保健計画マネジメントと保健医療サービス向上をテーマに日本で研修を実施

2017年7月7日

2016年10月15日〜29日の2週間、知識共創プログラム「保健計画マネジメントと保健医療サービス向上研修」を実施し、保健スポーツ省職員3名、カヤー州公衆衛生局及び保健サービス局職員5名、合計8名のプロジェクトカウンターパートが、JICA専門家とともに日本を訪れました。
この研修は、昨年同様、1)保健計画の策定及び実施管理、2)保健医療サービスの質とアクセスの向上にかかる行政、医療機関、地域社会との連携、の2点について、日本の知見を共有し、今後のプロジェクト活動への活用を検討することを目的として実施しました。今回の研修は、地方での保健医療行政の実践を見る機会を増やすため、昨年よりも長野県での研修日程を長くとったプログラムとし、厚生労働省、長野県庁、長野県立病院機構及び須坂病院、佐久総合病院、飯田市役所および保健センター、飯田市立病院、飯伊包括医療協議会、佐久市役所にご協力いただき、講義、視察の機会を頂きました。

保健計画の策定及び実施管理

ミャンマーでは、国家保健計画(2017〜2021年)が策定され、公表されました。策定された計画は、実施され、適切な時期に進捗がモニタリングされ、必要に応じて計画に修正を加えながら目標の達成を目指し、最終的な評価は次の計画に生かされていく必要があります。また、保健スポーツ省は説明責任を果たすため、そして透明性を確保するため、その過程を国民、関係者に広く公表し、さらに国民からの意見も拾い上げられるような仕組みを作っていくことが大切です。

今回の研修では、厚生労働省、長野県庁、飯田市役所、佐久市役所において、保健計画の策定過程、進捗管理、そして、国民・住民とどのようにコミュニケーションをとり意見を聞いているのかについて講義を頂きました。初日の厚生労働省の講義では、「なぜ保健計画を策定する必要があるのですか。」との研修員の質問に、「大きな変化を起こしたいときには、様々なアクションを同時期にかつ長期間行っていかねばならず、計画を立てることが有用です。計画を策定することで、段階的にアクションを起こしながら目標の達成を目指せます。」と、非常に分かりやすいお答えをいただきました。

長野県では、県庁において、信州保健医療総合計画や信州ACEプロジェクト(注1)について、飯田市役所では地域健康ケア計画について、佐久市役所では佐久市総合計画について説明を受けました。それぞれの計画では、現状、目指すべき姿、各種対策及び達成目標が明確に示されています。そして、毎年進捗状況が評価され、ホームページ上で発表されています。また、パブリックコメントとして、住民の計画に対する意見を募っており、それぞれの意見は検討のうえ計画に反映されます。また、長野県では、県、市のそれぞれのレベルで、事業所を巻き込んだラジオ体操や減塩メニューを推進する健康づくり、飲食店と連携した健康的なメニューの提供、健康補導員、ぴんころ運動推進事業等、独自の取り組みを多く行っています。カウンターパートの皆さんは、保健計画管理の現状のみならず、医療費を低く抑えながら、平均寿命男女ともに全国1位(注2)を達成し、さらに健康長寿世界一を目指している長野県の保健計画の秘訣も知ることができました。

(注1)信州ACE(エース)プロジェクト:長野県が展開する健康づくり県民運動。生活習慣病予防に効果のあるAction(体を動かす)、Check(健診を受ける)、Eat(健康に食べる)を推進し、世界一の健康長寿を目指している。
(注2)平成22年都道府県別生命表から

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長野県庁での講義

保健医療サービスの質とアクセスの向上のための行政、医療機関、地域社会との連携

ミャンマーでは、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの達成に向けて、基礎保健サービスパッケージを設定し、このサービスパッケージを全ての国民が受けられる体制の構築を目指しています。保健サービスをくまなく住民に届けるには、行政、医療機関及び地域社会の連携が大切です。飯田市の牧野市長からは、「飯田市が、低い医療費と少ない医師数の中で長寿を達成できているのは、行政、医療機関、医師会、そしてコミュニティーが協力し合っているからです。」とご説明頂きました。実際、飯田市では、飯伊包括医療協議会を設置し、行政や医療機関がそれぞれ単独では実施することが難しい地域医療課題について、行政と医療機関が一緒に事業を推進する体制をとっており、休日夜間の救急診療体制構築や、医師・看護師不足にむけた対策を講じています。一方、佐久市では、地域と行政を結ぶパイプ役として保健補導員が活躍しています。地域の健康生活推進の問題発見者であり、保健福祉行政の協力者である保健補導員は、経験者が延べ25,000人に達し、地域全体の保健意識の向上にも繋がっています。

日本でもミャンマーでも、地方で医師を確保することは容易ではありません。長野県では、医師の確保、養成、定着に向け、医師の修学資金貸与やへき地診療所と中核病院の連携強化等を多くの取り組みを行っています。また、「健康長寿を支える地域保健医療活動をよく知り、患者の全身を幅広く診療できる医師」としての信州型総合医の育成を行っており、長野県立病院機構須坂病院では、内科、小児科、救急を必須研修科目とした、総合医養成の具体的なプログラム内容について説明頂きました。プロジェクトサイトであるカヤー州でも、同様に医師の確保、養成、定着が難しく、カウンターパートは、この信州型総合医の取り組みに大きな関心を示していました。

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長野県立病院機構須坂病院での講義

佐久総合病院では、地域医療や医師の臨床研修・看護師人材育成についての講義、周産期医療センターの視察の他、カウンターパートたちは昨年も大好評であった医師、看護師の訪問診療・訪問看護に同行しました。また、野辺山診療所、南牧村診療所を見学するとともに、村民の方に50年の村の開拓の歴史についてのお話を伺うこともできました。医師と患者さんの会話の様子や、住民の生活の様子を知ることができるこれらの視察は、研修員にとって非常に印象深く、「医師が地域に出向くことで、住民のニーズを把握することの重要性を再認識した。」との感想が聞かれました。

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訪問診療同行

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南牧村診療所視察

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民家に伺い、50年の村の歴史を伺いました。

また、研修中日の日曜日、小海分院の病院祭を視察しました。病院祭は、文化活動を通し住民に健康診断や健康教育を提供できる場所であるだけでなく、お祭りの楽しい雰囲気の中で医療者と住民との距離をぐっと縮める絶好の機会です。視察を通し、病院がコミュニティーにおいて人を繋げる大事な役割を果たしていることを実感できました。子どもからご老人まで、多くの住民、そして医療者が参加し楽しんでいる様子を見て、カウンターパートからは「カヤー州に帰って病院祭をぜひとも実施したい!」との強い希望が聞かれました。

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小海分院の病院際:お味噌汁の塩分濃度を知るコーナー

振り返りワークショップ

研修期間中、研修での学びを振り返りミャンマーでどのように活用していくかを検討するカウンターパートとJICA専門家によるワークショップを2回開催しました。1回目は、2グループに分かれてのグループワークを行い、1週目の学びを踏まえ、実施してみたいプロジェクトを企画、発表しました。1つのグループは、長野県庁のACEプロジェクトからヒントを得て、学校教育を通した、生活習慣病対策について、もう1つのグループは、同じく長野県庁と長野県立病院機構須坂病院での信州型研修医の講義からヒントを得て、カヤー州型総合医育成について発表しました。2回目のワークショップでは、個別にプログラムを策定し、最終日の評価会で発表しました。生活習慣病対策、学校保健、農村部における医師確保対策等、研修中に学んだこととミャンマーの保健医療サービスの現状をうまく結び付け、それぞれがユニークな計画を立てていました。

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プレゼンテーションを準備する研修員

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最終日のプレゼンテーション

研修を終えて

2週間で東京都と長野県3市、合計8か所以上を巡る盛りだくさんのスケジュールとなりましたが、各研修機関でカウンターパートたちをとても暖かく迎えてくださり、また、講義のみならず視察、体験の機会を多く取り入れたことで、どの研修員も意欲的にプログラムに臨むことができました。今回学んだことを、一つでも多く実践の場に活かしていけるよう、私たちプロジェクト専門家も彼らとともにプロジェクト活動を続けていきます。

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研修員8名全員、修了証を受け取りました。