ミャンマーで保健システム強化のプロジェクトを開始しました。

2015年4月30日

2014年11月、ミャンマー国において4年間にわたる保健システム強化(HSS:Health System Strengthening)技術協力プロジェクトを開始しました。

プロジェクトの概要

HSSプロジェクトは、国家保健計画に沿った国の保健医療事業を円滑に進めるために保健省の行政能力強化を支援し、あわせて、国内東部のカヤー州を拠点として現在および将来の地域の保健医療ニーズに対応できるよう州保健行政の強化を支援する活動を行います。

ミャンマーでは長い期間、保健医療を含めた社会開発への国家投資が十分に進まず、母子保健サービスや感染症対策などの活動が停滞していました。医療保障制度も未整備な状況下で、医療サービスを受ける患者の経済的負担も非常に大きくなっています。その結果、ミャンマーはアセアン諸国の中でも乳幼児、妊産婦の死亡率が高い、健康後進国となってしまいました。

しかし、2010年前後からの民主化と経済開発の動き、特に2011年の新政権誕生以降の社会改革にともなって、こうした状況が急速に改善されるようになりました。保健省の予算は2010年から2013年の4年間で6.5倍に増額され、また、世界基金による感染症対策支援の再開、世界銀行による2億ドルの保健サービス強化支援など、保健医療分野に対する国際的な支援も拡大しています。民間医療機関も増加して、ヤンゴンやマンダレーといった都市部では大規模な民間病院も開設されるようになってきました。

急速に増加した保健国家予算と開発パートナーによる支援を確実に成果へと繋げていくためには、国、州、タウンシップの各行政レベルにおける行政官の十分な保健計画運営管理(計画、実施、評価)能力が必須となりますが、現状では、いずれのレベルにおいても、地域ニーズを反映させた保健事業計画が十分に策定されている状況にはありません。それが、都市部と地方の医療サービスの格差解消を阻害する一因ともなっています。HSSプロジェクトでは、こうした状況の改善に貢献すべく、中央レベルから地方レベルに至る保健システムの改善と強化に保健省や州保健局、州総合病院のスタッフとともに取り組みます。

日本人専門家の構成

HSSプロジェクトに携わる日本人専門家の体制は、首都ネピドーにおいて保健省をカウンターパートとした行政能力強化を支援するネピドーチーム2名と、カヤー州において州保健局と州総合病院をカウンターパートとした活動に取り組むカヤーチーム6名の2チームで構成されます。両チームは緊密に連携して、保健行政とサービス強化に関する地方と中央の繋がりをしっかりと構築していくことを支援します。

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ネピドーパゴタでのプロジェクト成功祈願

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カヤーチームプロジェクト事務所開所式

総合病院起工式でJICA田中理事長が「地域保健への総合的な支援」を表明

2月9日、カヤー州の州都ロイコーにおいて、ロイコー総合病院の改修工事の起工式がJICA田中理事長、保健副大臣、カヤー州知事の臨席のもと開催されました。日本の無償資金協力事業として実施されるこの病院改修工事は、2016年3月完工予定で、老朽化した手術室、病棟等の改修と超音波診断装置等の医療器材を合せて整備するものです。これにより、カヤー州全土と南シャン州の一部をカバーする同病院の機能を高めることが期待されます。田中理事長は、祝辞の中で「JICAは医療と公衆衛生両面のサービス強化さらに行政能力強化を通じて、地域保健への総合的な支援を行い、カヤー州全体の保健システム強化に貢献していく」と述べました。

HSSプロジェクトでは、州の基幹病院として州全体の保健医療を主導するロイコー総合病院の指導力の強化にも取組みます。無償資金協力事業による病院施設・機材の整備がHSSプロジェクトでの活動のはずみとなり、また、HSSプロジェクトによる取組みが無償資金協力事業の効果をより高めるよう事業間の相乗効果を目指します。

小雪の中の日本研修:日本のUHCと皆保険、経験と教訓

本年3月、1週間にわたり保健省、州保健局の4名のカウンターパートを日本に派遣し、日本のUHCと皆保険制度を紹介する研修を実施しました。今回は厚生労働省とJICAの共同研修として、日本の保健医療システムと皆保険制度成立の過程、現状と課題を政策講義と現場視察を合せて行いました。厚労省では塩崎大臣への表敬と意見交換の場もあり、日本の経験から多くを学びたいとの意欲あふれるコメントがカウンターパート代表からありました。地域視察では、小雪ぱらつく長野県の佐久総合病院と周辺地域を視察、地域と病院の結びつきを学びました。また船橋市役所を訪問し、国民健康保険や生活保護の実務を視察しました。「ここまで緻密な日本の実務体制は、長い期間の積み重ねによるもの、ミャンマーも着実にUHCへの道を歩みたい」との代表コメントが印象的でした。

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厚生労働省塩崎大臣表敬訪問

保健省における保健計画の実施管理の強化を目指す協力

2014年4月、ミャンマー政府は2030年ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の達成を目指した長期戦略を策定しました。同戦略では、必須サービスの内容確定、保健人材の強化、医薬品・施設機器の確保、新たな医療資金確保と資金リスクのプール、官民連携の強化、情報システム強化、ガバナンスと支援の強化の9戦略が提示されました。

こうした戦略を実現するために保健省では組織、機構改革が進められています。2015年4月にはプロジェクトのカウンターパートである保健局が公衆衛生局と医療局に分割され、保健財政と情報管理を担当していた保健計画局が廃止され、省内を横断的に所管する部署の設置も進められています。

このような動きに対応して、HSSプロジェクトでは、保健省においてUHCに向けた国全体の保健行政の改革強化に資するよう、保健省内に国家保健計画を実践するための進捗管理・評価体制を整備するとともに、各州から保健省に報告される様々な情報を効率的・効果的に管理し、各州の保健計画の実践を支援する体制もあわせて強化することを目指します。

カヤー州における州保健局行政マネージメント能力強化及び診療サービス改善を目指す協力

本プロジェクトの実施サイトであるカヤー州においては、地域環境と住民ニーズに応じたサービスを提供するための実施モデルが構築、実施されることを目標に、州保健局と州総合病院をカウンターパートとして活動を展開します。具体的には、州保健計画の運営管理(計画策定、実施、モニタリング・評価)の方法とツールの試行を通じて改善し、最終案としてガイドラインに取り纏めると共に、州保健局における、州保健計画の実施管理能力の向上を目指します。また、州保健局として、タウンシップ保健計画策定プロセスをファシリテーションし、その実施を定期的にサポーティブ・スーパービジョン(注)とモニタリングする体制を構築します。

さらに、地域のニーズにより良く応じるための能力強化を目的として、州保健局と州病院の協力による診療サービス改善のための取組みを行います。この取組みでは、州総合病院の研修能力の強化、州の環境にあわせたリファラルの実践とあわせて、現在の保健医療サービスの具体的な改善点を的確に把握して、州保健計画へ反映させていくことを試みます。また、病院際の開催など、住民と病院の相互理解を深める方策として、プロジェクトの協力機関でもある長野県の佐久総合病院が長年にわたり実績してきた「地域住民とともにある病院の在り方」のアプローチも参考とすべき成功事例の一つとして試行して行くことを計画しています。

(注)上部組織が下部組織に一方的に指示を与えるスーパービジョン(監督・指導)に対し、計画、実施状況等を確認し、今後どのように改善するべきかを一緒に話し合い決めていく過程をサポーティブスーパービジョンとしています。2014年5月に終了した「基礎保健スタッフ強化プロジェクト」で導入しています。

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ゆけ、カヤーチームUHCへの道なき道を

他の開発パートナーとの連携

本年1月末には世界銀行の本部ミッションとともに、保健省幹部を対象に日本・世銀UHC共同研究の成果を発表。プロジェクトからは、特にUHCへの民間医療機関の参画の在り方について報告しました。また、1月から2月にかけてWHOが実施したタウンシップ保健計画現状分析調査にも協力し、HSSプロジェクトが提言した「中央からタウンシップにまで一貫性のある、かつ疾病別の個別プログラムも含めた包括的な計画つくり」の必要性が同調査報告にも明記されました。

チーフアドバイザーからの一言

2年間におよぶ準備期間を経て、ようやくプロジェクト開始にこぎつけました。ミャンマー全体が民主化に向けた過渡期とあって、カウンターパート部署の変更等、プロジェクトを取り巻く環境も刻々と変化しており、そうした変化により適切に対応すべく、現在、当初のプロジェクト計画の見直しを行っています。新生ミャンマーの躍動感を実感する展開に緊張の毎日ですが、4年後の成果を見るのが今から楽しみです。日本の皆様からも多くの支援と協力をお願いいたします。