日本・WAPES共同プロジェクトのオンライン会合に参加

2020年7月16日

当プロジェクトでは、カンボジアの首都プノンペンのパイロット職業訓練校3校(NPIC/NTTI/PPI)における訓練の質の強化に取り組んでいます。学生が訓練校で培った能力が労働市場で適切に評価され、望ましい就職につながることは労使双方にとって重要であり、当プロジェクトの目標にも就職率を盛り込んでいます。

新型コロナウィルス(Covid-19)はカンボジアの経済活動、雇用労働情勢にも大きな影響を及ぼしています(注1)。支援を必要とする人びとのセーフティネットの重要な一角を担うのが公共職業安定機関ですが、その国際機関がWAPES(世界公共雇用サービス協会)です。日本は厚生労働省(職業安定局)が、カンボジアは国家雇用機構(NEA:National Employment Agency)が加盟しています。

日本・WAPES共同プロジェクトは昨年9月に始まり、NEAのサービスの質の向上を目指しています(注2)。カンボジアがCovid-19のため厳しい入国制限を余儀なくされている中で、7月16日、5か国(カンボジアに加えて、日本、韓国及び英国から専門家、ベルギーからWAPES事務局が参加)をつないでのオンライン会合が開催され、当プロジェクトからも参加しました。

会合ではまず、NEAからCovid-19の発生を受けてのカンボジア政府の雇用労働等の対策が報告されました(注3)。続いて、共同プロジェクトの目標である、1)NEAのサービス利用者の増加、2)職員の増加及び能力強化、3)スキル・ミスマッチの縮小について、それぞれの数値目標(KPI:Key Performance Indicators)の候補とともに検討がなされました。使用者へのサービス改善、幅広い関係者との連携、適切な業績評価が重要との意見が出されたほか、スキルが相対的に高くない求職者、首都プノンペンと北部シェムリアップのジョブセンター(日本のハローワークに相当)を主な対象に、サービス改善策の検討を進めていくこととなりました(注4)。本年12月にはプノンペンでステークホルダーを招いての協議会合を開催する予定となりました。

当プロジェクトからは、カンボジアの職業訓練校が注力しているeラーニングで学生のアクセスが課題となっている現状を踏まえ、「NEAのウェブを活用したサービスの利用状況は、地域別にみるとどうなっているか」、「ウィズコロナの時代には、地方の求職者を含むウェブサービスへのアクセスを整えることが、顧客満足度の向上にもつながるのではないか」との問題を提起しました。

NEAでは今後、海外の専門家の知見を参考にしながら、サービスの向上に向けた検討が進められていくことになっています。当プロジェクトは今後も日本・WAPES共同プロジェクトに関与し、カンボジアにおけるマッチングサービスを含む労働職業訓練政策の機能強化に貢献していきたいと思います。

(注1)2020年のカンボジア経済について、6月に政府(-1.9%)、世界銀行(-1.0%)など国際機関は、いずれもマイナス成長を予測しています。また、7月にADB(アジア開発銀行)は、社会的弱者を中心として今年は39万人の失業者が発生すると予測しています。

(注2)日本・WAPES共同プロジェクトのこれまでの活動については、次のニュースをご参照ください。
・厚生労働省のWAPESミッションの訪問(2019年9月9日~11日)
・日本・WAPES共同プロジェクトのスタディー・ビジットに参加(2020年2月3日~5日)

(注3)Covid-19の発生を受けたカンボジア政府の雇用労働等の対策
NEAはCovid-19の発生を受けて、ジョブセンターの活動縮小や一時閉鎖を余儀なくされましたが、求人開拓、工場が一時休業中の労働者へのソフトスキルの訓練、工場が閉鎖された労働者の求職登録、SNSを活用した求職者の職業紹介等の機能を強化しました。
会合でNEAから報告された、カンボジア政府が講じてきた雇用労働等の対策は、次のとおりです。

(1)影響を受けた労働者への取組
・繊維・観光産業で一時休業を余儀なくされた労働者への、月40米ドルの追加所得支援
・一時休業中の労働者への健康保険給付、及び出産休暇給付の維持(一時休業中の女性労働者の経済的支援を含む)
・一時休業中の、賃貸住居の公共料金の支払い猶予
・経済的に不利な状況にあるグループ(インフォーマル経済の労働者、外国から帰還した労働者を含む)への社会的支援や食料を提供するための、追加予算3億米ドルの配分
・一時休業中または解雇された労働者のスキル向上、スキル再開発
・工場の経営者や労働者へのCovid-19予防に関する訓練の実施、その厳格な監督
・銀行やマイクロファイナンス機関に対し、金利の引下げ、融資回収の延期を勧告
・住宅デベロッパーに対して、着工に関する資金回収を延期するよう勧告
・世界安全衛生の日(World Day for Safety and Health)をビデオ会議により開催し、Covid-19が職場やコミュニティで安全衛生に及ぼすリスクへの気づきを促進(ILOの労働条件監視プロジェクト(ベター・ファクトリー・カンボジア)、ILO日本労働安全衛生プロジェクトと協働)
・Covid-19に感染した外国人(移住労働者、カンボジア滞在者・旅行者を含む)への無料での治療・処置の提供

(2)影響を受けた経済活動(ビジネス)への取組
・深刻な影響を受けた工場、観光や航空関連の企業への一定期間の免税等
・一時休業期間中の、保険料の国家社会保障基金への支払い免除
・労働者への年功補償手当(注:無期契約労働者に対して年2回支払われる手当。解雇補償金に代わって導入された)の2021年までの支払い停止
・家主に対して、賃料の支払いの遅れによって借主とのリース契約を終了したり、借主を追い出したりしないよう勧告
・建設産業の維持のため、7万米ドル未満の物件を購入した場合の財産関連税の免除

(注4)NEAがサービスの対象とする求人・求職者に産業・職業の限定はありませんが、現在、求職者のうちNEAの利用が多いのは、スキルが相対的に高くない者となっています。また、プノンペンには縫製産業の工場が多く、世界遺産アンコール遺跡のあるシェムリアップでは観光産業が地域の経済をけん引しています。

【画像】5か国からの参加者をつないでのオンライン会合の様子(下段・中央がプノンペンのNEA)