イベント情報

パネルディスカッション第1部 気候変動と日本の今後を考える(1)
【イベントレポート】 シンポジウム『池上彰と考える 〜気候変動と森林保全〜』

<モデレーター>
池上彰氏(ジャーナリスト)
<パネリスト>
高村ゆかり氏(名古屋大学教授)
手塚宏之氏(経団連安全環境委員会 JFEスチール 技術企画部理事)
山岸尚之氏(WWFジャパン)
馬場未希氏(日経エコロジー COP21特派員)

プロローグ




池上 では、いよいよ専門家のお話を聞きましょう。今日はパネリストの方々と何の打ち合わせもしていませんから、筋書きがないんですね。こういうシンポジウムって筋書きがあって、それぞれの方にお話を聞いていく方法がありますが、私はそういうことが嫌なもんですから、全く何も筋書きなしということで、話はどこへ行くのか、楽しみに進めていきましょう。まずはそれぞれ簡単な自己紹介からお願いします。

高村 名古屋大学の高村でございます。どうぞよろしくお願いいたします。私は国際法、特にその中でも環境法を専門にしております。島根県の出身でございますけれども、おもに気候変動の分野、温暖化の交渉を、およそ20年近く国際会議などにも出席、参加をしております。他の環境条約の交渉にも関わっておりますけれども、COPに関することは、もっとも長くお付き合いをしている条約です。どうぞよろしくお願いいたします。

手塚 経団連国際環境戦略ワーキンググループの座長をしています、手塚と申します。私自身は、高村先生ほど、長くこの業界に携わってないですけども、一応、COP13、バリ島からですので、9回はCOPの現場に、ここにおられる皆さんと大体年に一度は、七夕じゃないですけど、会議の現場でお目にかかるのが恒例になっています。今日は産業界の代表ということで、そういう立場の発言をさせていただければと思ってやってまいりました。基本的に、温暖化問題は技術によって取り組んでいかなければいけないという性格のものだと思いますので、そういう面からの発言をさせていただければと思っています。よろしくお願いします。

山岸 WWFジャパンの山岸と申します。私は、今、スライドに表示していただいているパンダのロゴマークでおなじみの、WWFジャパンという環境NGOのメンバーです。このロゴマークがパンダであることからもお分かりいただけるかもしれませんが、世界的には野生生物の保護であるとか、先ほど出てきた森林の保全であるとか、あるいは海洋環境の保全といった分野でよく知られた環境NGOですが、80年代後半から、気候変動の問題についても活動しておりまして、私はその中でも気候変動問題をフォローしております。2003年からこの仕事をずっとやらせていただいておりまして、毎年のCOPにも参加しております。どうぞよろしくお願いいたします。

池上 はい、ありがとうございます。馬場さん、ちょっと待ってくださいね。これでパネリストの構図が分かりますね。環境問題を考えるNGOと、産業界の代表。そして中立的な学識経験者という、わかりやすい役割分担なんですが。そして、そこに馬場さん。日経エコロジーの特派員として、今回、COP21を取材されたわけですね。COP21について、3人の方々の見解をお伺いする前に、まずは馬場さんから、COP21取材報告をやってください。先ほど、5分前にお願いしたばかりですが、準備はどうでしょうか。お願いします。

COP21を取材した実感

馬場 はい、本日はこのようにたくさんの方々にお越しいただきまして、本当にありがとうございます。日経エコロジーの馬場でございます。よろしくお願いいたします。

先ほどお題を振っていただきまして、COP21を取材した感想を少しお話しいたします。先ほど、池上さんの基調講演でもありましたように、本当に2週間ほど前にパリ市内でテロが起きたということで、非常に、普段のCOPとはまた違った緊張感が漂う中で始まったという印象を持っています。COP21が始まる前から、さまざまな国際機関や国連、NGOなど様々な方々が発する情報の中にも、非常に緊張が漂っていました。テロに屈しないという意思とともに、そんな中で世界百数十カ国の首脳や閣僚が集まるわけですから、本当にいいものを作っていこうっていう意気込みが共有されていたと感じました。

ただ、共通認識を持っているからと言って一筋縄で進むわけではなくて、やはりいつもどおりの、様々な対立軸が交わる中で始まったと感じています。皆さんよくご存じなのは、先進国と途上国の役割分担、例えば途上国が、先進国に対しいっそうの対策強化を求めるなどという対立軸が昔からあります。その対立軸は今回の交渉でも終始色濃く残る中で、それでもいいものを作りたいという意気込みでハードルを越えていった。議長国フランスが、すごく丁寧に交渉を進めることで、その対立軸をほぐしていったといったような場面が、多々あったように聞いております。

実際、その交渉の現場を、記者とはいえ間近で見ることはできません。周りで聞く情報ではありますが非常にいい采配が行われた上で全ての国が納得してパリ協定が合意に至ったと聞いています。そのパリ協定も、全ての国が参加できるように様々な配慮が施されました。中でも米国に対する配慮が、随所に織り込まれた内容に仕上がっている。その辺りの評価は、またこれからパネリストの方がお話しくださると思います。

ただ、そんなふうにアメリカに配慮を尽くしたパリ協定ですけれど、今年、大統領選もあります。結果次第では、米国が今後、パリ協定に批准したとしてもまた離脱するような、京都議定書のように参加しないというようなリスクもあろうかと思います。その辺りはこれからも取材していきたいと思っております。

池上 分かりました。ありがとうございました。ということで、皆さん方、一般的にメディアの報道を聞いていると、パリ協定、何とか合意にこぎ着けたことはプラスに評価していいのかなという印象をお受けになっているのではないかと思うのですが、本当のところはどうなのか。実際にパネリストの3人の方は、どのように評価されているのか。それをまずはお伺いしましょう。まずは高村さん。このパリ協定をどのように評価していますか。

「パリ協定」への評価

高村 はい、私のスライドを出していただいてもよろしいでしょうか。ありがとうございます。法律の人間は、たくさん字ばかり書くんですけれども。私はパリ協定については、慎重ですけれども、積極的にと言いましょうか、ポジティブに評価をしています。

とくに大きな二つの点を申し上げたいと思いますが、一つは、国際社会が、これから温暖化に対抗していくのに、どういう方法で、どういう目標を持って進んでいくのかということを、今まで以上に明確に定めたということかと思います。これまでも工業化以前と比べて、世界の平均気温の上昇を2度よりも下回るようにするということは、政治合意では書かれておりましたけれども、今回、パリ協定という正式に、国際的に国を拘束する法的な行為の中に、2度を十分下回る水準に抑制をする。さらに1.5度に抑制をしていくという努力目標。これをきちんと定めました。

さらに、それを具体的にするために、今世紀後半に温室効果ガスの人的排出と人的吸収を均衡させる。これは12月11日の新聞で、多くの新聞が報道してたと思いますけれども、排出実質ゼロを今世紀後半に実現するよう目指すとしています。この具体的なイメージと言いましょうか、社会のビジョンというのを示したというのは、非常に大きいのではないかと思ってます。

ふたつ目は、各国が、今回は明確な目標を出しました。ほぼ全ての国が、日本の2030年の約束草案と同じように出したわけですけれども、これを、これから5年に1回、それぞれ各国が見直して、引き上げていくという仕組みが入りました。まだ2度目標には足りないのが、今の目標を積み上げた現状ですけれども、それを時間をかけて引き上げていく仕組み。持続的に目標を引き上げて、その目標に到達しようという枠組みを作ったという点では、ポジティブに評価をしています。

池上 つまり、今、それぞれの国が目標を積み重ねましたが、それを全部実現したからと言って、2度以内に抑えるという目標は達成できないということですね。

高村 はい。今、国際機関やシンクタンクなどが計算してますけれども、このまま何もしないよりは、1度ぐらい気温を下げる効果はあるけれども、しかし、それでも先ほど挙げました、長期の目標、2度未満というところには達しないということが分かってきています。

池上 ということを、これから5年ごとに点検をしながら、何とか抑えていこうということですね。そういう意味では、まだまだ不十分だけれども、それなりに意味があるという評価ということでよろしいでしょうか。

高村 はい。そのとおりです。

池上 分かりました。じゃあ、手塚さんは、どのように評価されていますか。

手塚 はい。まさに高村先生がおっしゃったとおり、パリ協定は、入り口の入れ物を作ったっていうことなんですね。ですから、実際に魂を入れていくのはこれから長い時間をかけて取り組んでいって、その中で何をやっていくかっていうことだと思います。

私のスライドの1枚目を出していただきたいんですけども、私の目から見たパリ協定のユニークなところはふたつありまして、ひとつは、構造が京都議定書とは全く違うものになったということ。ふたつ目は、技術のことに関する、あるいは技術が重要であるということを初めて国連のこういう条約の中に、きちんとピン止めしたということなんです。

構造がどうなったかということなんですけど、ご存じのように、京都議定書というのは、先ほど池上さんがおっしゃったように、先進国にだけ、しかもトップダウンで削減量を割り振るという構造を取ってたんですけれども、パリ協定はボトムアップで、各国がそれぞれ自主的に自分たちだったらこういうふうにやるという目標を国連に提出して、それを全部束ねて国連全体で取り組んでいく。しかも、進捗状況を5年ごとのレビューをかける。こういうようなことをやっていくっていうアプローチなんです。

実は、この構造は経団連が京都議定書の第一約束期間中に、環境自主行動計画という形で、各産業のセクターが自主的な目標を掲げて、それを毎年のフォローアップで、第三者評価委員会の前で説明していくという構造を設定したのと、ほとんどニアなイメージなんですね。従いまして、こういう、自ら自主的に何をやるかということを、最もその分野を分かっている人たちが目標を掲げる。達成できたならば、さらにそれを深堀りしていくということを、サイクルで繰り返していくというやり方。これは実は、既に日本で過去10年以上にわたってやってきているアプローチそのものなんです。

今回はある意味で、世界的に各国がメンバーになって、これをやっていきましょうと言っているわけですから、実は日本は、いろいろ情報なり、ノウハウなり、方法論なり、こういうものを提供できる立場にいるんじゃないかと私は思っています。むしろ、これが最も効果的なアプローチなんだということを、日本は、経団連だけではなくて、政府も主張してまいりましたので、まさにこれから日本がこの分野で頭角を現すというか、存在感を出していける枠組みができたんじゃないかと考えています。

さらに、このパリ協定の中では、先ほど高村さんがおっしゃった、今世紀末までに排出削減をバランスさせて、ゼロ・エミッションに持っていく。こういうことをやろうと思ったら、絶対的に今ある技術だけでは足りなくて、新しい技術の開発を含めた、イノベーション的な取り組みが必要になってくるということが、きちんとパリ協定の中では必要性がうたわれてます。この部分も、これからまさに日本が取り組んでいく中で、実績を上げなければいけない分野というふうに思っております。

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