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障害者と企業をつなぐジョブコーチ制度をモンゴルへ <上>

地域に密着した日本の支援機関と行政の積極的な取り組みに学ぶ

冷たい小雨が降りしきる2月中旬、モンゴル人研修員18人と介助者が大阪を訪問した。メンバーは、モンゴルの社会福祉分野の政策を所管する労働社会保障省をはじめ、障害者開発庁や労働社会福祉サービス庁、首都ウランバートル市の労働福祉局で障害者の就労促進に関わる行政に日々、携わっている行政官や公務員、企業の人事担当者、障害当事者団体など、多様な顔ぶれだ。一行は、モンゴルの労働社会保障省と国際協力機構(JICA)が2021年から実施している技術協力「障害者就労支援制度構築プロジェクト(DPUB2)」の活動の一環として、日本の障害者の就労現場を視察し、支援機関の取り組みや役割、ジョブコーチがどのように活躍しているのか学ぶために来日した。

アセスメントからフォローアップまで手厚く支援

「ミスマッチをしないためには、本人と企業へのアセスメントがどちらも大切です」「ジョブコ―チは、いなくなった後をイメージして黒子に徹します」「状態が安定している時から、崩れの予兆がないか注意を払うことも大切です」

はきはきとした説明に真剣な表情で聞き入る研修員たち。食い入るようにスライドを見ながら、時折、うなずく人もいれば、ペンを走らせてメモを取る人もいる。大阪市西北部の淀川区にある社会福祉法人加島友愛会の会議室は、この日、窓の外に広がる灰色の空とは対照的に、高揚感と熱気に満ちていた。

熱心に質問する研修員

熱心に質問する研修員

Linkの役割とジョブコーチの活動について説明するスタッフの水津由衣さん

Linkの役割とジョブコーチの活動について説明するスタッフの水津由衣さん

加島友愛会は、淀川区の加島および三津屋地域に密着した福祉の提供と充実を目指して、30年にわたり障害者や高齢者を対象に社会福祉事業を運営している。このうち障害福祉については、障害のある人が一人でも多く社会で働いて認められるようになることを目指し、2006年に加島友愛会内に立ち上げられた「かしま障害者センターLink」(以下、Link)の就労支援員が障害者のアセスメントを行ってから施設内作業や職場体験実習の機会を提供し、立ち仕事への慣らしや業務中の私語禁止、上司への敬語の使い方など、就業生活に必要な労働・生活習慣の確立と社会生活スキルの向上を支援している。さらに、障害者就労支援事業部の職場適応援助者、いわゆるジョブコーチと共に職場の開拓やアセスメントを行ってジョブマッチングをしているうえ、就職してからも必要に応じて職場を訪ねフォローアップを行うなど、長く働き続けられるように手厚い支援を行っている。これまでに就労を実現した利用者は、200人を超える。

就業生活に備えてさまざまな作業に取り組む様子を興味深そうに視察する研修員たち

就業生活に備えてさまざまな作業に取り組む様子を興味深そうに視察する研修員たち

ホテルや病院の業務に多いタオルの四つ折り作業に取り組む利用者たち

ホテルや病院の業務に多いタオルの四つ折り作業に取り組む利用者たち

一般的な事務系の職場さながらのレターケースの前で書類の仕分けマニュアルを眺める研修員(中央)と、Link支援課長の玉城由美子さん(右)

書類の仕分けに関するマニュアルは、難易度別にレベル分けされている

一行は、Linkの活動についてスタッフの水津由衣さんから説明を受けてから2グループに分かれ、Link支援課長の玉城由美子さんと水津さんに案内されて施設内を見学。利用者が真剣な面持ちで液体を一定量計って小瓶に移すトレーニングに励む様子を見守ったり、一般的な事務系の職場を模して伝票や書類、マグネットやカードリングなどが種類ごとに分類されたレターケースと仕分けマニュアルに見入ったりしていた。隣の部屋では、タオルの角を合わせ四つ折りにして重ねる作業も見学。「ホテルや病院に就職するとこうした作業に従事することが多いため、実践的にトレーニングをしています」という玉城さんの説明を聞きながら、皆、大きくうなずいていた。

拍手が沸いた利用者の体験談

3日間にわたる大阪での研修中、一行はほかにも、大阪市職業リハビリテーションセンターや大阪障害者職業センターの職員から行政として障害者雇用の促進に向けた支援制度について説明を受けたり、大阪府庁内のハートフルオフィスやハローワークを訪問して行政機関と民間企業の雇用現場を視察したりと、密度の濃い時間を過ごした。

大阪市職業リハビリテーションセンターの役割と業務について説明する酒井京子所長

大阪市職業リハビリテーションセンターの役割と業務について説明する酒井京子所長

大阪市職業リハビリテーションセンターでトレーニングを受けてキンキ道路株式会社に就職した児島憲太さん(左)も上司とともに登壇し、自身の経験を語った

大阪市職業リハビリテーションセンターでトレーニングを受けてキンキ道路株式会社に就職した児島憲太さん(左)も上司とともに登壇し、自身の経験を語った

1985年4月に設立された大阪市職業リハビリテーションセンターでは、身体や知的、精神、発達障害がある人が仕事に就き、働き続けられるように職業訓練を行っている。酒井京子所長は、同センターには1年間のコースと1~4カ月の短期コースがあり、パソコン作業や作業訓練を提供しているほか、コミュニケーション技術の指導や資格の取得支援も行っていると説明した。これまでに約1,600人が同センターから社会に巣立ち、現在も55人が訓練を受けているという。

続いて2021年4月から同センターで職業訓練を受けた後、キンキ道路株式会社に入社を果たした車椅子利用者の児島憲太さんが、上司とともに登壇。就職活動中の自身の経験や、現在、同社で担当している業務、仕事をする中で感じていることなどについて語った。児島さんの率直な体験談に研修員たちは興味津々な様子で聞き入り、たびたび拍手が沸き起こった。

高齢・障害・求職者雇用支援機構の下部組織である大阪障害者職業センターも説明を行った

高齢・障害・求職者雇用支援機構の下部組織である大阪障害者職業センターも説明を行った

一方、職業センターは、厚生労働省直轄の独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の下部組織で、全国47カ所と支所5カ所ある地域障害者職業センターの1つとして、高齢者、障害者、求職者、事業主などに総合的な支援を実施している。各センターには職業カウンセラーが配置され、ハローワーク、障害者就業・生活支援センター、医療・教育・福祉の関係機関との密接な連携の下で、地域に密着した職業リハビリテーションサービスを提供している。大阪障害者職業センター主任カウンセラーの清家慎太郎さんは、同センターの業務の中で特にジョブコーチによる支援体制について詳しく説明したうえで、「ジョブコーチの支援は、交代やストレス面にも配慮して複数体制で行うようにしています」などと説明した。また、大阪支部の丹羽政仁さんは、高齢・障害・求職者雇用支援機構が行っている事業主支援の流れと助成金の仕組みについて説明した。

大阪府福祉部障がい福祉室自立支援課の杉森ゆかり課長補佐は、大阪府の障害者雇用の取り組みについて説明した

大阪府福祉部障がい福祉室自立支援課の杉森ゆかり課長補佐は、大阪府の障害者雇用の取り組みについて説明した

府庁の1階にあるハートフルオフィスを見学する研修員たち

府庁の1階にあるハートフルオフィスを見学する研修員たち

大阪府福祉部障がい福祉室自立支援課の杉森ゆかり課長補佐は、大阪府内で障害者手帳を所持している人数や障害種別などについて概観した後、就労系福祉サービスの事業所数や利用者数、障害者の就労支援に向けた取り組みを紹介。大阪府が知事のイニシアチブの下、全国トップレベルの障害者雇用を維持していることにも触れた。また、障害者を府庁で非常勤職員として雇用し、その経験を通じて一般企業などへの就職を実現する「大阪府ハートフルオフィス推進事業」についても紹介したうえで、府庁の1階にあるハートフルオフィスや、府内の障害福祉施設でつくられた雑貨や焼き菓子などを販売する「福祉のコンビニ こさえたん」を実際に案内した。

ハローワークの機能と役割について説明する専門援助第1部門の伊豫信明さん

ハローワークの機能と役割について説明する専門援助第1部門の伊豫信明さん

伊豫さんの説明に熱心に聞き入る研修員たち

伊豫さんの説明に熱心に聞き入る研修員たち

子育て中の女性を支援するマザーズコーナーについて説明を受ける研修員たち

子育て中の女性を支援するマザーズコーナーについて説明を受ける研修員たち

障害者コーナーでも熱心な質疑応答が続いた

障害者コーナーでも熱心な質疑応答が続いた

パソコンで求人情報を閲覧できるコーナーも整っている

パソコンで求人情報を閲覧できるコーナーも整っている

研修員たちはハローワーク淀川内を見学しながら、事業者と求人者をつなぐハローワークの機能について学んだ

研修員たちはハローワーク淀川内を見学しながら、事業者と求人者をつなぐハローワークの機能について学んだ

さらに一行は、求職者と企業に向けてさまざまなサービスを無償で提供するために国が運営しているハローワーク(公共職業安定所)の仕組みを知るために、ハローワーク淀川も訪問した。専門援助第1部門で統括職業指導官を務める伊豫信明さんは、ハローワークの役割と機能について概観したうえで、近年の登録状況について、「精神障害者や発達障害者が急増しています」と述べた。そのうえで、「今後、さらに障害者雇用を進め、定着を図るためには、ハローワークの支援だけではなく、“社会資源”として関係機関とも連携し、チームとして取り組むことが不可欠です」と強調。「どの社会資源に参加してもらい、どんな動きをしてもらうかコーディネートしていくことがハローワークの役割です」と、熱く語った。

その後、3グループに分かれてハローワーク内を見学した研修員たちは、求職者で賑わう職業訓練の申し込みコーナーや、子育て中の母親向けに設置されたマザーズコーナーの様子を興味深そうに見て回った。

(DPUB2 本邦研修ルポ②に続く)