最終報告書の完成

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2015年3月から2016年3月の約1年間に亘り、JICA中国事務所は「企業の社会的責任(CSR)実践における企業と社会組織との連携」に関する調査を実施しました。本調査では、中国における日系企業(以下、「日系企業」)のCSR活動の取り組み状況及び中国の社会組織に関する情報を整理・分析しました。また、日系企業と社会組織との連携に関する現状及びニーズを把握し、さらなる発展に向けて、各機関に向けての提言をまとめ、最終報告書を作成しました。アンケート調査では、企業194社、社会組織199団体にご協力いただき、また企業22社、社会組織20団体にインタビューをお受けいただき、事例研究を行いました。最終報告書及び事例集については、JICAホームページ上で公開しています。

背景

近年、世界で企業の社会的責任(CSR;Corporate Social Responsibility)への関心が高まっています。中国においては国内企業のみならず外資企業のCSR活動も活発化しつつあり、日系企業も積極的に推進しています。また、中国では近年、社会組織(中国で非営利法人の総称。社会団体、基金会、民間非企業機関を含む)が市民社会を構成する重要なアクターとなっており、特に防災減災や環境保護、医療、高齢化対策、貧困削減、教育などの分野において、政府が代替し得ない重要な役割を果たしています。
これらの背景を踏まえ、日系企業によるCSR活動及び中国社会組織に関する情報を整理・分析すること、また、日系企業と中国社会組織との連携を促進することを目的として、「企業の社会的責任(CSR)実践における企業と社会組織との連携」に係る調査を実施しました。中国で社会貢献活動を行いたいと考えている日系企業と、中国が抱える課題の解決に取り組んでいる社会組織との連携可能性を探り、両者の効果的な連携・活動の発展を目指しています。本調査は、JICAから北京師範大学社会発展・公共政策学院へ委託し、また中国日本商会を通じて各商工会・日本人会及びその会員企業の皆様の協力支援をいただいて実施しました。

調査手法

本調査では、文献研究を通じ、中国社会組織、企業の社会的責任、企業と社会組織との連携の現状を分析しました。また、アンケート調査と事例研究を通じ、日系企業のCSR理念と実践、中国社会組織のCSR認知と理念、企業と社会組織との連携実践及び今後の連携のニーズについて分析し、提言をまとめました。
本調査期間中、2015年4月、10月、12月の3回に亘って毎回100名規模の報告会を開催し、調査の進捗を報告すると共に、有識者を初めとする関係者の方々からの意見を求める場を設けました。また、CSR実践における企業と社会組織との連携事例につき、企業・社会組織それぞれの立場からご紹介いただきました。最終報告会では、日本から講師を招き、日本のCSRのトレンドについてもご発表いただきました。

調査結果概要

1.日系企業のCSR理念と実践

1-1.中国において取り組んでいるCSR業務

今回の調査に参加した日系企業の多くは、従業員、環境等の分野でCSR活動を展開していることがわかりました。一方、サプライチェーンマネジメント(サプライヤーが環境、労働、人権などの面で一定の社会的責任の基準に達することを要求、指導、監督する)において、CSR活動を展開する日系企業の割合は比較的低く、38%(71社)でした。経済のグローバル化が進む中で、国や地域を越え、グローバルな投資、生産、貿易を行う可能性・必要性が増えていきます。企業がグローバルな経済活動を行う中で、サプライチェーン(あるいはバリューチェーン)の有効な管理は避けられない課題であり、世界的に見ても企業CSRに係る政策やガイドラインの中で、サプライチェーンへの関心が高まっています。

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図1-1. 中国において取り組んでいるCSR業務

1-2.ステークホルダーへの認識

日系企業のステークホルダーに対する認識は、欧米企業のそれと顕著な相違が見られました。日系企業は、CSRの視点から見て、社会組織を主なステークホルダーと認識する場合が少ない(19%;36社)との結果が得られました。こうした傾向は、10年前は社会組織の活動が限られており、CSR活動において果たしうる役割が大きくなかったことが影響していると思われます。しかしながら、ここ10年間は高度増長期であり、下図のように、中国で正式に登録された三種類の社会組織(社会団体、民間非企業機関、基金会。以下、「社会組織」)は顕著に増加しており、社会組織がCSR活動で果たす役割も向上していくものと考えられます。

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図1-2. 中国社会組織の増加傾向

2.企業と社会組織との連携

2-1.CSR業務において社会組織が発揮すべき役割

本調査の結果によると、44%(82社)の日系企業と38%(53社)の社会組織が、社会組織が発揮すべき役割として、「シンクタンクとして、コンサルティングサービスを提供し、CSR戦略計画の作成・整備を支援する」ことを挙げました。一方で、社会組織がそうした役割をCSR活動の中で発揮した実績があると回答した企業は20%(36社)、社会組織は19%(26社)と少数であり、双方にとって期待と実態に乖離があることがわかりました。

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図2-1. CSR業務において社会組織が発揮すべき役割

2-2.今後、日系企業と社会組織が連携を期待する分野

今後、日系企業と社会組織がそれぞれ連携を期待する分野は環境、社会発展、従業員、サプライチェーン管理、製品とサービスなど多岐の分野に亘ることがわかりました。中でも、社会発展分野での社会組織のニーズは特に高く、これは主に、「社会サービス(高齢者・児童・障害者向けサービス)」や「教育」、「救災・防災・減災」を指します。これら分野で、双方のさらなる連携発展が期待されます。

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図2-2. 日系企業と社会組織が連携を期待する分野

2-3.日系企業と社会組織との連携を促進するために必要な措置

しかしながら、日系企業と社会組織との連携は一般的ではなく、「連携したことがない」と答えた企業は71%(136社)、社会組織は60%(119社)に上りました。連携していない主な理由としては、共に相手を理解・接触する機会がないことが挙げられました。双方の連携に当たっては実際に様々な困難があることから、多数の日系企業(64%;119社)と社会組織(97%;194社)より、連携を促進するための何らかの措置が必要だと回答がありました。具体的には、プラットフォームの構築や研修の実施、政府機関による必要な支援等を期待する意見が挙げられました。

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図2-3. 日系企業と社会組織との連携を促進するために必要な措置

今後の予定

企業と社会組織の連携及びそれらの活動の展開には相互の信頼関係の構築が必要です。本調査の結果を踏まえ、JICA中国事務所はこれまで行ってきた開発協力の経験を生かし、今後も日系企業と社会組織間の連携の後押し・協力の発展推進を進めていきます。

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