所長あいさつ

みなさま、こんにちは。

正倉院に収められている白瑠璃碗をご存じでしょうか。

現在も美しく光るこのガラス碗は、6世紀、はるかかなたの西域・ペルシアから砂漠と山脈、大海原を超え、日本に届けられました。また、その後の平城京にはペルシア人の官吏がいたことを思わせる記録も見つかっています。古代ペルシアと私たちの先祖は、シルクロードを通じてつながっていたのです。

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今日のイランでは、3,300年前までさかのぼる古代遺跡、池の噴水を囲む草花に心癒されるペルシア庭園、鮮やかな色彩のモスクやきらびやかな宮殿などが数多く残され、そのうち24件がユネスコ世界文化遺産に指定されているほか、人々が今も吟じるペルシア文学、地域の特徴を表す繊細な柄のペルシア絨毯、活気溢れるバザール、ついつい食べ過ぎてしまう伝統料理など、薫り高い文化が継承されています。さらに、カスピ海沿いの美しい自然とのどかな田園、標高5,610mのダマーヴァンド山に代表される雄大な山々、荒涼とした砂漠、マングローブが茂り希少種の野鳥が飛び交う南の島々と多彩な風景が広がり、イランに住む私たちは、この国の歴史と文化、自然を堪能しています。

また、天然ガス埋蔵量世界第2位、原油埋蔵量世界第4位のエネルギー大国でもあるイランは1960年代から1970年代にかけての日本への最重要エネルギー供給国でした。加えて、8,500万人の人口を擁し、ユーラシア大陸の真ん中からインド洋へと抜ける要路にも位置し、イランの地政学的、地経学的な重要性が非常に高いことは言うまでもありません。

私たちにとって嬉しいことに、イランの人々はとても寛大で優しく、そのうえ子供から大人まで、街中の日常から政治・経済のビジネスシーンに至るまで、日本が大好きな人であふれています。それが、あらゆる会話の中で強く感じられ、イラン生活を一層楽しく豊かなものにしてくれています。

一方で、厳しい制裁の影響により経済は苦しく、地震や洪水などの災害、水不足、農業の持続可能性、急激な都市化、地球温暖化など、イランが挑戦すべき課題は山積しています。伝統的な友好関係、高いポテンシャル、地域における重要性などを踏まえると、日本とイランが力を合わせて課題解決に挑み、歩をそろえて発展していくことは、イランのみならず日本、ひいては地域と世界の安定と繁栄のために非常に重要であるといえます。

JICAは1957年に最初の技術研修員を受け入れて以来、イランに対する協力を継続してきました。現在は、インフラ整備・雇用促進、防災、水資源、生活水準の向上、自然環境保全、環境汚染対策、地球温暖化対策、国際・地域社会との関係強化を重点に事業を展開しています。これらの分野を中心に、さらなる大きな効果を上げていくために、イラン側パートナーに限らず、国際機関、日本の企業及び市民社会のみなさま、あらゆるパートナーと連携して、ご指導とご協力をいただき、工夫を凝らして努力していきたいと思います。

長い協力の歴史は、必ずしも順風満帆な時ばかりではありませんでした。しかしながら、私たちは常に、イランの人々のために尽くしてまいりました。私たちの仕事は、一人ひとりの人間に着目する「人間の安全保障」の実現と「持続可能な開発目標」の達成であり、イラン、日本、そして世界の安定と繁栄に貢献することです。この難しいけれど夢のある仕事に参加してみませんか?

イランでお目にかかることを楽しみにしています。

JICAイラン事務所
所長 田中理(たなかおさむ)