シエラレオネ・ガーナ母子手帳技術交換セミナーの開催

2019年2月26日

2019年2月25~26日

2019年2月25~26日、シエラレオネ保健衛生省より、母子手帳の作成に関わる行政官のチーム7名とJICAシエラレオネフィールドオフィス在外専門調査員をアクラに迎え、Knowledge Co-Creation Seminar on MCH Record Book between Ghana and Sierra Leone(母子手帳技術交換セミナー)を開催しました。

背景

シエラレオネの母子保健指標は、妊産婦死亡率1,165(出生10万対)(2013年DHS)、新生児死亡率20(出生1000対)(2017年MICS)、乳児死亡率56(出生1000対)(2017年MICS)、5歳未満児死亡率94(出生1000)(2017年MICS)であり、サブサハラアフリカにおいても大変厳しい状況です。また識字率も51.4%にとどまり、特に女性の識字率は43.9%と限定的です。家庭用健康記録としてこれまで産前健診カード、予防接種カード、5歳未満児カードなどが使われていましたが、記録が分割されてしまうほか、これらの手帳には妊産褥婦のための保健・栄養情報が少なく、十分に情報を提供できていないことが課題でした。

そのような状況下で、JICAの本邦研修に参加した研修員が、シエラレオネ保健衛生省の行政官に他国の母子手帳成功事例を紹介し、保健省内にタスクチームを立ち上げたことから、統合版母子手帳の開発が始まりました。2018年10月にプレテストを行い、現在、3郡、7地域医療施設(Peripheral Health Units)にてパイロットテストを実施中です。

そこで、本格的な全国展開を前に、母子手帳を活用するために必要とされるシステムやマネジメント体制、研修やモニタリング・スーパービジョンにかかるノウハウ、効果的な住民への周知、巻き込みなど、ガーナの経験から学び、自国での母子手帳普及に役立てることを目的とし、シエラレオネチームが、ガーナを訪れました。

セミナーの様子

セミナー1日目は、両国の母子手帳の進捗、経験、教訓などにつき、意見交換を行いました。ガーナ側から、母子手帳の全国展開を進めるには、強いリーダーシップ、早い段階から関係者の巻き込み、母子手帳を活用するために必要な技術の実習を取り入れた保健医療従事者向け研修実施、住民への啓発活動やマスメディアの巻き込み等が重要であるとの発表がありました。また、シエラレオネからガーナ側へ、年間印刷可能冊数に応じて配布基準を見直す必要性、母子手帳活用状況のモニタリング・スーパービジョンをすでに実施されている関連プログラムのモニタリングに統合していく必要性について提言がありました。一方、両国に共通する課題として、母子手帳の持続的・計画的供給のための戦略、母子手帳を使って質の高い母子保健・栄養サービスを提供するための全保健医療従事者の能力強化、質の高いサービスを提供するための保健システムの強化、手帳の印刷・増刷・改定などを運営するためのマネジメントの強化の必要性などが挙げられました。

セミナー2日目には、アクラ市近郊のマモビ郡病院、ニマ・ヘルスセンターを視察しました。マモビ郡病院では、産婦人科医師から、「統合版母子手帳導入は、母体搬送を受け入れた際に必要な情報を得ることができ、治療を始めるまでの時間短縮に繋がる。また、出生登録や産後の家族計画を推進することにも寄与する。」、と説明がありました。また、同病院栄養士からは、母子手帳を使うことで栄養カウンセリングを提供でき、妊娠中から母乳栄養の重要性を伝えることができると話がありました。マモビ郡病院では、Pregnancy Schoolという母親(両親)学級を視察し、母親だけでなく父親に対しても健康・栄養教育を行っていることが、母子の健康管理に貢献していると説明されました。両施設では、医療従事者や母親にもインタビューを行うことができ、シエラレオネからの参加者と現場の経験知を共有することができました。

セミナーを終えて

セミナー終了後、シエラレオネチームからは、「ガーナ母子手帳パイロットテストの実施・評価方法、全国展開に向けた教材やガイドラインの準備、研修の方針など、非常に参考になった。」「GHS総裁、家庭保健局局長などが、リーダーシップと主体性をもって母子手帳の全国展開を推進していることが印象的であった。」「住民全体への周知、特に男性の巻き込みに難しさを感じていたが、ガーナでは、男性住民も参加できる母親・両親学級が実施されていると知り、参考になった。」等の声が聞かれました。

ガーナ側にとっては、これまでに全国研修、モニタリング・スーパービジョンと息つく間もなく全国展開を進めてきたところ、第三国に自身の知見を披露することを通して、活動や成果、課題を見直す絶好の機会となりました。

今回のセミナーは、西アフリカの2か国において、母子手帳導入にかかる実務者が経験知を共有するという初めての試みでした。両国参加者がお互いの進捗や課題を共有するだけでなく、相互に提言を行うこともできました。自国の経験を他国に伝え、また他国の事業に提言を行うことは、それぞれの国の行政官の能力強化に繋がります。今後も引き続き、両国で進捗や教訓の共有を進める他、次回は、ガーナ側がシエラレオネへ視察に訪れること、近隣諸国で母子手帳導入を目指す国を交えて複数国でセミナーを実施すること、などが提案されました。

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第1日目セミナー会場

【画像】第1日目セミナー集合写真

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2日目、医療従事者への聞き取りを行う、両国参加者

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2日目、母子手帳の管理につき聞き取りを行うシエラレオネチーム

【画像】ニマ・ヘルスセンターにて