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「プロジェクトニュース(障害者雇用の優良事例)」Case28 カシミアホールディングLLC

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カシミア工場で初めて働く脊髄損傷の女性
「障害特性に応じた仕事を通じて社会に出るきっかけを提供」

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カシミアホールディングLLCの工場で微笑むサルタナットさん(中央)と、
人事のガンチメグさん(右)、ジョブコーチのオトゴンバヤルさん(左)(2024年3月撮影)

あたたかく出迎える工場の同僚たち

「久しぶりね」「どうしているだろうかとよく皆で話していたのよ」「元気だった?」――。ミシンや織機がずらりと並ぶ部屋の片隅で明るい会話の花が咲く。出産休暇中のサルタナットさんがこの日、久しぶりに工場に顔を出したため、同僚たちが続々と笑顔で集まって来たのだ。サルタナットさんには脊髄損傷がある。背骨が歪曲しておりスムーズに歩くことはできないうえ、長時間座って同じ姿勢で仕事をすることが難しいが、2023年6月から工場で生地を裁断したり、余計な糸を始末したりする担当として働いている。ひときわ嬉しそうな笑顔を浮かべながら「身体の具合はどう?」と優しく気遣うのは、指導係のバイガルマーさんだ。また、同僚のバイガルマーさんも、「彼女は気立てが良くていいエネルギーを持っているので、皆に可愛がられていますよ」と、顔をほころばせる。

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サルタナットさんは工場で皆に可愛がられている(2024年3月撮影)

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モンゴルで人気のカシミアメーカーの一つ、カシミアホールディングLLCの工場に隣接する旗艦店(カシミアホールディングLLC提供)

ここは、モンゴルで人気のカシミアメーカーの一つ、カシミアホールディングLLCの工場だ。すぐ隣には、同社の旗艦店も併設されている。周囲には飲料メーカーのAPUや、清掃会社のUSSがあるほか、モンゴル帝国のラストエンペラー=ボグドゲゲーン・ジェブツェンダンバホトグド8世が冬季の間、過ごしていたボグドハーン宮殿もこの近くだ。

カシミアホールディングLLCは、社会主義時代の1981年にモンゴル初の羊毛加工工場として操業を開始し、2000年に民営化された。世界的に有名なモンゴル産のヤギカシミアやラクダの毛から保温性に優れた柔らかいセーターやコート、マフラーなどをつくり、ウランバートル市内の2つの路面店と、デパート内に出店している4つの店舗で販売している。これまでに5000種類以上の商品を市場に出し、2001年からは4年連続で最優秀製品賞を受賞した。2005年には「モンゴルのトップ10企業」「ウールとカシミアの最優秀製品」として表彰されたほか、モンゴル最大のファッション・フェスティバル「GOYOL」でも、2007年と2009年に最優秀デザイナー賞を獲得している。

同社の製品の中でも特に人気が高いのが、「EVSEG」ブランドだ。モンゴル語で「平和」「調和」という意味が込められたEVSEGの商品は、日本や韓国をはじめ、ポーランド、イタリア、台湾、中国、ロシア、イタリア、ドイツ、イギリス、スイスなど、アジア各国から欧州までさまざまな国に輸出されているほか、オンライン販売も好調で、売上の7割は海外市場だという。2010年には「最優秀国家輸出業者」としても表彰された。

2021年には大阪・泉佐野市に初めての海外工場も建設。日本式の「5S」(整理・整頓・清掃・清潔・躾)を取り入れて運営を開始した。ゆくゆくは日本工場で作った製品を「Made In Japan」として第三国に輸出することを狙っているという。

働きやすい環境づくりに知恵を絞る人事マネジャー

そんな同社では、工場の製造ラインで約530人、店舗販売員として約70人が働いているのに加え、障害者の雇用も積極的に進めている。前出のガンチメグさんによれば、同社では現在、サルタナットさんのように身体に障害があったり、聴覚障害や内部障害があったりする人を36人(2024年3月時点)、工場で雇用しており、身ごろに袖部分を縫い合わせたり、アイロンをかけたり、手縫い作業や織機の操作を担当したりしているという。もちろん、給与水準は他の社員と同等だ。さらに同社では、4年前から特別支援学校との連携を開始しており、校内に織機や編み機を置かせてもらい、使い方に慣れてもらったうえで卒業生を採用しているという。このほかにも、聴覚障害者と手話ができない社員のコミュニケーション問題を解決しようと、特別支援学校の先生を1年間、定期的に招いて手話の指導や通訳をしてもらうなど、障害者の雇用環境の整備に積極的に取り組んでいる。

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指導係のバイガルマーさんが優しくサルタナットさんを見守る(2024年3月撮影)

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カシミアホールディングLLCの人事マネジャー、ガンチメグさん(2023年11月撮影)

8年にわたり先頭に立って同社の障害者雇用を進めているガンチメグさんは、「こうした取り組みによって、最近ようやく障害者の応募が増えつつあります」「いったん仕事に慣れさえすれば、障害者は集中して取り組んでくれるので生産性が高いんですよ」と話す。さらにガンチメグさんは、「例えば視覚障害者は手の感覚が優れており、非常に質が高い仕事をしてくれるので、ゆくゆくは視覚障害者が作った商品を海外に輸出できたらと思います」「障害によってさまざまな特性があるので、障害者だけの部署を作りたいと考えています」と、夢を膨らませている。

家族と一緒に毎朝出かける誇らしさ

冒頭のサルタナットさんは、小柄なこともあり、一見するとあどけない少女のようにも見えるが、現在、24歳。西方のホブド県の出身で、1840年頃にアルタイ山脈の南麓から北麓へ移動してきたと言われるカザフ族の末裔だ。モンゴル国内に人口の約3.9%、約9万4000人が暮らしているカザフ族は、独自の言語を有し、イスラム教を信仰しながらカザフ文化の伝統を継承し続けている。サルタナットさん自身もイスラム教を信仰しており、9歳になるまで祖母と暮らしていたホブド県ではモスクに通っていたため、今も人前では必ずヒジャブを身に着ける。

そんなサルタナットさんは、人前で歩くことにコンプレックスがあり、ホブド県では満足に通学しなかったという。ウランバートルに出てきて両親と暮らし始めてから民間の職業訓練センターで美容師資格を取ったものの、折からのコロナ禍で働き口はなく、家で過ごしていた。

この工場で働くようになったのは、Facebookで障害者向けの求人グループに登録し、ジョブコーチのオトゴンバヤルさんと知り合ったのがきっかけだ。オトゴンバヤルさんは家の近所まで来てアセスメントをしてくれたという。

最初は袖と身ごろを縫い合わせる部署にいたが、座りっぱなしの作業で背中が痛くなり負担が大きかった。オトゴンバヤルさんの計らいで現在の部署に配置替えをしてもらったという。フルタイムで雇用されて働くのは初めてで、毎朝、早起きして始業時間の8時までに出社しなければならない。大変だが、これまでは仕事に出かけて行く家族を見送っていたため、家族と同じように朝、決まった時間に家を出て会社に向かうことに嬉しさも感じているという。「自分も家族の一員として頑張っているなと誇らしい気持ちになって張り合いを感じます」と、顔を輝かせる。

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カシミアホールディングLLCの旗艦店の前に立つサルタナットさん(左)と、ジョブコーチのオトゴンバヤルさん(右)(2024年3月撮影)

一人一人と細やかなコミュニケーションを心掛けるジョブコーチ

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サルタナットさんを紹介したジョブコーチのオトゴンバヤルさん(2023年11月撮影)

DPUB2で2023年4月に養成研修を受けた後、Facebookを通じて知り合ったサルタナットさんをジョブコーチとして同社に紹介したオトゴンバヤルさんは、彼女と近所の喫茶店で最初に面談した時のことが忘れられないと言い、こう振り返る。「おどおどと店に入ってきた彼女が、挨拶した瞬間、満面の笑顔になりました。素敵な子だなと魅了され、社会参加させるために力になりたいと思いました」。

オトゴンバヤルさんは、DPUB2で習った通り、アセスメントシートを使い本人の身体の具合を確認した後で、家族にもあらためて面談した。父親からは最初、「娘は長年、妹の面倒を見てきたので、子どもの世話は上手です。保育園の仕事はないでしょうか」と言われたが、保育園で複数の子どもを抱きかかえたり世話をしたりするのは身体に負担が大きいと判断し、現在の工場の仕事を紹介することにしたという。カシミアホールディングLLC側にも、工場内で彼女に仕事を教える担当者を配置してほしいと人事のガンチメグさんに依頼した。「最初は緊張していたようですが、次第に心を開いてくれ、仕事が終わると自分から連絡してくれるようになりました」と、嬉しそうにほほ笑む。母親とも仲良しで、頻繁に連絡を取り合っているという。

そんなオトゴンバヤルさんは、高校を卒業後、20年にわたって軍関係の仕事に携わった経歴の持ち主だ。38歳で退職後は、母子家庭で子育てをしている女性や、住む家がない人など、生活に困窮している人たちを救うために社会貢献をしたいと活動するようになった。現在は、大学の同級生で元軍人の夫と2人の息子と暮らしながら、脳性まひがある子どもを支援するNGO「エルフビレグハン」の代表職や軍人女性クラブの会長職を兼任しつつ、忙しい毎日を過ごしている。

さらに、DPUB2の養成研修を受講したことで、「人はいつ障害者になるか分からないし、誰でも歳を重ねれば見えづらくなるし聞こえづらくなります。障害者の問題を解決するということは、社会全体の問題を解決することにつながるということに気が付きました」というオトゴンバヤルさんはジョブコーチとしても積極的に活動しており、Facebookのメッセンジャー機能を通じて相談者一人一人とダイレクトメッセージを交換しながら、これまでに20人以上のアセスメントを行ってきた。もらった連絡には可能な限り早く返信することを心掛けており、早朝や夜中には家族を起こさないようトイレに入って話すこともあるという。また、障害者を企業に紹介する時は、必ず事前に相談したうえで、まずは一人で職場を見に行き、仕事の内容や職場の環境を確認したうえで本人と一緒に行くことも心掛けている。

いろいろな相談にのりながら、企業との面談を土壇場でキャンセルする障害者が少なくないことにも気が付いた。障害者の就労にとっては、当事者が自分に自信を持てるかや、家族の理解が得られるか、そして適切な情報にアクセスできるかがいかに大切か痛感したオトゴンバヤルさん。家族には、障害者が働くことで将来的な自立につながることを理解してもらったうえで、毎朝、決まった時間に起こして仕事に送り出すよう、生活面で協力を依頼する一方、職場の同僚には、うまくできないことがあってもすぐに怒るのではなく、できているところに注目するよう働きかけることを心掛けているという。「障害者を企業にどう紹介したらいいのかや、家族にどう接したらいいのかなど、研修で学んだことを振り返りながら、毎日、頑張っています」と笑うオトゴンバヤルさんの笑顔は、晴れやかだ。

自文化や自分らしさを大切にしながら社会への関心を育む

3月、サルタナットさんに招かれてバヤンズルフ区にある彼女の自宅を訪ねた。この日はちょうどカザフ民族にとって1年で最も大切な春の訪れを祝う「ナウリズ祭り」の日で、サルタナットさんも新疆ウイグル自治区出身でカザフ族の父親と、ホブド県出身でカザフ族の母親、妹、そしてカシミアホールディングLLCで働き始めた後にインターネットを通じて知り合い、結婚した最西端のバヤンウルギー県出身の夫とともに、カザフスタンの衣装を身に着け出迎えてくれた。太陽の祭りという別名もあるとおり、太陽が春分点を通過するという農事歴上も重要な日を祝うこの風習は、イランを中心に、カザフスタンやアフガニスタン、アゼルバイジャンなど、中央アジアからアフリカまで30以上の国々に共通して見られるもので、ユネスコの無形文化遺産にも登録されている。

サルタナットさんのお宅でも、食卓には羊や馬肉の煮汁で炊いた玄米のお粥にヨーグルトを混ぜたクジエと呼ばれる伝統料理をはじめ、ヒツジの頭の丸焼きや、内蔵を取り出して塩を詰め3カ月ほど干した馬肉、7種類の穀物が入ったお菓子などがずらりと並べられ、近所に住んでいる父親の兄弟やその家族たちが入れ替わり立ち代わりやって来ては、食事や会話を楽しみながら春の訪れを祝っていた。

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伝統衣装を着て家族とともにナウリズ祭りを祝うサルタナットさん(中央)(2024年3月撮影)

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サルタナットさんの父親は、長年、モンゴル軍に勤務し、アフリカのスーダンに駐留したこともあるという(2024年3月撮影)

訪問客が途切れるのを見計らい、サルタナットさんが仕事を始めたことについて両親に尋ねてみると、二人とも満面の笑顔で「ようやく働き口が見つかって良かった」「家にいて妹の世話をしていた時の彼女は、引っ込み思案でおとなしかったのですが、働き始めてから、いろいろなことに興味が出てきたようで積極的になりました」と、喜びを隠そうとしなかった。

サルタナットさんはカシミアホールディングLLCに就職後、バヤンウルギー県に住む同じカザフ族の男性と知り合い、結婚。その後、妊娠も分かったため、現在はサルタナットさんの実家で両親や妹、そして夫と暮らしながら出産に備えているが、落ち着いたらぜひまた工場に戻って働きたいと話す。オトゴンバヤルさんとも、今も頻繁に連絡を取り合っているという。

モンゴルに暮らしながら自文化に誇りを持ち続けているカザフ族の人々。その中にも、障害のある人は一定数いる。サルタナットさんをあたたかく受け入れ、見守るカシミアホールディングLLCの社員やジョブコーチ、そして彼女の変化を心から喜ぶ両親の姿からは、歩き方へのコンプレックスから人前に出ることを躊躇して満足に教育を受けられなかったサルタナットさんにとって、同社で働き始めたことがいかに大きな経験であるかが分かる。DPUB2が育成したジョブコーチとも連携しながら、人事部主導で積極的に障害者の採用や職場環境の整備を進める同社の事例は、障害の有無や出身、民族によらず、多様な背景のあるモンゴルの人々が、それぞれの特性を生かしながらともに働ける職場づくりの好事例となることは間違いない。

企業概要

企業名 カシミアホールディングLLC
事業 ・ニットや織物などカシミア製品の製造と縫製
・キャメルウール製品の製造と縫製
従業員数(企業全体) 全体 約600人(2024年3月時点)
店舗 約70人(2024年3月時点)
工場 約530人(2024年3月時点)
障害者数(企業全体) 36人(2024年3月時点)
(身体障害者、聴覚障害者、内部障害者など)
雇用のきっかけ ・ジョブコーチのオトゴンバヤルさんの紹介
・以前から区の労働社会福祉サービ局の紹介など
雇用の工夫 ・聴覚障害者と社員の円滑なコミュニケーションのために特別支援学校の先生を定期的に招き、手話講座や通訳をしてもらう。
・工場内に指導係を配置する。
・身体の具合に応じて柔軟に配属部署を変える。

ジョブコーチ就労支援サービスとは

ジョブコーチを通じた障害者と企業向けの専門的な就労支援サービスのことで、モンゴル障害者開発庁が中心となって2022年6月から提供が開始された。

このサービスを通じて、今後、年間数百人の障害者が企業に雇用されることが期待される一方、障害者の雇用が難しい企業には、納付金を納めることで社会的責任を果たすよう求められている。