マグウェ地域で医療サービスの現状調査を実施しました。

2015年8月29日

プロジェクトは、実施サイトであるカヤー州の経験を他州/他地域に拡大することを想定して活動を進めています。ミャンマー中西部に位置するマグウェ地域は、農村保健センターの建設及び医療機器の供与を行う「中部地域保健施設整備計画(注1)」の対象地域であり、プロジェクト活動拡大の候補地のひとつと考えています。このような中、2015年5月末に発表された国勢調査の結果を受け、保健省から、母子保健指標の悪いマグウェ地域を含む5州を対象に、母子保健対策を強化していくことが発表されました。プロジェクトでは、カヤー州において、優先順位の高い健康課題として今年度は母子保健を取り上げ、現状調査や医療者向けの研修等の活動を進めています。そこで、本年8月、マグウェ地域へ母子保健を中心とした活動を拡大する可能性を探るため、マグウェ地域の現状調査を実施しました。

調査準備を進めていた最中、7月中旬から8月初旬にかけて、ミャンマーの各地で豪雨による洪水が発生し、マグウェ地域も大きな被害を受けました(注2)。出発日の直前まで地域公衆衛生局と調査の可否について相談しましたが、調査実施に支障なしとの最終回答を得たこと、調査予定地域は頻回に洪水被害が起こる地域であり、どのような対応が必要かを検討する意味においても、可能な範囲で見ておくことが重要と考えられたことから、災害復興業務に追われている保健施設を避ける形で訪問、調査を行うこととしました。

今回の現状調査では、8月17〜29日の2週間、マグウェ地域の地域公衆衛生局、地域保健サービス局(兼総合病院)、医科大学、教育病院での視察、協議のほか、1ヵ所の郡病院、6ヵ所のタウンシップ病院、8ヵ所のステーション病院、13ヵ所の農村診療所、計31ヵ所の保健医療施設を訪問し、聞き取り調査を行いました。

調査では、地域内の同等の保健医療施設であっても、保健医療サービス提供に大きな差が生じていることが分かりました。特に、医師一人と複数名の医療スタッフからなるステーション病院、保健アシスタントと助産師らからなる農村保健センターといった小規模な施設においては、その差が歴然としています。

いくつかの施設では、開発パートナーの支援を受けながら、保健医療サービス提供の大きな改善が見られていました。例えば、ある村では、マイクロファイナンスを行うNGOが、加入者が施設分娩を行った場合に祝い金を給付するようになったことから、住民が施設分娩を望むようになりました。丁度、上述の無償資金協力事業で新設された農村診療所がその受け皿となり、施設分娩件数を順調に増やしていました。

(注1)ミャンマー中部地域保健施設整備計画(2012年10月贈与契約締結)

(注2)JICAは、ミャンマーの洪水被害に対し国際緊急援助として物資供与(毛布、スリーピングパット等)を実施しました。
http://www.jica.go.jp/myanmar/office/information/press/index.html

【画像】

聞き取り調査の様子

【画像】

Kyauk Sauk農村診療所

一方、ちょっとした資機材やそれを扱うことが出来る医療者足りないために、サービス提供が滞っている施設も見られました。あるステーション病院では、ソーラーパネルを用いて電気を得ています。以前は大きなバッテリーがあったため、短時間であれば種々の医療機材を使用することが出来ました。しかし、新たに配布されたバッテリーは蓄電量が少なく、現在はこうした医療機材を必要とする医療サービスは提供できなくなっていました。また、ある農村保健センターでは、耳式の体温計が配布されたものの、ちょっとした使い方が分からず、棚の中に仕舞われていました。

適切な医療サービスを提供するためには、医療機器や医薬品、そしてサービス提供能力を身につけた保健人材をどのように配置するかが非常に重要となります。十分な量の薬剤が医療施設に配布されていても、診断するための検査キットが不足していたら、適切な処方はできません。また、どんなに良い医療機材が整備されていても、その機材を使える人材が育成、配置されていなければ、サービスは提供できません。施設を十分に機能させて住民に適切な医療を届けるために、これらの現状を明確にし、迅速に必要な対策を取る必要があります。

カヤー州では、母子保健サービス提供に関し、医療機材、薬剤そして保健人材の視点から調査を実施しています。その調査結果を踏まえ、州公衆衛生局、州保健サービス局とともに必要な対策を検討、実施していくこととなります。このような活動が、近い将来、マグウェ地域のような他の地方でも展開していけるよう、本調査で得られた情報、教訓を基に、今後のプロジェクトの進め方について検討していきたいと思います。