E-JUSTにおけるリベラルアーツ教育、学士課程開講から4年間の歩み-リベラルアーツ・カルチャーセンター(LACC)への教員インタビュー-

2021年11月9日

E-JUSTでは国際的に通用する人材を育成するべく、工学部と国際ビジネス人文学部の垣根を設けずに様々な分野を幅広く学び、基礎的な知識や教養を身につけるリベラルアーツ教育の重要性が認知されてきました。
このような背景をふまえ、現在実施されているE-JUSTプロジェクトフェーズ3では、リベラルアーツ教育を全学体制で実施できるようになることが成果として盛り込まれました。2017年の学士課程開講以来、JICAの協力を共に歩み、LACCをけん引してきたアマル先生(助教)、ハイサム先生(助教)の2名にお話を伺いました。

(聞き手)今日はお時間をいただき、ありがとうございます。お二人にお話を伺えるのを楽しみにしていました。早速お伺いしたいのですが、E-JUSTでは学士課程開講以来、リベラルアーツ教育が推進されていますね。お二人の尽力は計り知れないものと推察しますが、どのように関わってこられましたか。

(アマル先生)以前は公立大学に勤めていたこともありましたが、2017年に学士課程が開講されて以降、E-JUSTに関わってきました。専門は言語学ですが、コミュニケーションの観点から、基礎的な知識や教養を教えています。

(ハイサム先生)私も同じように学士課程が開講されて以降、E-JUSTに関わってきました。それ以前は哲学を専門としながら、人文科学や社会科学を専門とする学生向けに教鞭をとってきました。E-JUSTでこれらの分野を専門としない学生に向けて教鞭をとるのは、はじめての経験でした。

(聞き手)お二人とも学士課程の開講以降、E-JUSTに関わってこられたのですね。ちょうど今年は学部設立から4年目となりますが、初となる学士課程の卒業生を送り出すにあたって、今のお気持ちをお聞かせください。

(アマル先生)4年前は今よりも少人数で授業が行われていましたし、初めての学部学生受入れということもあり、その時の学生は今でも印象に残っています。

例えばエジプトではよく口喧嘩から議論が発展し、場合によっては手が出るほど激論が交わされることがあります。私はこういった状況は望ましくないと思っていて、大学での教育を通じて、学生たちには力によらないコミュニケーションのあり方や倫理的な議論の運び方を学んでほしいとの思いで、授業を行ってきました。

導入初期はリベラルアーツに対する認知度もそこまで高くなかったのですが、実際にここ数年間での彼らの変化を見るに、自分と他者の視点や意見の違いを認知できるようになっていることがうかがえます。数年間の経験を通じて、グループワークで円滑なコミュニケーションが取れるようになるなど、彼らの成長ぶりを見ていて、とても嬉しく思っています。

(聞き手)素敵なエピソードになんだか心が温まりました。お二人とも、4年間で多くの学生が変化していく様子を見られてこられたかと思います。学生たちの変化を見る中で、ご自身の変化などを感じることはありましたか。

(ハイサム先生)私は2018年に国際ビジネス・人文学部(Faculty of International Business and Humanities - FIBH)へのゼミ制度導入にあたって、実際に日本での視察を行いました(注)。日本式のゼミの実施形態や学生の様子を見ることで、自分が今まで教えてきたやり方と似通った部分を発見し、自信を持つことができるようにもなりましたし、逆に日本の教授法との違いを知ることもできました。
日本の大学で最も印象的だったのは、すべての授業がカリキュラムの中でお互いに相互作用を与えながら成り立っており、きちんと全学的にプログラムとして連動していることです。訪問前には先生が個人としてそれぞれ最善を尽くせばよいと思っていましたが、その考えが間違っていたことに気が付きました。大学として、学部として、カリキュラムをどのように設けるか、自分の授業がすべてではなく、あくまで全学的に実施されるプログラムの中の一要素であり、一貫したプログラムを持つ重要性を痛感しました。この視点を持つことができるようになったことで、自分に求められていることや学生に伝えるべきことがより明確になったと感じています。

(聞き手)日本への訪問を通じて、ご自身の教授法を見直され、今に至るのですね。今後はリベラルアーツ教育の成果をどのように発信し、認知を高めていきたいと考えていらっしゃいますか。

(アマル先生)ここ数年でリベラルアーツ教育の導入が進められているものの、科学や技術に特化した研究大学というコンセプトのあったE-JUSTにとって、なぜリベラルアーツが重要なのか、なかなか理解が進まずに苦労することもあります。とはいえ、リベラルアーツの中で育成を目指している、対人スキル、リーダーシップ、協調性やプレゼンテーションスキルなどは、どれも社会で役立つものばかりですし、結果として既存概念にとらわれずに考えることや創造的でいることにも繋がります。こういった部分はなかなか見えにくい変化かと思いますが、学生の潜在意識の変化はとても大きいものです。違う分野の先生方や学生にも、リベラルアーツの要素をきちんと理解してもらうことで、より多くの理解が得られると良いと考えています。

(ハイサム先生)いまのエジプトでは一般的な高校や学士課程においては、リベラルアーツ教育で展開されるような多様な分野に触れる機会が少ないため、その概念がなかなか浸透していません。教員はもちろんのこと、学生たち自身もこの重要性を理解することが大切だと思っています。年々学生数が増えているE-JUSTですが、学生に常に楽しく学んでもらえるよう、またその中で彼ら自身にも自分の変化に気が付いてもらえるよう、授業のやり方を常に見直しながら工夫し続けたいと思っています。最近ではリベラルアーツ教育の一環として思考力を鍛える教材の開発などにも取り組んでいます。

(聞き手)成果が見えにくいけれども、人の根幹となるスキルや行動様式を身につけるという点でリベラルアーツ教育が非常に役立つことが伝わってきました。最後に、学生に向けたメッセージやご自身の今後に対する意気込みなどがあればお願いします。

(アマル先生)自分自身、教えることがとても好きなので、どれだけ忙しくても学生と議論したり、相談にのったり、学生たちと過ごす時間こそが幸せだと感じています。私たちが提供するリベラルアーツ教育によって、今後E-JUSTの学生はもちろんのこと、先生方や関係者のマインドが抜本的に変化することを願っています。これまでの4年間はあっという間でしたが、今年からは毎年卒業生が出るようになります。彼らがより社会で活躍できる人材になれるよう、専門知識以外の部分でも人間的に成熟して卒業できるよう、引き続き尽力していきたいです。

(ハイサム先生)私はリベラルアーツ教育によるキャパシティ・ディベロップメントをより拡大していきたいと考えており、これを通じて学生の考え方が変わることを望んでいます。専門分野だけ学ぶことが正義ではなく、それ以外の分野を学ぶ意義やそうすることで得られる成長に気が付いてもらえると嬉しいです。個人的には、社会科学分野と自然科学分野など複数の分野で重なる領域をより広くとらえ、双方に相乗効果のあるようなリベラルアーツの推進に貢献したいと考えています。

(聞き手)お二人のご尽力や想いをお伺いし、目に見えてわかる変化のみならず、目に見えない人間力やコンピテンシー(行動特性)の部分をいかに伸ばすことができるかという点に注力されていることに、強く感銘を受けました。今後も先生方のご尽力がより大きな成果につながるよう、プロジェクトとしても引き続きサポートしていきたいと思います。本日はお時間をいただき、ありがとうございました。

リベラルアーツ・カルチャーセンター(LACC)ではこのような若手教員の奮闘によって、学生たちに大きな変化を生み出しており、E-JUST内でも分野を問わずに共通してもつべき能力や行動特性に対する理解が徐々に広がっています。プロジェクトでは今後さらにリベラルアーツ教育を推進していくことで、卒業後にリーダーとなるような優れたコンピテンシーを兼ね備えた人材輩出をさらに行うべく、引き続き協力を行っていきます。

(注)ゼミ調査の実施

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ハイサム先生へのインタビューの様子

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改善を重ねてより魅力的な授業を行うために開発した教材

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アマル先生へのインタビューの様子

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アマル先生による授業を受ける学生たち