4. SPLASHプロジェクト研究テーマ3 「水・衛生アクションプランの実践のための地域における社会関係の構築」について
みなさん、こんにちは。わたしは京都大学アフリカ地域研究資料センターで歴史人類学が専門の中尾世治(准教授)です。
ひとは一人では生きていけない、という言葉を聞いたことがあると思います。一般的には、この言葉に続いて、自分が一人で成し遂げたと思うことも、誰かの支えがあってこそ、可能になっているということが語られるでしょう。しかし、私が、この言葉が重要だと思うのは、たった一人、自給自足で生きるというのが困難であるというありふれた事実です。
そもそも、ひとが生まれ育つには、他のひととのかかわりが必要であり、そうした意味で、ひとは社会関係のなかで生きています。仕事やご近所付き合い、親族関係、趣味の仲間や信仰を通したつながりなど、そうした社会関係のネットワークのなかで、ひとの生活は営まれています。これはごくごくふつうのことです。
しかし、衛生にかかわる行動を変えたいという「行動変容」による「ひと」へのアプローチでは、このありふれた事実が、しばしば抜け落ちてしまいます。すこし極端な言い方をすると、一人の個人に、衛生や衛生環境にどれほどの知識があり、どのように認識し、どのような行動をとっているのかといったことを測ったり、どのような知識やインセンティブが行動変容のために必要とされるのか、どのような行動変容を促すためのツールがありうるのかといったことが中心に議論されたりします。
たしかに、こうしたこともとても重要です。そうではあるのですが、ひとは、一人の個人としてだけではなく、さまざまな社会関係のなかに埋め込まれて生きています。そうした社会関係のなかで、知識や認識は共有され、場合によっては、行動も変容することもあるでしょう。そうした社会関係に着目するアプローチも探求されてよいのではないでしょうか。
研究テーマ3では、対象となる地区の社会関係のネットワークを知り、そのネットワークのなかに、このプロジェクトの活動を組み込んでいくことを想定しています。具体的には、対象となる地区の歴史的な背景を、かつての調査のレポートや住民へのインタビューを通して明らかにしていきます。そのなかで、その地区の社会関係のネットワークがどのようにつくられていったのかという経緯を知り、現状の把握をおこなっていく。そして、そうした調査のなかで、このプロジェクトの活動にかかわる社会関係のネットワークを構築していこうと考えています。
京都大学 アフリカ地域研究資料センター 中尾世治(准教授)