636.タイからの留学生最終報告会@東京農業大学

2019年7月18日

本プロジェクトのタイのカウンターパート機関であるラヨーン畑作物研究センターから東京農業大学に留学中のファヌワット研究員が、2年間の修士課程留学を終えるにあたり、その研究成果(論文タイトル「東南アジアにおけるキャッサバてんぐ巣病に付随するファイトプラズマの検出と分類」)を最終報告会で発表しました。彼の研究の目的は:(1)東南アジアのキャッサバてんぐ巣病(No.41)を引き起こすファイトプラズマ(No.41)を検出し、かつ同定すること、(2)すでに解明されファイトプラズマの種類を判定する手がかりとなる塩基配列により、東南アジアのキャッサバてんぐ巣病を引き起こすファイトプラズマの多様性を明らかにすること、そして(3)東南アジアのキャッサバてんぐ巣病を引き起こすファイトプラズマだけを、ほかの病原やファイトプラズマと区別して検出できる技術としてLoop-mediated isothermal amplification(LAMP/ループ介在等温増幅法/栄研化学(注1))の技術を開発することです。留学期間中の熱心な研究の結果、そのすべてを達成し、次のような成果を得ました:(1)タイ、カンボジア、ベトナム、そしてフィリピンでてんぐ巣病にかかったキャッサバは、いずれも葉が黄化(通常緑色の葉の色が黄色く変色すること)し、節間が短くなり葉が小さくなって茂る叢化(そうか)という病徴を起こすだけでなく、茎の内部が茶色くなる壊疽(えそ)という病徴を呈していたことが判明、(2)タイ、カンボジア、ベトナム、フィリピンのキャッサバてんぐ巣病の病徴を呈する多くの病株(検体)からファイトプラズマという微生物を検出、しかし、各国のファイトプラズマは同じではなく(3)タイ、カンボジア、ベトナムのてんぐ巣病を起こすファイトプラズマは少なくとも2種類あり、かつ、フィリピンのてんぐ巣病を起こすファイトプラズマとは大きく異なっていることを発見、さらに(4)ファイトプラズマのDNA塩基配列を解析することにより、東南アジア各国のキャッサバのファイトプラズマを同定するとともに、東南アジア以外の国々で検出したファイトプラズマとの相同性(形態や遺伝子が共通の祖先に由来すること)も解明しました。これにより、キャッサバに発生するてんぐ巣病は、病徴は類似しているが、病原のファイトプラズマは複数あり、発生国(地域)によって異なっていることを初めて示しただけでなく、このことから、キャッサバへのファイトプラズマ感染は、一度だけではなく、異なる地域で、異なる時期に起きた可能性が高いと考察されました。それに加えて、(5)遺伝子の解析によって得られたいわば微生物の家系図ともいえる系統樹を作成して、それぞれのファイトプラズマの類縁関係を提示、さらに、これらの情報に基づき、診断をおこなうために、(6)LAMPによる検出のために新しいプライマー(DNAを複製する時の起点となる短鎖RNAまたはDNA/ご参考:(注2))を設計し、その手法をSATREPS-LAMPとして確立しました。さらに、圃場診断や研究室の設備が不十分な環境でも診断ができるように、(7)試薬を常温で保存できる乾式LAMP法を確立し、これを各国の圃場で診断することに成功、(8)植物からDNAを取り出す方法として、針などで数回葉柄(葉と茎をつないでいる小さな柄)を突く方法により、LAMP法の実用性をさらに向上させました。同研究員はこの2年間の経験と知見を活用し、今後、キャッサバてんぐ巣病のファイトプラズマを媒介する昆虫の探索、ファイトプラズマが病気にかかった株のどの部位に主にいるのか、キャッサバの品種によってファイトプラズマによる病気にかかりやすいにくいがあるかどうか、さらに、耐病性あるいは抵抗性品種の開発をふくめ、東南アジアにおける持続性のあるキャッサバ生産を可能にする防除法の開発に取り組むことになります。

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発表中のファヌワットさん

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発表中のファヌワットさん

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夏秋先生(右)と

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発表会を終えて、夏秋先生や学友らと