影)

失意の事故と、新たに見つけた二つの夢

「契約の更新ですね。ありがとうございます」「お近くでお手続きいただける場所をご案内しますので、ご住所を教えてください」

ピリッとした空気とは対照的に、降り注ぐ日差しからは春の訪れが近づいていることが感じられる3月中旬、ノンバンク金融機関のネットキャピタルファイナンシャルグループ(以下、ネットキャピタル社)のカスタマーセンターでは、7人のオペレーターたちが次々にかかってくる電話にはきはきとした口調で対応していた。ここは、同社のいわゆるコールセンターで、1人のオペレーターが1日に処理する問い合わせは平均90~100本に上るという。パソコンに表示される顧客情報に素早く目を走らせ、一言も聞き漏らすまいと電話に耳を傾けながらパソコンで検索する横顔は、皆、一様に真剣だ。

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プレブスレンさんは、周囲から親しみを込めて「ひげのプジェ」と呼ばれている。(2024年3月撮影)

その中の一人、プレブスレンさんは、車椅子利用者だ。長い髪を後ろで一つに束ね、豊かなあごひげをたくわえた強面の風貌とは裏腹に、笑顔が優しい彼は、同僚たちに親しみを込めて「ひげのプジェ」と呼ばれている。

プジェさんは現在、34歳。ウランバートル市内の実家で両親と妹と暮らし、自分の車で通勤している。19歳の時に建設現場で掘削作業中に崩落した土砂に埋まって脊髄を損傷し、車椅子を利用するようになった。

病院で意識を取り戻した後、手術さえすればまた歩けるようになると信じていたプジェさんにとって、「一生、歩けないでしょう」という医師の宣告は、到底、受け入れることができないものだった。寝たきりの状態からは1年ほどで脱したが、失意のあまりその後もしばらくはふさぎ込み、家から出ない日が続いた。実際、ゲル地区にある自宅の周囲は段差や坂道が多く、外出はままならなかった。

閉じこもるようになって2年が過ぎた頃、転機が訪れた。何気なくテレビをつけると、仕事やスポーツに生き生きと取り組む車椅子利用者たちの姿が紹介されていたのだ。車椅子協会の会員たちだった。「雷に打たれたような」衝撃を受けて協会を訪ねたプジェさんを、スタッフたちはあたたかく迎えてくれた。事故以来、胸の奥に押し込めてきた苛立ちや悔しさにもうなずきながら共感してくれ、気持ちが一気に軽くなったという。

この出来事を機に、プジェさんは少しずつ社会とのつながりを取り戻していった。まず、労働社会保障省の講習に参加して車椅子修理士の資格を取得した後、自動車学校で免許を取得。車椅子協会が車椅子の利用者向けに始めたタクシーサービス業でドライバーとして3年間、働いた。現在のネットキャピタル社に入社したのは、車椅子協会のタクシーサービスがコロナ禍のあおりを受けて中止となり、地元のバヤンズルフ区でしばらく勤務した後の2023年11月のことだった。

再び前を向くようになったプジェさんは、障害者はできる範囲で意識的に身体を動かすよう心掛けた方がいいと聞き、車椅子フェンシングも始めた。「フレーム」と呼ばれる装置に車椅子を固定し、オリンピックフェンシングで使われているのと同じユニフォームやマスク、剣を使って上半身のみで競技を行うスポーツだ。

2022年からは毎年、国内大会に出場しており、2024年1月には銀メダルを獲得した。中国の遼寧省瀋陽市で開かれたアジア大会に遠征したこともある。「4年後か、8年後には、モンゴル代表としてぜひパラリンピックに出場したいです」と、夢を膨らませる。歩けなくなったことに絶望し、閉じこもっていた頃の姿は、もうない。

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プジェさんは車椅子フェンシングの選手としても精力的に活躍している。(本人提供)

「障害ではなく、能力を見る」ことを学んだ人事マネジャー

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ネットキャピタル社は預金を取り扱わないノンバンクの金融機関として、2008年に創業した(ネットキャピタル社提供)

プジェさんが働くネットキャピタル社は、預金を取り扱わないノンバンクの金融機関として、2008年に創業した。

社会主義体制下で計画経済が長く続いていたモンゴルでは、1992年に大統領制への移行が実現し、新憲法が施行された後にようやく商業銀行が設立されるようになった。ほどなくして国内初の証券取引所も開設され、証券市場も飛躍的に発展する。しかし、消費者金融や事業金融、クレジットカード、信販、ベンチャー・キャピタルなどの、いわゆるノンバンクの金融機関が登場したのは、それからさらに数年後、保険に関する法律が整備され、損害保険会社や生命保険会社が誕生してからのことだった。

不特定多数の人々から資金を集めて貸し出す預金取扱金融機関とは異なり、銀行借入や社債などによって資金を調達して小口化し、個人や中小企業を相手に融資や投資を行うノンバンクは、「簡易な手続き」「迅速」「無担保でも対応」などの特徴から、この国でも徐々にその存在感を増しつつある。

ネットキャピタル社も、「デジタル時代におけるフィンテックの深化」を社是に掲げ、総合金融サービスの提供にまい進してきた。いまやウランバートル市内に14支店を展開しているうえ、国内21県すべてに出店を果たし、支店数は計39、顧客は10万人以上を誇っている。

そんな同社では、2024年6月現在、約500人が働いている。障害者の人数はいまだ3人にとどまっているが、人事マネジャーのエルデネブレンさんが先頭に立ち、同社の年間計画や四半期計画、週計画に障害者雇用の数値目標を盛り込むなど、障害者の雇用拡大に社を挙げて取り組み始めている。その理由としてエルデネブレンさんは、雇用法定雇用率が制定され、企業の社会的責任(CSR)の機運が高まっていることを挙げたうえで、「地方展開に伴い支店の新設が加速しており、慢性的に人手が足りていません」と打ち明ける。

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ネットキャピタル社はウランバートル市内に14支店を展開しているうえ、21県全県に進出を果たしている(ネットキャピタル社提供)

エルデネブレンさんが障害者雇用について考えるようになったのは、DPUB2との出会いがきっかけだ。2023年1月に受講した企業啓発セミナーと、その後、同年3月に受講したジョブコーチ養成研修について、「障害者と接する時、障害ではなく能力こそ見なければならないということが特に印象に残っています」と振り返る彼女は今、人材の多様化に取り組んでいる。金融機関である以上、商品説明は金融の専門家が行わなければならないため、まずは専門知識が不要で、インターネット環境さえあればリモートワークが可能なオペレーターとして障害者を積極的に雇用する予定だという。

DPUB2から広がる縁

一方、前出のプジェさんも、DPUB2の卒業生だ。バヤンズルフ区で勤務していた時に、障害者委員会で代表を務めるムンフヒシグさんからジョブコーチ養成研修に参加した話を聞いて、DPUB2の活動に興味を持ったという。ムンフヒシグさんに、「あなたは当事者の立場から企業の意識啓発を行う人材になればいいのでは」と勧められ、2023年6月に開かれた企業啓発セミナーに参加。さらに、同年9月のフォローアップにも参加し、翌10月には実際に企業の人事担当者向けにひらかれた啓発セミナーでファシリテーターを務めた。

その後、プジェさんが自分でも転職活動を始めてネットキャピタル社に応募し、エルデネブレンさんと出会ったのはまったくの偶然だが、DPUB2で学んだ人たち同士の縁がつながっていったことには不思議な巡り合わせを感じずにいられない。事実、プジェさんはオンラインで同社の面接を受けた際、「わが社で働くことになったら、事前にどんなことを準備してほしいですか」「良ければ一度、職場環境を見にいらっしゃいませんか」という気配りあふれる言葉をかけてもらい、嬉しさがこみ上げたという。

そんなプジェさんには、エルデネブレンさんも最初からいい印象を抱いたという。彼女は、「カスタマーセンターにかかってくる電話の中には、問い合わせというよりも、苦情や文句に近いものもあるし、怒鳴られることもあり、決して楽な仕事ではありません」と言う。そのうえで、「その点、プジェさんは人当たりが良く、初めての人にも明るく接して相手の気持ちを和らげることができるうえ、スポーツマンで精神的にも自立しているので、周りの社員にもいい影響があると思いました」と振り返る。

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カスタマーセンターの様子。パソコンで素早く情報を調べながら顧客からの電話に答える横顔は、皆、一様に真剣だ。(2024年3月撮影)

プジェさんの入社が正式に決まると、カスタマーセンターの社員たちは皆で相談して車椅子が通りやすいように机の配置を変えたり、床の上にあったLANケーブルや電気の延長コードを撤去したりして受け入れた。

プジェさんの先輩にあたるシネバヤルさんは、「オペレーターの仕事は、聞かれたことに対していかに早く、かつ正確に答えられるかが重要です」と指摘したうえで、「プジェさんは努力家で、よく聞かれる質問や情報の調べ方をすぐに覚えて適切に説明できるようになったし、コミュニケーション力が高くてお客様とのやり取りも上手なので、頼りにしています」「いつも朗らかなので、静かだったカスタマーセンターの雰囲気がずいぶん明るくなりました」と、微笑む。

オフシーズンは基本的にカスタマーセンターで終日勤務し、試合が近くなると、午前中はフェンシングの練習に出て午後から出勤しているプジェさん。どちらも手を抜かず真摯に取り組む姿に、同僚たちもあたたかいまなざしを注いでいる。シネバヤルさんは、「プジェさんの試合とインタビューをテレビで見ました。とても素敵で誇らしくなりました」と話したうえで、「何事にも全力で取り組むプジェさんの人柄を知れば知るほど、障害者への敬意の念がわいてきます。彼らを取り巻く社会的な環境にも関心を持つようになりました」と、熱く話してくれた。

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2024年1月の国内大会では銀メダルを獲得した。(本人提供)

社内に広がる平等の意識

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プジェさん(左から3人目)を採用した人事マネジャーのE.エルデネブレンさん(右から3人目)と、カスタマーセンターの先輩、シネバヤルさん(左から2人目)、そしてチンギルテイ支店の職員たち。(2024年3月撮影)

シネバヤルさんが感じているように、障害者の雇用は障害当事者だけでなく、一緒に働く同僚たちにとっても大きな影響を与える。人事マネジャーのエルデネブレンさんが、「インクルーシブな職場を実現するためには、障害のある人とない人が一緒に過ごし、互いの理解を深めることが不可欠です」と強調するのもそのためだ。同社でマーケティングとPRを担当するボロルさんも、「障害者雇用を進めることで平等の意識が育まれることを期待しています」と話す。同社では支店の拡大を受けてカスタマーセンターの拡大を進める予定で、オペレーターもさらに15人ほど採用する予定だという。エルデネブレンさんは、「障害者を採用する機会にしたいです」と、張り切っている。

今後を見据えて、オフィスのバリアフリー化も急ピッチで進める。カスタマーセンターは現在、ウランバートルの中心部に近いチンギルテイ支店の中に一時的に間借りしているが、2024年末までには新オフィスが完成して入居することが決まっている。新しいオフィスを楽しみにしているプジェさんは、「私をはじめ、これから入社してくる障害のある人たちが居心地よく働くために必要なことを考えてくれる会社の姿勢を嬉しく思っています」と話したうえで、「私自身、DPUB2で学んだ知識を生かしてこの会社の環境整備に協力し、いずれはその事例を他社に共有しながら企業啓発メンバーとしても活動したいです」と、続ける。

「適切なアセスメントや継続的な配慮に関する知識は、障害者雇用の文脈にとどまらず、新人教育の場面でも必要だし、一般の人たちも知っておくべきことだと思います」と力を込めるエルデネブレンさんからは、DPUB2で学んだ内容をしっかり咀嚼し、自分のものとしたうえでいろいろな場面に応用していこうという意欲が伝わってきて頼もしい。さらに、そんな彼女の取り組みをプジェさんが社内でサポートし、一層の意識啓発を働きかけながら積極的に他社に共有していけば、モンゴル企業の中でも説得力のある事例として注目されるだろう。DPUB2が育てた人材が互いに連携しながら企業を内外から変え、インクルーシブなモンゴル社会の実現のために力を発揮する日は、もうすぐだ。

企業概要

企業名 Netcapital Financial Group Non Bank LLC.
事業 ノンバンク事業の運営
従業員数(グループ全体) 約500人(2024年6月時点)
従業員数(ネットキャピタル本社) 約130人(2024年6月時点)
障害者数(グループ全体) 3人(2024年6月時点)
障害者数(ネットキャピタル本社) 2人(2024年6月時点)
雇用のきっかけ ・CSRの機運が高まっていた
・新支店の開設が相次ぎ、人手不足が深刻化していた
・人事マネジャーがDPUB2のジョブコ―チ養成研修と企業啓発セミナーを受講した
・スポーツをしており自立心があるうえ、人当りがよいため、顧客対応に向いていると思われた。
雇用の工夫 ・本採用の前に事前に職場環境を下見してもらった
・車椅子が通りやすいように職場の机を配置替えしたほか、床のケーブルやコードを撤去した
・車椅子フェンシングの選手活動も続けられるように柔軟な勤務時間を認める
・新たなオフィスに移転する(予定)

ジョブコーチ就労支援サービスとは

ジョブコーチを通じた障害者と企業向けの専門的な就労支援サービスのことで、モンゴル障害者開発庁が中心となって2022年6月から提供が開始された。

このサービスを通じて、今後、年間数百人の障害者が企業に雇用されることが期待される一方、障害者の雇用が難しい企業には、納付金を納めることで社会的責任を果たすよう求められている。