所長挨拶
「技術とともに相互理解と友情のネットワークを世界へ」
東京国際センター所長 花里信彦

独立行政法人国際協力機構 東京国際センター(略称:JICA東京)は、開発途上国の行政官や技術者の皆さんの能力開発を行う研修員受入事業の国内最大の拠点としてこの幡ヶ谷の地に1985年に設立されて以来、今年で27年になります。これまでJICA東京で学んだ約5.5万人の研修員たちは、帰国後に母国の発展に大きく貢献してきました。研修員OBの中からは大臣や局長級が数多く出ています。
ここで行う研修は、国家行政や地方行政を担う公共政策分野、観光や金融などの産業開発・財政分野、保健医療や障害者の地位向上といった社会保障関係の人間開発分野、情報通信や都市開発などを含む経済基盤開発分野、そして自然環境保全や水資源などの環境分野などさまざまなテーマにまたがります。これらの研修コースは、都内及び関東近県にある、多くの研修受入機関の協力を得て実施していますが、2011年度中には525コース、4,250名の研修員をこのセンターに受け入れる予定です。

私は以前エジプトのスエズ運河に日本の無償資金協力で橋を架ける仕事をしたことがあります。プロジェクトの立ち上げでは10カ月間に10回現地に渡り、1日平均3時間ほどの睡眠で連日エジプト側とのきびしい交渉を重ねました。無償資金協力としては歴史上最大規模のこの建設工事には日本の担当する工事部分とエジプト担当の部分とがあり、その細かい設計からセメントや鉄筋の単価にいたるまでを一つひとつ、双方が納得できるぎりぎりのところまですり合わせを続けたためです。ひと通りの協議を終えた後、相手側の橋梁公社の総裁を日本に招き本四連絡橋を視察していただきました。本四架橋の上に立った総裁は「ミスター花里、申し訳なかった。日本の技術もシステムも想像をはるかに超えて素晴らしい。これを最初に見せてくれれば、今までの地獄のような協議は不要だったのに」と言って力強く私の肩を抱きました。
「百聞は一見にしかず」とは良く言ったものです。研修員たちにわざわざ日本に、東京に来てもらうのは、まさにこの「気づき」のためと言っても過言ではありません。
世界中の150ヶ国以上から研修員として来日する人々にとっては、日本の誇る技術や専門知識をしっかりと自らのものにすることが第一の目的です。それも単なる技術ではなく、日本が培ってきたシステム全体とそこに至る道のりを見てもらい知ってもらい経験してもらうことが重要です。またそのような能力開発のプロセスを通じ、彼らに日本の社会、文化そして日本人のことを良く知ってもらい、親日家になって帰国してもらいたいと私たちは思っています。また、社会的、文化的な背景が異なる各国の研修員仲間での意見交換や日本人関係者との交流を通じて、開発途上国の人々同士や日本人との友情の輪が広がることも、研修事業の大きな成果の一つです。
このような相互理解と友情のネットワークが世界中に広がり、人間の尊厳を損なう様々な脅威から自由な、平和で豊かな世界になるよう、心から願っていますし、私たちもこの事業を通じて貢献していきたいと思います。
このセンターは、世界各国の方々の笑顔と様々な思いにあふれています。また、ちょっと他ではないようなアジア、アフリカ、中南米など各国のエスニック料理が召し上がれます。皆様のお越しをお待ち申し上げます