サリーナス・グランデス(Salinas Grandes)地区において、第9回津波防災祭りが開催されました

2019年4月14日

2019年4月14日に、プロジェクト対象地域であるレオン(Leon)市サリーナス・グランデス(Salinas Grandes)地区において、第9回津波防災祭りが開催され、レオン(Leon)市役所、防災関連省庁の他、地域住民を中心に約300人以上が参加しました。

このお祭りは東日本大震災のあった2011年から年1回開催されており、今年で第9回目を迎えることとなりました。その始まりは、BOSAIフェーズIにおいて片田教授(現東京大学特任教授)がニカラグアを訪問し、同地区の住民に対して津波の講義を行ったことに遡ります。
片田教授は当時の講義の中で「津波を語り継ぐことは辛い経験を思い返すことであり、それは大きな困難を伴う。誰しも辛い記憶は心の奥底に留めておきたいもので、人はこうした辛い記憶を忘却することで平穏を取り戻すことができる。一方で過去の経験が忘却されると、その教訓が生かされず、数十年、数百年の後に津波伝承がなされなかった将来世代で、同じ悲劇が繰り返される」と、日本の津波経験について触れたところ、それまで津波の話をしたがらなかったサリーナス・グランデス(Salinas Grandes)地区の住民が立ち上がり、将来世代に同じ悲劇を繰り返させてはならないという思いで津波防災祭りがスタートしました。こうした経緯があることから、津波防災祭りは別名「片田祭り」とも言われ、それが今回で9回目を迎えました。
もちろん、津波防災祭りはただ継続されればいいという訳ではなく、そこに防災上の効果がなくてはいけません。また、多くの住民が参加しなければ津波被災世代の知見や思いは、後世に伝えることはできません。そこで防災上の効果を出すために、まずは長期専門家による津波講義が住民に対して実施され、その内容を伝えるための発表方法について、レオン(Leon)市役所と住民とで検討がなされました。そして今回は、1)長期専門家の津波講義で聞いた内容を住民代表が学校の生徒に紹介し、その生徒たちが理解した内容を演劇で発表すること、2)サリーナス・グランデス(Salinas Grandes)地区の5つの集落の対抗戦で、各集落が展示と口頭発表を行うこととなりました。また、学校との連携や集落対抗にすることで、多くの保護者や地域の参加を促すことも目指しました。

さて、津波防災祭り当日です。午前9時頃から各集落で作られた展示馬車、あるいは展示車が祭り会場まで行進を始めます。さながらキャラバンの様相で、展示に直接かかわったメンバー以外にも、学校の生徒やその保護者など多くの住民がこのキャラバンと一緒に行進を行いました。炎天下ではありましたが、BOSAIフェーズII日本人メンバーも一緒に行進をし、住民とともに祭りを盛り上げます。

会場に到着すると、開会式を執り行いました。レオン(Leon)市副市長の挨拶に続いて、本イベントを継続支援する片田教授が日本側プロジェクト関係者代表として挨拶を行いました。そこで片田教授は、「こうした津波に関するイベントが9年も続いていることは大変興味深い。津波防災祭りを毎年開催することはコミュニティの大人の努力なしには達成できるものではなく、これを続けることは大変であろう。しかし9年ものあいだ続いてきたということはコミュニティの努力の証であり、少しずつ津波に備える文化が形成され、定着してきている証でもある。例えば、今9歳の子供たちは生まれた時からこのイベントが開催されているということであり、津波に備えることが当たり前のこととして地域で育まれていることになる。これを10年20年と続けることで津波への備えが地域の文化として定着するだろう」と述べられ、コミュニティの大人たちの努力に敬意を払うとともに、津波への備えが今後この地域の文化として定着することへの期待が表明されました。

開催式の後、いよいよ津波防災祭り本編のスタートです。まずは学校の生徒による演劇発表です。テーマは『地震と津波への備え』で、なぜ地震や津波が起こるのかという現象の話から始まり、地震からの避難、津波避難3つのルール(1)揺れたら高台にすぐ避難、2)サイレンが鳴ったら高台にすぐ避難、3)行政の指示があるまで沿岸部に戻らない)が紹介されました。また、家族全員が避難できるように家族と情報共有することが大事だというメッセージの後に、実際に避難する様子を実践し劇は終了です。シンプルなメッセージでしたが、保護者も多く参加していたことから子供たちのメッセージは大人たちにも伝わったのではないでしょうか。

次は各集落の発表がありました。高台の集落もあるため、津波だけではなく地震や環境をテーマにした発表も含め、集落ごとに3人の子供が発表を行いました。集落対抗であることから、審査員からはどのような防災メッセージがあるのかについて質問がありましたが、どの子供もしっかりとした口調で質問へ答えていました。当初は5集落のうち3集落を表彰する予定でしたが、どの集落もしっかりと準備がされていたので、審査員の協議により全ての集落に賞を授与することになりました。また、片田教授からは、片田賞として参加賞を授与しました。

こうして津波防災祭りは盛況のうちに終了しました。特に今回は学校の生徒とその保護者の巻き込みに成功し、これまでにない規模の参加者を得ることができました。
片田教授が指摘されるように、津波防災祭りの開催には大きな努力が必要であり、それは今後も必要となるものです。一方で第9回を迎えるに辺り、住民の側も準備に慣れてきたことから、効率的な実施が少しずつ図れるようにもなってきています。そして何よりも9回も続いてきて、地域で災害文化が形成されつつあることを確認することができました。

次回は第10回の記念イベントとなります。BOSAIフェーズIIでは第10回津波防災祭りが盛大に開催されるとともに、このイベントが20年30年先も続いていくように実施体制の強化にも引き続き努めていく所存です。

作成:川東 英治(長期専門家)

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展示馬車・展示車による行進

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多くの住民が展示馬車・展示車と一緒に行進

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炎天下の暑さに少し苦笑いしつつ、日本人チームも一緒に行進

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小学校6年生による演劇発表

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展示馬車・展示車には津波に備えるメッセージの他に、3人の子供が衣装を着て説明してくれます

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審査員も真剣に議論して、順位付けを行います

【画像】主催者一同の集合写真