カウンターパートの日本研修実施

2022年9月30日

2022年8月31日から9月16日まで、プロジェクトの関係者8名が来日して日本での研修を行いました。参加したのは王立ブータン大学科学技術単科大学(CST)の教職員6名と、プンツォリン市役所、ブータン工業会から推薦された2名の、合計8名です。この研修では、日本でのファブラボ運営の現場や地域社会との連携などを体験するとともに、ファブラボ以外のメイカー/デジタルファブリケーション関連施設を訪問することで、ファブラボCSTの効果的かつ持続的な運営を考える機会とすることを目的としていました。

一行はまずファブラボCSTや地元のプンツォリン市とその産業が抱える課題の現状を話し合ってまとめた上で、それを解決するためのヒントを、日本で意識的に学ぶというスタイルを取りました。ファブラボの持続可能な運営方法に関しては、かつて「ファブラボつくば」を運営していた経験にもとづく相部範之氏の講義や、後述するグループ別の研修などから、収入源を複数持つこと、コアユーザーを獲得することの重要性などを学びました。

また、今回の研修では、地域コミュニティの取り込み、特に若年層に対するアプローチの重要性を学ぶ機会が多くありました。メイカーフェア東京の会場では、小学校低学年の子どもたちが数多く父兄と一緒に来場していたことに驚き、さらに各地のファブラボ、特に信州大学に併設された「ファブラボ長野」などでも子ども向けのSTEM(STEAM)教育のプログラムを提供している事例に触れ、ファブラボCSTでも同様の取り組みを始める必要があると感じた参加者が多くいました。

この他にも、循環型社会の実現のためにデジタル技術でプラスチックごみの再利用問題に取り組んでいる慶應義塾大学の田中浩也研究室や武蔵野大学データサイエンス学部のラボも訪問し、日本で最初に「ファブシティ宣言」を行った鎌倉市の取り組みも学びました。

参加者は以前オンラインの場で日本各地のファブラボの事例を学ぶ機会があり、ファブラボについてはある程度予備知識がありました。これに加えて、今回の研修では、ファブラボ以外のメイカースペースも2カ所訪問し(コワーキングスペースMONOとDMM.make AKIBA)、ファブ施設とスタートアップ企業のインキュベーション施設などを併せ持ち、地方自治体からの支援を受けていたり、逆に地方自治体や民間企業に対するサービスを提供していたりするその経営方法から、ファブ施設が提供する価値が様々な方面と連携し収入を生み出す可能性を持つこと学びました。

また、今回の日本研修では、参加者を3つのグループに分け、それぞれ特徴の異なる国内3カ所のファブラボで、グループの特色に合わせた研修を受ける機会も設けました。具体的には、プンツォリン市役所からの参加者を含むグループは「ファブラボ鎌倉」を訪問して地方自治体や地域社会との連携に重点を置いた取組みを学び、ブータン工業会からの参加者を含むグループでは「ファブラボ浜松」を訪問して地元の産業との連携に重点を置いた取組みを学び、CSTのファブラボ責任者が参加するグループは、同じ大学附属のファブラボがある京都産業大学で運営方法修得に重点を置いた研修を行いました。

本邦研修の最後に、参加者たちは日本で学んだことをブータンに帰ってからファブラボCSTの運営にどう生かすかを議論し、具体的なアクションプランとしてまとめました。最終日に行われた評価会で発表されたアクションプランでは、子どもたちを含む地域コミュニティに対するファブラボ利用の推進イベントの実施や、地域社会との連携促進、日本での事例を参考にした料金体系の再検討などが盛り込まれました。

研修の最後に実施したアンケート結果では、多くの参加者にとって、今回の研修はこれまで経験したことがない新しい体験の連続で、ファブラボの持つ多様な可能性と価値観を学んだ貴重な機会だったようです。この経験をもとに、今後ファブラボCSTが大学内部だけでなく地域社会や地元産業などと積極的に連携していくことを期待したいと思います。

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慶応大学田中研究室のプラスチック容器のリサイクル施設(写真/Tashi)

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鎌倉市役所でファブシティの取り組みを学ぶ(写真/Tashi)

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民間のメイカースペース「DMM.make」訪問(写真/小暮陽一)

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ファブラボ鎌倉での中高等学校との連携に関する研修(写真/Sumitra Ghalley)

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ファブラボ浜松での農業へのドローン活用事例の見学(写真/Pema Ghalley)

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ファブラボ長野でのSTEM教育に関する研修(写真/Tashi)

【画像】京都産業大学でのプレシャスプラスティック(再利用)ワークショップ(写真/Tashi)