プロジェクトで開発した新しい狂犬病対策法（迅速診断法と狂犬病データ共有アプリ）をフィリピン全土に普及するための研修者研修を実施

狂犬病は世界中で蔓延しており、蔓延地域では犬と犬の間でウイルスが持続的に伝播しています。そのため、狂犬病の撲滅のためには犬への対策が非常に重要です。狂犬病陽性犬を迅速に発見し、周辺への対策を行うことが求められます。しかし、現状の狂犬病診断検査は非常に煩雑で、これまでフィリピンでは設備が整った中央検査室でしか行うことができませんでした。

プロジェクトでは、大分大学医学部微生物学講座（西園教室）と大分県の民間企業アドテック社と共同開発した狂犬病迅速診断キットを活用して、フィリピン国内の自治体レベルで狂犬病検査が行えるよう支援しています。また、フィリピン農業省と共同開発した狂犬病データ共有アプリを活用した新たな対策方法の普及による狂犬病撲滅活動を推進しています。

2022年8月までに狂犬病蔓延地であるブラカン州、バターン州、ヌエバエシア州（注1）において本手法の導入に成功し、すでに50例以上の狂犬病陽性犬が発見されています。これらの地域では、狂犬病が蔓延し多くの人々が狂犬病により亡くなっているにも関わらず、中央検査室近隣エリア以外の犬の狂犬病検査がほとんど行われていませんでしたが、新しい狂犬病対策法により、狂犬病陽性犬による咬傷被害者の発見やイヌに対する予防接種など、ヒトと動物両方に働きかけるワンヘルス対策を効果的かつ速やかに行うことが可能になりました。

これらの成功事例を踏まえ、フィリピン農業省畜産局とプロジェクトは同手法を全国に普及することを決定し、同診断キット同省傘下の全国19ヶ所の動物疾病診断検査ラボに導入しました（注2）。今後は、これらのラボが中心となり、周辺の地方自治体に狂犬病検査法と迅速対応策の導入を行っていく体制を構築していく方針です。

その手始めとして、フィリピン農業省畜産局とプロジェクトは、5ヶ所の動物疾病診断検査ラボ（注3）と8つの自治体の獣医局（注4）に対して2日間の研修者研修（trainer’s training）を実施しました。この研修を通して、各ラボが自ら新しい狂犬病対策法の普及研修を実施するのに必要な知識と技術を取得することが狙いです。

研修1日目は新しい狂犬病対策法に関する知識取得の講義を行い、狂犬病診断技術の普及計画作成をする際には参加者による活発なディスカッションが行われ、迅速診断法に対する期待と関心の高さが伺われました。

またWOAH（国際獣疫事務局）は、狂犬病の確定診断として蛍光顕微鏡を用いた診断法を推奨しており、本プロジェクトが普及を推進している迅速診断キットは現状正式な診断法として認定がされていません。このため、本プロジェクトはWOAHアジア太平洋支部からスピーカーを招へいし、今後フィリピン政府がどのように迅速診断キットの活用を検討すべきかという議論に参加してもらうよう働きかけました。研修当日の農業省獣医局担当官の問いかけに対して、WOAHのトンプソン博士から、現場での狂犬病診断件数を増やしサーベイランス能力を向上させるツールとして迅速診断キットは有用であるという前向きな助言を受けました。

研修2日目は会場を農業省畜産局に移し、狂犬病診断キットを使った迅速診断法と狂犬病データ共有アプリの実習を行いました。

なお今回の技術研修で使用した各種マニュアルは、本プロジェクトが作成し、現在農業省畜産局のホームページ（注5）で公開されています。

今回の2日間にわたる技術研修を通して、フィリピン各地の動物疾病診断検査ラボが同様の研修を周辺の地方自治体へ実施し、狂犬病の迅速診断法とデータ共有アプリの導入を全国に広めていくことが期待されます。

最終年度を迎えた本プロジェクトは、フィリピン政府の2030年までに狂犬病を制圧する目標達成に貢献するため、今後も引き続き狂犬病対策向上支援に取り組んでいきます。

（注1）Bulacan, San Jose Del Monte, Pulilan, Guiguinto, Bataan, Cabanatuan

• （注2）大分大学開発の狂犬病診断キットの普及と実装研究がフィリピン全土でスタート（2021年10月12日）

（注3）Region 1, 4A, 5, 6, 7
（注4）La Union, Quezon, Taytay, Antipolo, Malay, Negros Occidental, Aklan, Lapu-lapu

• （注5）農業省畜産局ホームページ（英語）（外部サイト）