ヨルダン派遣を終えて

2017年11月11日

本プロジェクトに参加するため、昨年から数度に渡りヨルダンを訪れる機会に恵まれた。最後にヨルダンを後にしたのは、6年前であるが、その間にこの国にいろいろな変化が起きていることを実感した。高層ビルの建築ラッシュ、ハイブリッド車やぴかぴかの輸入車両で渋滞するハイウエー、ペットを楽しむ余裕のある中間層、日本よりも高いのではと思う物価等々。

しかしそんな中でも最も大きな変化は、隣国シリアの内戦による難民流入である。ヨルダン人はホスピタリティに溢れた国民性なので、戦禍を逃れてきた人たちを助けたい想いはあるだろう。だが一方で、資源の乏しいこの国に人口のおよそ10%を占める難民が押し寄せ、今なお内戦の収束が不透明な状況が続き、ヨルダン人の間に不安や動揺が広がっているようだ。「この国には、もともと水も、食糧も、仕事だって十分にあるわけじゃない。シリアの人たちがこのままここに住みついたら、私たちの生活はどうなるのだろうか」といったヨルダン人のぼやきをよく耳にしたものだ。

こうしたヨルダン人の不安や動揺を増強させないために、他国の地で厳しい生活を強いられているシリア難民への支援に加えて、受け入れ国の負担軽減を目的とした支援の強化が急がれる。ヨルダンは、シリア内戦勃発前から社会インフラが脆弱であること、また、難民流入後、その多くがキャンプ外に住んでいることから、難民受け入れ国として大きな負担を負っている。たとえば、急激な人口増により、希少な水資源の需要の拡大、下水や廃棄物の発生量の増加といった衛生環境の悪化が指摘されている。また、統計局によるとヨルダン人の失業率が18.2%(2017年第1四半期)と過去25年で最も高い水準に達しているという。こういった生活環境や雇用状況の変化は、ヨルダン人のみならず、結果的にシリア人の社会生活にも影響を及ぼすと考えられ、地域で暮らす両国双方の人々に資する支援を提供することが重要であろう。

本プロジェクトはまさにシリア難民および受け入れ国であるヨルダンの双方に裨益すべく、難民に対しリプロダクティブヘルス・家族計画サービスを提供するとともに、ヨルダンの保健医療サービスの向上を目指し、保健省とともに二人三脚で日々奮闘している。

シリア国内が安定するには、残念ながら、まだ時間がかかりそうである。時の流れとともに、ホスピタリティにあふれたヨルダン人の文化が失われぬよう、そしてシリア人の不安定な生活が少しでも改善されるよう、私も微力ながら今後も貢献したいと考えている。旧知の友人は、平和だったころのシリアを懐かしむ。家族みんなで車に乗って国境を渡り、野菜やホブス(中東式パン)を大量に買い込み、観光を楽しみ、おいしい地元料理に舌鼓を打ったそうだ。そんな両国の親戚付き合いのような関係が戻る日が一日も早く来ることを心から願いながら、ヨルダンを後にした。

(文責:短期専門家 井本敦子)

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建設中の高層ビル Skyscrapers under construction

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輸入車で埋まる道路 A street filled with many imported cars

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プロジェクトの移動診療車に集まってくるシリア難民 Many Syrian refugees gathered in the mobile health clinic provided by the Project