プロジェクトニュース 第35号

自己決定理論とは?
~出席率の高さの秘密~

SHEP BizプロジェクトにJICA本部からOJTとして参加している松田です。今回は、11月6日(月)~9日(木)にMakueniカウンティのKaitiとKilomeの2サブカウンティで実施した定期データ調査の様子をOJT目線でお届けいたします。

―定期データ調査とは?
SHEPアプローチを開始する前に農家に対して生産量や所得と推奨栽培技術の採用度を知るためにベースライン調査を行い、2年後に全く同じ調査を行うことで、研修の効果を定量的に測るものです。

突然ですが、ここで読者の方にご質問です。
SHEPだけでなく、他の技術協力プロジェクトにおいて、JICAが技術を移転する相手方・多くは先方政府の行政官(以下、カウンターパート職員)や受益者に対して持つ不満とは何でしょうか?

私がよく耳にする言葉は「受益者がプロジェクトや研修に積極的に参加してくれない」ことです。受益者からするとJICAは数多くのドナーの一つにすぎず、自分に直接的な利益がない限り、あまり積極的に活動に参加しない場合があります。しかし、プロジェクトの形成段階においては受益者がプロジェクトや研修に参加するという仮定の下、成果を設定します。もちろん受益者によりますが、あまり興味を持ってくれない人たちがいることも事実です。

多くの技術協力プロジェクトでは、カウンターパート職員はプロジェクト活動と兼務する通常業務があるため日程調整が難しいことが顕著ですし、受益者は、手当や昼食代をこちらから支払わない限り、研修にはなかなか参加してくれません。しかし、今回の定期データ調査対象のモデル農家は、新しい技術を学べるわけでもなく、手当などが支払われるわけではないのに、皆さん会場に集まってくれました!(対象農家40名中34名の方が参加。欠席者の内4名は豪雨の影響により橋が流され参加が叶いませんでした。)これは本当に素晴らしいことだと思います。

なぜこれほど参加率が高いのでしょうか?

私は参加率が高い理由は二つあると考えました。
① 研修中のグループワークが多く、グループに仲間意識ができたため。
② 一年間かけて丁寧に研修を行うことで、普及員と農家にしっかりとした人間関係ができていたため。
これらはSHEPアプローチのコンセプトの一つである自己決定理論によって研修が構成されていることにより、農家のモチベーションが上がるような仕掛けが施されていたからだと思います。(自己決定理論とは他者の決定に基づいた行動をとるのではなく、自分たちで話し合いを行い、結論を導くことで、その結論に基づいて行動することを指します。この理論では、農家達の自律性、コンピテンス、関係性の3つが向上することを期待しています。詳しくは下のリンク参照。)実際に農家の方に参加した理由を伺うと「他の農家との情報交換がしたかった」や「いつもサポートしてくれる仲の良い普及員に誘われた」からとの声が上がりました。

さらにSHEPの4つのステップの内、ステップ1:対象農家選定と目的共有において、プロジェクト活動説明会が実施されます。そこで、SHEPは①農家に日当や農業資材は配らないプロジェクトであること(どういったことをどういう条件で学ぶかの説明)、②成功した農家の事例を共有、③対象グループへの2年後の定期データ調査への協力依頼、を行います。それらの条件に同意した農家の方のみが、このプロジェクトに参加してくれます。このように最初に丁寧に説明をすることも、農家たちのプロジェクトに対するコミットメントを強くしているのだろうと思います。

研修全体を通して、農家同士や普及員との結びつきが強くなっており、定期データ調査ではそれぞれの農家の体験を共有する良い機会となっていました。

このようにSHEPアプローチでは、技術移転だけではなく、いかに現地の人がオーナーシップを持ち、内発的なモチベーションによって動くことができるかを考え、現地の文化やリソース、コミュニティーの特性を鑑みたプロジェクトであるからこそ、大きな成果が生まれているのだと思います。

この考え方はSHEPだけでなく他の技術協力プロジェクトや現在関わっている無償資金協力のスキームにも人材育成の観点から適応可能なアプローチだと思います。実際に農家の方が積極的に調査に参加するような現場に同行させていただいたことは非常に大きな財産となりました!

参照

写真1 Kaitiでの調査風景

写真1 Kaitiでの調査風景

写真2 Sultan Hamudでの調査風景

写真2 Sultan Hamudでの調査風景

写真3 普及員への指導風景

写真3 普及員への指導風景