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多様化する世界の一例として、日本の開発経験を学んでほしい——インドネシア大学でJICAチェア連続講義を実施

国際通貨研究所の渡辺博史理事長

国際通貨研究所の渡辺博史理事長

インドネシア国内最古の教育機関であり、同国の政治・外交・経済の中核を担う人材を育成するインドネシア大学では、2021年から日本の近代化の経験について学ぶ「JICAチェア」連続講義を展開しています。2023年5月、国際通貨研究所の渡辺博史理事長による日本の財政と金融の発展に関する講義には、オンラインと対面で合計100名の学生が参加しました。当日の講義の様子や、講義を終えた渡辺理事長のお話、参加した学生たちの感想を通して、JICAチェアが開発途上国の発展にどのように貢献できるのかを探ってみたいと思います。


単位が認められる正規講義として開催

2023年2月から6月にかけて実施された今回のJICAチェア連続講義では、3名の日本人講師が登壇しました。本講義はインドネシア大学人文学部の正規講義として扱われ、受講した学生には単位が付与されます。

連続講義の内容は、放送大学との共同制作によるDVD教材「日本の近代化を知る」全15章のうち、3つの章と重なります。各講義では、まずDVDを視聴し、その内容についてグループディスカッションを行ってから講義を聴くという流れで進められました。講義の翌週には、学生によるプレゼンテーションが行われました。

今回の渡辺理事長の講義でも、学生たちは事前にDVD教材「日本の近代化を知る 第13章 財政と金融の発展」とグループディスカッションを通して知識を深めてから講義に臨みました。江戸時代後期から20世紀終盤までの内容を扱ったDVDの内容を受けて、当日の講義はその「続編」と位置づけ、過去30年間の日本の財政・金融について講義を実施しました。その後、DVD教材や今回の講義に関するディスカッションと質疑応答が展開されました。

まずは、自国の習慣に沿った体制構築が大切

渡辺理事長は、財政と金融の発展においては、自国の体制構築と世界の潮流への適応、両者をバランス良く組み合わせることが重要だと語ります。特に強調したのは、自国の体制作りを優先することの重要性です。「金融の発展のためには、まず自国の習慣や歴史に則って現状の仕組みを深めること(deepening)が大切で、その後に国際化(internationalization)を進めるべきだと考えます。国内の体制が固まらないうちに国際化を進めてしまうと、世界の流れに翻弄されてしまうからです」

インドネシア大学の学生に向けて講義を行う渡辺理事長

インドネシア大学の学生に向けて講義を行う渡辺理事長

DVD教材の内容が江戸時代後期から始まっているのも、日本が自国の歴史を踏まえた方法で発展を遂げたことを知ってもらいたいという思いからでした。「日本の経験をそのまま真似すべき、ということではありません。世界が多様化する中、さまざまな発展の方法があるはず。たった一つの正解が存在するわけではないのです。あくまで多様な選択肢の一つとして、日本の経験を参考にしてほしいと思います」

今回の参加者は人文学部の学生が多く、必ずしも財政や金融を学んでいる学生ばかりではありませんでしたが、渡辺理事長は「日本のことをもっと知りたいという意欲の高まりを感じました」と、講義後の手応えを語りました。また、学生たちがさらに日本の財政や金融に関する学びを深められるように、124ページもの追加教材を置いてきたとのこと。「またいつでも説明に来ますよ、と伝えてきました」。次の講義の機会が、早くも待ち望まれます。

紹介を受けて登壇する渡辺理事長

紹介を受けて登壇する渡辺理事長

1つの事例を知ることから視野が広がっていく

JICAチェアでは、財政・金融分野のみならず、さまざまな分野の視点から、日本の開発経験を開発途上国に伝えています。渡辺理事長はJICAチェアの意義について、「これから発展していこうとしている国に対して日本の経験を伝えることで、自国の開発にとって最も適切な判断をするための手助けができるので、非常に良い取り組みだと思います」と話します。「まず1つの事例を学ぶことによって、視野が広がり、他の選択肢が見えてくることもあるはずです。そのためにも、さまざまな分野の学生にJICAチェアを受講していただきたいですね」

学術・教務担当副学部長も渡辺理事長を歓迎

学術・教務担当副学部長も渡辺理事長を歓迎

JICAチェアは2020年の開始以降、既に71ヵ国で実施されています(2023年6月時点)。オンライン授業などを活用して、各国とできる限りつながりを持ち続けること、日本と当該国間だけではなく隣国も含めて複数国間で開発経験を紹介・議論し、互いに学び合えるようにすることなど、渡辺理事長は今後のJICAチェアの発展にも期待しています。そして、JICA開発大学院連携による国内の大学との連携やDVD教材の活用などを進めることで、「日本の学生も学びを深め、ぜひ外に目を向けて頑張ってもらいたい」と力を込めました。

JICAチェアが、さらなる学びや将来のキャリアの後押しに

JICAチェアの連続講義を受講した学生に感想を聞きました。

日本研究と国際関係に非常に強い関心があるというタリア・フランセスカ・プラセチョさんは、日本とインドネシアの関係について、さらに知識と理解を広げ、深めていく動機づけになったといいます。「私は今後、日本に関連するさまざまな課題、特に日本の文化、伝統、言語、人々について、さらに研究して経験を積むつもりです。そして、インドネシアと日本のさらなる相互理解のために貢献できるようになりたい。今回の講義を通して、卒業後のキャリアプランに向けて正しい道を歩んでいることを確信しました」と、将来への道筋も明確になったようです。「インドネシアと日本の若者が視野を広げ、絆を深め、今までにない方法で双方の社会に幸福をもたらし、他の国々と協力しながら次世代のために明るい未来をつくるためにも、他の学生にもJICAチェアを受講してもらいたいです」

人文学部のタリア・フランセスカ・プラセチョさん

人文学部のタリア・フランセスカ・プラセチョさん

アギル・ムスタキームさんは、講義で得られた知識を将来に活かしていきたいと意気込みます。「日本の政治や、日本の発展に影響を与えた歴史的、社会的要因について学ぶことができました。国際関係の複雑さと、それが日本社会に与える影響についても理解が深まりました。将来を見据えた、イノベーションと適応によって、他の国々と連携する機会を積極的に求めていきたいと思っています」。また、JICAチェアの受講を検討している人に向けて、「JICAチェアプログラムは、視野を広げ、意義のあるつながりを育み、自国の進歩に貢献するためのまたとない機会です。心からおすすめします」というメッセージを送りました。

社会・政治学部で学ぶアギル・ムスタキームさん

社会・政治学部で学ぶアギル・ムスタキームさん

JICAとともにJICAチェアの実施に関わった大学の教員たちも、連続講義にさまざまな意義を見出したようです。ヒマワン・プラタマさんは、学生たちが講義から得たものについて、「JICAチェアプログラムによって、学生たちは各分野の権威ある専門家から非常に重要なナラティブを聴くことができました。日本の近代国家としての成立から戦後の発展に至る幅広いテーマは、学生たちの好奇心や思考を刺激しています。将来、日本とインドネシアの友好関係の維持に貢献する人材になるためにも役立つでしょう」と評価しました。「日本とインドネシアのこれまでの関係について振り返ると同時に、両国が今後さまざまな分野でどのように協力していくか、建設的な議論をするきっかけにもなりました」

人文学部の教員、ヒマワン・プラタマさん

人文学部の教員、ヒマワン・プラタマさん

同じく、JICAチェア実施に関わった教員の一人、ロウリ・エステルさんは学生たちの様子について次のように語ります。「日本研究に対する学生たちの関心が高まりました。学生たちは積極的に講義に参加して、日本の開発経験について理解を深めています。JICAチェアは、日本の専門家と交流し、近代化の歴史を学べる優れたプログラムだと思います」。JICAと協力してプログラムを開催したことは、教員たちにとっても貴重な経験になったようです。「JICAチームはいつも協力的で、学ぶことがたくさんありました。JICAとインドネシア大学の協力によって、インドネシアと日本の関係について理解するだけでなく、両国の関係を今以上に持続可能で実りあるものにすべく、議論を重ねるための場ができたと思います」

人文学部の教員で教育マネージャーも務めるロウリ・エステルさん

人文学部の教員で教育マネージャーも務めるロウリ・エステルさん