ケニアでの“誰も取り残さない”栄養改善の取り組み~親子教室を通して育む幼児の成長~

2024.04.09

広大な茶畑とサトウキビ畑が広がるケニア西部のケリチョー郡。ここで今、幼児を対象にしたユニークな栄養改善事業が行われています。“誰も取り残さない”その取り組みとは…!?

「最初の1000日」とその後・・・

皆さん、「最初の1000日」という言葉を耳にしたことはありますか?赤ちゃんがお腹の中にいるときから数えて2歳になる前までの人生最初の1000日が、その後の子どもの健康や成長に大きく影響すると言われています。そのため、今回の舞台ケニアにおいても、0歳~1歳の乳児を対象に、予防接種や成長モニタリングなどの保健サービスが提供され、お母さんたちは最寄りの保健施設まで定期的に足を運んでいます。
では、1000日を過ぎた子どもたちは、放っておいても元気にスクスク育つでしょうか?

ケニア西部に位置するケリチョー郡では、4歳になると幼稚園に入園します。ところが、最初の1000日を終え幼稚園に入る前の2・3歳の期間は、成長モニタリングや栄養補給の重要性が軽視されてしまい、保護者は保健施設へ足を運ばなくなってしまいます。その結果、2・3歳児の成長や栄養状態がきちんと把握されず、取り残されているのが現状です。
現在、ケリチョー郡の農村地域では、5歳未満の急性栄養失調や低体重の割合が多く、幼児の栄養改善が大きな課題となっています。成長モニタリングやビタミンA投与など保健施設でのサービスが活用されず、また保健施設側も一連の予防接種を終えた2・3歳児のフォローアップができていない状況です。加えて、保護者の栄養や育児に対する知識不足も大きな要因の一つとなっています。

入園前の2・3歳児にもアプロ―チをする新たな取り組み

そのような課題を改善するべく、同地域に長年根を張り活動している特定非営利活動法人HANDSが、4・5歳の幼稚園児と、取り残されている2・3歳児を対象とした栄養改善事業を実施しています。
対象とする4つの幼稚園では、毎月の成長モニタリング(身体測定)のほか、学校給食(お粥)や学校菜園を導入し、園児の栄養改善をはかっています。アップダウンのある未舗装の道を2キロも歩いて帰宅する子もいるため、以前は、空腹と疲労で家に帰る途中の道端で寝てしまうケースもあったそうです。給食を始めてからは、子どもたちが元気にまっすぐ家に帰るようになったと、保護者から安堵の声もあがっています。また、ケニアではお粥に大量の砂糖を入れるのが一般的ですが、健康的にもコスト的にも悪影響であるため、本事業では自然の甘味を活かした無糖発酵雑穀粥を提供しています。子どもたちも皆美味しそうに食べ、家庭への普及も期待されます。

整列して給食を待つ園児たち。様々な穀物が入ったお粥は栄養満点♪

さて、それでは幼稚園に入る前の“取り残されている”2・3歳児に対しては、どのように栄養改善にアプローチしているのでしょうか? 現場で視察したそのユニークな取り組みをご紹介します!

測って、遊んで、食べて、学んで。~月に一度の親子教室~

幼稚園に隣接した教会に、小さい子供を連れた20名近いお母さんたちが集まっています。目的は、月に1度開催される親子教室「プレイサークル」に参加するためです。
現在実施中の草の根技術協力事業「地域に開かれた幼稚園:ケニア国ケリチョー郡の幼児の栄養改善に向けて」では、2・3歳児とその保護者を対象に、毎月幼稚園や教会を舞台にプレイサークルを開催し、幼児の成長モニタリングと保護者への健康教育の機会を提供しています。
実際、プレイサークルではどんなことが行われているのか、見てみましょう!

【STEP1】体重測定と栄養指導:
まずは、地域保健ボランティア(CHV)による体重測定です。結果を成長モニタリングチャートに記載し、1対1で測定結果の説明と栄養指導を行います。栄養改善が必要な子どもは、最寄りの保健施設にレファーラルを行い、栄養士による指導を受けるよう促します。

CHVによる体重測定の様子

保健局職員(地域保健アシスタント)が栄養指導をします

【STEP2】親子の遊びの時間 ~プレイタイム~:
家でも実践できるよう身近な材料で手作りしたおもちゃを使い、参加者みんなで遊んだり、歌ったりします。最初は緊張や人見知りで表情が固まっていた子供たちも、徐々にリラックスした様子。プレイタイムでは、親が子どもと一緒になって遊び、また子どもを褒めることの大切さも伝えています。遊びを通して子どもの知育や心のケアにも繋がる取り組みですね。

ペットボトルを使ったボール投げで遊ぶ子供と母親

【STEP3】健康教育~ヘルストーク~:
遊びのあとは、地域保健アシスタントによる保護者へ向けた健康教育の時間です。テーマは、住環境の衛生指導や食材の衛生管理、遊びの大切さ、など毎月違うテーマでお話をします。一方的に情報を与えるだけではなく参加者からの声にも耳を傾け、保護者の巻き込みと理解の促進をはかっています。最後に今日の学びを全員で復習し、お片付けの歌を歌って遊び道具の片付けを促します。

ヘルストークの間、子どもたちはお絵描きタイム♪

子どもと同じ目線になるようしゃがんで片付けを促すCHV

【STEP4】おやつタイム&スナックトーク:
最後はお楽しみ、おやつの時間です♪みんな外に出て手を洗い、家でも簡単に作れる美味しいおやつを試食します。この日は、すり潰したかぼちゃとサツマイモ、卵が入ったおやつが提供され、子どもたちも美味しそうに食べていました。食べている間、栄養士がおやつの作り方や栄養価について説明し、保護者たちは熱心に耳を傾けていました。

青空の下、お待ちかねのおやつタイム♪

栄養士によるスナックトークの様子

リピーターも多く、学んだことを家庭で実践!

おおよそ2時間のプログラムは、随所に「参加型」の工夫が散りばめられ、子どもたちも飽きることなく参加していました。プレイサークルに参加した母親の一人からは、「今回が4回目の参加。子どもとの遊び方や、家の掃除、調理前に野菜を洗うこと等、プレイサークルで学んだことを家でも実践しています。子どものおやつも、お茶からより栄養価の高い無糖のお粥に変えました。」と、さっそく意識や行動の変化が見られるコメントも聞かれました。

この新しい試みは、2・3歳児の成長モニタリングの機会だけでなく、保健サービスやコミュニティと疎遠になってしまう空白の期間を埋める場として、また保護者同士がつながる場としても役に立っていると感じました。
本事業プロジェクトマネージャーのHANDS八木さんからは、「事業終了後もこのプレイサークルが継続し、モデル事業として他地域にも広がるよう、現地政府関係者(教育局・保健局)のオーナーシップを引き出し、よりサステナブルな運営方法を探求していきたい。」と語ってくれました。
是非これからも本事業の現地での取り組みにご注目ください!

◆関連ファイル…特定非営利活動法人HANDSのホームページ
◆関連リンク…本事業概要「地域に開かれた幼稚園:ケニア国ケリチョー郡の幼児の栄養改善に向けて」

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