663.ベトナム南部タイニン省で乾式LAMPキットをデモンストレーション

2019年8月21日

ウイルスなどの病原体の有無を検出する方法として広く使われているPCR(ポリメラーゼ連鎖反応、polymerase chain reaction)(注1)という手法は、それまでの識別法に欠かせなかった「培養」という手間ひまのかかるプロセスをはぶけることから、分子生物学の世界に画期的な進歩をもたらしました。そして遺伝子そのもとを増幅させるこの手法は、遺伝子の組み換えやクローニングなど遺伝子工学をささえるもっとも基本的かつ重要なツールとして幅広く応用されてきました。しかし、一方で欠点もあります。まず温度を上げたり下げたりする装置(サーマルサイクラー)やDNAの増幅を人間の目でも確認できる装置(電気泳動など)が必要ですし、それらの装置を稼働する実験室という空間がなくてはなりません(つまり地方の畑で採取したサンプルを実験室に持ってこないと検査ができません)。そして誤って混ざったDNAが増幅させてしまうという可能性も否定できないのです。そこで、さまざまな新手法が考えられましたが、その一つがLoop-mediated isothermal amplification(LAMP/ループ介在等温増幅法/No.636)で、この手法は、PCRが2つのプライマー(注1)を使うのに対し6つのプライマーをつかい、狙ったDNAの部位を間違いなくとらえ、特殊な合成酵素を使うことで効率よく増幅させ(検出時間を短縮でき)るばかりか、それを同じ温度で行うことができ(温度の調節装置がいらない)、大量の生成物をもたらすことから人間の目で見て確認できるというケタ違いの簡便性があります。しかしLAMP法がもたらした最大のパラダイムシフトは、「検査が実験室ではなくフィールドでもおこなえ、しかも一定の知識を持つ科学者ではなく、地方の植物防疫官などでもおこなえる」ということです。世界中の一般人が携帯カメラを片手にジャーナリストになったように、これからは誰もがこうした科学技術を駆使し、これまで誰も見向きもしなかった対象に光を当て、真実を解明し、成果をグローバルなスケールでシステマチックに蓄積し、老若男女を問わず誰もが共有する日も遠くないかもしれません。本プロジェクトでは、いまキャッサバ生産に大きな被害をもたらしているウイルス病の検出ができるプライマーを開発し、これを搭載したLAMPキットをベトナム南部のタイニン省で地元の植物防疫官を対象にデモンストレーションするワークショップを開催しました。

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デモ中の東京大学宇垣先生

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デモ中の東京大学鵜家研究員

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発表中のノンラム大学ダットさん

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発表中のフンロック農業研究センターのクオン副所長

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発表中の植物防疫局チエンさん

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南部植物防疫局副局長ヴァンさん

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タイニン省農業農村開発局副局長アンさん

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タイニン省植物防疫支局ホン副支局長

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タイニン省にあるデンプン工場のフオン社長

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陽性反応(左3つ)と陰性反応(右端)

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