コロナ対策として残留塩素濃度の分布状況の確認調査を実施しました

2020年7月31日

2020年3月以来、リロングウェ水公社(LWB)には新型コロナウイルスの混乱状況の中においても平常通りの給水活動の継続が求められています。
本プロジェクトの日本人専門家は、マラウイでの活動ができない中、国内からリモートでコミュニケーションや情報共有を図りつつ、LWBを支援する方法を検討しました。LWB側の要望と専門家の意見を集約し、いくつかの支援策が採択され、その中の一つとして上水道の塩素消毒が新型コロナウイルス対策に有効であるとの観点から、残留塩素管理の現状確認及び基礎調査を実施することになりました。

残留塩素とは、浄水場などで水道水を作る過程で、消毒のために注入した塩素剤が、水道水の中で塩素イオンとして残留している状態のことです。この水道水中の塩素イオンはウイルスや病原菌を殺菌するため、安全性の観点から水道水の中に塩素イオンが常に存在するように管理することが重要です。
それまで本プロジェクトの無収水削減活動とは直接関係が無かった水質課の職員と連携し、LWBの残留塩素管理の現状把握及び、課題抽出を目的とした給水エリア全域を対象とする残留塩素の測定調査を計画しました。

本プロジェクトは、LWB給水エリアの約3分の1に当たる南部ゾーンを無収水削減活動の重点地域としているため、残る北部及び中部ゾーンの水道施設や配水管網の状況については詳細まで把握していませんでした。そこで、EメールやSNS、Web会議ツール等の通信手段を駆使してLWB職員から聞き取りを行いましたが、専門家が現場を直接訪問して状況判断できていた時に比べ、こちらが知りたいと思っている現地確認のポイントがなかなか正確に伝わらず、地理的状況の把握や測定箇所の選定に大変苦労しました。
水質課職員からのヒアリングによれば、LWBでは測定機器が不足しているため、日本の水質管理では毎日監視する給水栓(各家庭の蛇口)での残留塩素濃度の測定が十分に行えず、1週間に1度の巡回調査しか実施できていない状況が分かってきました。そこで、ハンディタイプのデジタル式の残留塩素計(ポータブル残留塩素計)を2台購入して日本から現地へ送り、それまで使用していたアナログ式の測定機器よりも精度の高い測定方法をリモートで操作指導しました。そして、給水エリア内の139箇所の給水栓で残留塩素濃度を測定し、全配水管網における残留塩素の分布図を作成しました。

また、配水起点である浄水場においては、毎日測定を行った結果、次のような課題が明らかになりました。
1)浄水場における塩素注入量及び濃度管理が十分に行われていない。
2)浄水場から遠方のエリアや、水の流れが遅くなる水道管の端にあたるエリアでは、残留塩素が検出されにくい傾向がある。
3)残留塩素が不足する地点を補うために浄水場で塩素注入を追加することから、浄水場周辺は残留塩素が高濃度になりやすく、市民から塩素臭(カルキ臭)に関する苦情が寄せられることが懸念される。

これらの調査結果と配水管網を考慮した評価を行った結果、LWBの残留塩素管理は、現状の浄水場のみの1箇所での注入方式から、各配水池に塩素を注入する設備を設置し、複数箇所で濃度のモニタリングと調整を行う、分散注入方式に変更すべきであるとの結論に至りました。
分散注入方式のためには追加の塩素注入器を設置する必要がありますが、実際に現地を訪問できないリモートでの情報収集は効率が悪く、塩素注入ポイントの選定には大変苦労しました。また、マラウイ国は7時間の時差があるため前日の現地測定データを日本時間の朝一番で確認する等、リモートでの作業進捗管理は時差に配慮した報告体制を採り、直接コミュニケーションを図るタイミングにも工夫が必要でした。そのような中、広い給水エリア全域をLWBの職員達は駆け巡り、トラブルもなく無事に現地測定調査を行うことができました。

プロジェクトでは、今後も引き続き塩素注入量の調整やモニタリング体制の構築を指導し、LWBの残留塩素管理の実施体制を改善する予定です。この取り組みにより、コロナ対策等の感染症予防に有効な安全な水の供給に寄与するとともに、LWBの市民サービスに向上効果が現れることが期待されます。

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日本から供与したポータブル残留塩素計

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水道メータボックス脇の給水栓での測定前排水作業

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共同水栓での住民立会による測定作業

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同水栓でのポータブル残留塩素計の操作