詳細計画策定が終了し、実施フェーズへ移行しました
ヒマラヤ山脈に位置する山岳国ネパールは北海道の約1.8倍の国土に、8000m級のヒマラヤ山脈を含む高山地帯から、中山間地帯や丘陵地帯、そしてインドに接する海抜60m程の平野部まで様々なエリアが広がっており、そこには多様な言語や文化を持つ人々が暮らしています。
(出典:Nepali Times(https://nepalitimes.com/banner/copout-at-cop26))
こんな写真を見たことはありませんか?これは温暖化の影響を受けてヒマラヤ山脈の氷河が解けていることを示す写真です。ネパールは地形的に気候変動の影響を他の地域よりも強く受けやすいと言われており、氷河の融解だけでなく、近年では山火事や土砂災害、洪水なども頻発しています。一方で、ネパールはこのような気候変動に適応する能力が経済的にも技術的にも乏しいことから、気候変動の影響を最も深刻に受ける国の一つと言われており、気候変動対策の両輪の一つ、適応策の実践が急務となっています。
2022年10月に開始した本プロジェクト「持続的森林管理を通じた気候変動適応策プロジェクト」は、そんな気候変動の影響を強く受けるネパールで、気候変動対策を所管する連邦森林環境省と、基本計画策定時に同省によって対象州として選定されたガンダキ州の産業・観光・森林環境省をカウンターパートとし、特に森林などの自然資源を利用した適応策の普及促進に向けた組織的能力強化を目指す技術協力プロジェクトで、2027年までの5年間実施されます。
プロジェクト開始から約1年間に渡って、プロジェクト活動等の詳細を詰める「詳細計画策定」を進めてきました。通常であればプロジェクトの開始前の形成段階において「詳細計画策定」が実施され、その後プロジェクトがスタートします。しかし、本プロジェクトの形成段階にCOVID-19の影響で現地への渡航や相手国政府側との対面での協議ができない等、様々な制約があったため、本プロジェクトではプロジェクト開始前に大まかな事業のデザインを決める「基本計画策定」が実施され、プロジェクト開始後に「詳細計画策定」を実施しました。
これまでカウンターパートをはじめとする政府関係者との会議や、NGO団体や他ドナー機関へのヒアリング、森林・流域管理を実施している現場の視察、コミュニティとのコンサルテーション、各種調査・分析を行った上で、カウンターパートの職員やコミュニティの住民等と共に詳細なプロジェクトの活動計画を作成してきました。最終的に取りまとめられた計画は、2023年9月に開催されたプロジェクト最高意思決定機関である合同調整委員会(Joint Coordinating Committee:JCC)の会合で承認され、プロジェクトは実施フェーズに移行しました。
写真:第二回JCC会合
では、具体的に今後実施するプロジェクトの活動内容を紹介したいと思います。本プロジェクトは2つの柱となるコンポーネントがあります。1つ目のコンポーネントは主に連邦レベルで適応策関連の政策実施促進に向けた活動を行うもの、もう一つのコンポーネントは州及び現場レベルでの適応策実践に向けた活動を行うものです。またそれぞれのコンポーネントには能力強化にかかる成果がそれぞれ設定されています。それぞれのカウンターパートと共に実施する計画の活動概要は以下の通りです。
<コンポーネント1>
成果1.1:持続的森林管理を通じた気候変動適応の促進のため、ガイドラインやマニュアルなどの政策ツールの制定・改定を行う。
ネパールですでに策定されている気候変動適応や森林・流域管理関連の政策・基本計画等の現場レベルでの実施を促進するため、関係機関との協議等を踏まえて、既存のガイドライン等のツールを改定・アップデートするとともに、改定したツールを現場で試行し、そのモニタリングや評価結果をツールにフィードバックすることでツールをさらに実践的・効果的なものにし、地方政府へのツールの普及を図る予定です。
成果1.2:森林・流域管理を通じた適応策にかかる政策実施を加速させるための研修モジュール等の開発・更新を行う。
連邦森林環境省の一部門として、森林官等への研修を通じた能力強化を行っている森林研究・研修センターの研修部門と共に、適応策の実施促進に向けた研修の企画・運営・評価を行い、効果的な研修モジュールの開発もしくは既存モジュールの更新を目指します。この成果を達成するために、森林研究・研修センター研修部門の組織力強化に向けた取り組みも併せて実践していく計画です。
<コンポーネント2>
成果2.1:ガンダキ州での現地活動を通じて、州レベルでの持続的森林管理を通じた気候変動適応策を促進させるためのグッドプラクティスと教訓を抽出する。
詳細計画策定フェーズでは、まず、カウンターパートであるガンダキ州産業観光森林環境省と共に、森林生態系を活用した気候変動適応策の現場デモンストレーション活動のサイト選定にかかる選定基準や手順等を検討しました。その後、脆弱性が高いサブ流域に位置するパルバット郡、タナフ郡、シャンジャ郡の3郡を特定し、それぞれの郡において特に脆弱性が高いマイクロ流域をデモンストレーション活動(以下、「デモ活動」という)の対象サイトとして選定しました。さらに、これら対象サイトの中から、デモ活動実施ポテンシャルやアクセス、ジェンダー平等・社会包摂の観点等から設定した選定基準に基づき、各サイトにつき1つの共有林利用者グループ、計3つの共有林利用者グループを対象コミュニティとして選定しました。これらの対象コミュニティにおいて、住民参加型による森林管理、土壌改良・水土保全、生計向上(アグロフォレストリーを含む)の分野における活動計画作りを支援しました。共有林利用者グループにより選定されたデモ活動は以下の通りです。
コミュニティ(郡) | デモンストレーション活動 | |
分野 | 活動 | |
エクサレ共有林利用者グループ(パルバット郡) | 森林管理 |
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土壌改良・水土保全 |
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生計向上(アグロフォレストリーを含む) |
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パハレパニ共有林利用者グループ(タナフ郡) | 森林管理 |
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土壌改良・水土保全 |
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生計向上(アグロフォレストリーを含む) |
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タムタレトロ共有林利用者グループ(シャンジャ郡) | 森林管理 |
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土壌改良・水土保全 |
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生計向上(アグロフォレストリーを含む) |
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今後は、このデモンストレーション活動計画に基づいて共有林利用者グループによる活動の実施を支援し、グッドプラクティスや教訓を取りまとめるため、活動のモニタリング・評価を実施していきます。
成果2.2:成果2.1に関わるガンダキ州産業観光森林環境省職員及び地域住民の現場デモンストレーション活動の実践にかかる能力を強化する。
詳細計画策定フェーズでは、州政府職員を対象とする森林生態系を活用した気候変動適応策にかかる各種技術研修の実施に先立ち、州政府職員のキャパシティアセスメントを実施しました。今後、その結果を踏まえて、州政府職員を対象とする研修の計画を立案し、現場デモ活動に参加する関連政府職員に対してオンザジョブトレーニング形式で研修を実施します。また、コミュニティの住民(特に女性や低カースト層、先住民、貧困世帯)に対しても各種実地研修計画を立案し、対象地のコミュニティ住民を対象に、森林生態系を活用した気候変動適応策及び生計向上策の実践に必要な実地研修を実施し、モニタリング・評価を行います。
コンポーネント2では、最終的には、成果2.1におけるデモ活動の実施及び成果2.2における政府職員及び地域住民に対する研修の実施を通じて得られた知見・教訓を踏まえて、気候変動適応策普及モデルを構築することを目指しています。現時点で想定している気候変動適応策普及モデルは、コミュニティ全体としての気候変動適応能力の強化につながるよう、活動及びアプローチをパッケージ化したものです。さらに、適応策の活動だけではなく、適応策普及の主たる担い手となるガンダキ州産業観光森林環境省の森林事務所および土壌・流域管理事務所のキャパシティ・ビルディングやこれら政府関係機関によるコミュニティに対する支援に係る活動も含むモデルを実施フェーズにおいて検討していきます。