公共サービス&コミュニティ開発コンポーネントにおける高地稲作営農技術支援

2017年4月1日

高地稲作営農技術支援(通称:陸稲サブ・プロジェクト、CCDPの公共サービス&コミュニティコンポーネントで実施)は、MILF軍事部門であるBIAF(Bangsamoro Islamic Armed Force)兵士(半農半兵として農業で生計を立てている)の生計向上を目的に、2015年6月からMILF旧キャンプ・アブバカールを構成する6つの町(Municipality)に住むMILF兵士を対象に、バンサモロ地域で高い売値がつく陸稲の栽培技術と数種類(ゴーヤ、ナス、トマト、インゲン、ピーマン 他)の野菜栽培技術を、講義とデモ・ファームでの実地研修を通じて技術指導している。

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同サブ・プロジェクトはBIAFの武装解除及び動員解除と、それに伴う「正常化支援(Normalization)」を見据えて実施されている。正常化とは、広い意味があるが、平和構築の過程で行われるDDR(注1)におけるR(兵士の社会復帰/統合:Reintegration)が含有される。MILFは「兵士の社会復帰(Reintegration)ではなく「兵士が平時の生活に戻る(Normalization)」と考えている。なぜなら、BIAF兵士は職業軍人ではないため、MILFや所属する部隊から給与が支払われるわけではなく(有事の際は個々人が食料を持参するという)、先祖伝来の土地で農業をしながら自らの力で生計を立てているからである。この状態をSelf-Reliance(自己依存)と呼び、MILFの闘争の根本原理の一つとして位置付けられている。

(注1)DDRとはDisarmament, Demobilization and Reintegrationの略

同サブ・プロジェクトが対象とするBIAF兵士(半農半兵)とその家族は、40年以上も紛争下で暮らしてきた。そんなバンサモロの人々にとって、和平プロセスが進展し武器を持つ必要がなくなり、365日手に鍬を持てるようになったからといって、平和が来てよかったというわけにはならない。なぜなら、40年以上も紛争の影響を受けてきたコミュニティは、その間社会開発する余力がなかったため、フィリピン政府により開発が進められてきた他地域と比べ格差は大きい。例えば農業において、バンサモロの人々は働き盛りの男たちが戦場に駆り出されると、農繁期だからといってまともに農業に従事できることは少ない。また、政府側の農業普及員との接触がなかったため、最新の農作物栽培技術の習得や、品種改良された農作物の種子を入手する機会に恵まれず、その農作物生産量は他地域の農民に比べ極端に低い上、品質も悪い。

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やっとの思いで育てた作物であっても、低品質且つ数量の限られた農作物は地元の市場へ出荷することしかできない。しかも安値で買いたたかれてしまうので、限られた現金しか手に入れることが出来ない。そのような状況では病気にかかっても病院へ行けず、子供に十分な教育を受けさせられず、未来に希望が持てるような情報にもアクセスできないため、ベーシック・ヒューマン・ニーズを改善することは非常に困難であり、貧困から脱出することもできない。それ故に、本地域の貧困率はフィリピン国内においても群を抜いて高い。

そこで同サブ・プロジェクトでは、JICAが1980年代から支援を続け、今やフィリピンを代表する農業技術研究機関となったフィリピン稲研究所(Philippine Rice Institute; PhilRice)と連携し、BIAF兵士(半農半兵)に対し、デモ・ファームを通じた農業技術研修の提供と品種改良された陸稲種籾の配布を通じ、生計の向上を目指している。

同サブ・プロジェクトは2016年6月より開始された。プロジェクト対象となった6つの町(Municipality)から営農技術指導をする場となる農業学校(Farmers Field School; FFS)を設立する2つの地区(Barangay)が選定された。対象地区の選定では6町の全地区において土譲コンディション、水源の有無、トレーナーの現地へのアクセスビリティなどを調査し効果的且つ貢献度の高い地区が選定された。各地区(計12地区)における農業学校(第1回FFS)は、2016年9月下旬から2017年の3月上旬まで実施された。同農業学校では各地区で30名のMILF兵士(計360名)を対象に、町の農業普及員(MAO:Municipal Agricultural Officer)と農業技術者(AT:Agricultural Technician)による陸稲栽培と野菜栽培に関する講義とデモ・ファームでの実地演習(計32セッション)を通じ農業技術の向上に努めた。

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更に同FFSでは、就労の重要性を理解し、コミュニティの発展に貢献する意欲を高める意識改革研修(Value Transformation Training)と、コミュニティにおけるグッド・リーダーとはどんな人材かを理解するリーダー研修(Leadership Management Training)が、それぞれMILF関係機関のバンサモロ開発庁(Bangsamoro Development Agency; BDA)とバンサモロ・リーダーシップ・マネージメント院(Bangsamoro Leadership Management Institute; BLMI)によって実施されている。

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高地稲作営農技術支援ではこれらユニークな研修を通じ、40年以上も続く長期紛争により、腰を据え地道な作業を必要とする農業を忘れかけた半農半兵のMILF兵士へ、意識改革を含めた正常化に向けた総合的な支援に取り組んでいる。