【草の根技術協力事業の紹介】メキシコ国メキシコ市における上下水道震災対策強化プロジェクト(地域活性化特別枠) ~災害対応を強化する、メキシコ市上下水道局の応急活動マニュアル策定~

#6 安全な水とトイレを世界中に
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#11 住み続けられるまちづくりを
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#17 パートナーシップで目標を達成しよう
SDGs

2024.04.03

プロジェクトの始まり

2017年9月10日のメキシコ地震では多くの建物が倒壊しました。

メキシコは、これまで地震、津波、火山の噴火、ハリケーンなど様々な自然災害による被害を受けてきました。中でも地震に関しては、メキシコ国土はココスプレートが北アメリカプレートに潜り込むプレート境界に位置していることから、プレートの活動に起因した地震発生のリスクが高い地域となっています。
1985年9月19日にメキシコの太平洋岸で発生したマグニチュード8.0の地震により、メキシコでは死者約1万人、建物倒壊は全壊半壊合わせて約10万棟に上る甚大な被害が発生しました。それから32年後2017年のなんと同日(9月19日)にも、メキシコ中央部を震源とするマグニチュード7.1の地震が発生しています。

この2回目の地震でもメキシコ市では多くの建物が倒壊または損壊し、上下水道施設も多くの被害を受け広範囲で断水し、一時は約300万人が断水の影響を受けました。こうした被害を受け、上下水道事業を担うメキシコ市上下水道局(SACMEX)においては、地震対策を早急に進めることが喫緊の重要な課題であると位置づけられ、そこで開始されることとなったのがメキシコ市の震災対策の整備・強化を目的とした草の根技術協力事業「メキシコ市における上下水道震災対策強化プロジェクト」です。

今回、このプロジェクトで策定された「応急活動マニュアル」について、実施団体である名古屋市上下水道局より詳しいレポートをいただきましたので、皆様にお届けいたします!

実施前の状況

水道、下水道は、重要なライフラインとして、地震発生後においてもその機能は維持される必要があり、万一、機能を損なう被害が発生しても、できる限り早期に復旧し、機能を回復させなければなりません。そのためには、施設等の現状を正しく把握し様々な被害想定をしたうえで、発災時の応急復旧活動に速やかに取り組めるよう準備をしておく必要があります。
SACMEXでは、大規模な被害が発生した際に必要な応急活動について、各職場の担当職員の頭の中には情報があるものの、その情報は担当者間で口頭により継承されるにとどまっており、全ての職員に緊急時の対応が浸透しておらず、担当職員が不在の場合は早急に対応することができない状況でした。そこで本プロジェクトでは、いつ発生するか分からない災害に備えるため、いつでも誰でも見ることができる緊急時の応急活動マニュアルを作成することになりました。

地震により処理水送水管も被害を受けました。

マニュアルの内容

まずは、各施設の運転管理担当職員に対して聞き取り調査を行い、緊急時の行動について情報を収集しました。その上で、早急な応急復旧に大きな影響を与える初期対応をフローチャートとして可視化し、災害発生後に職員が統一した行動ができるように応急活動マニュアルを作成しました。また、各現場で確認すべき箇所を図や写真で明示し、情報の分かりやすさにも工夫を凝らしました。加えて、被災時に混乱しやすい情報伝達方法についてもルールを作り、誰が誰に対してどの様式を使って報告するかという情報を掲載しました。

初期対応のチヤート図

チェックする箇所を写真で明示

報告様式




訓練の実施

専門家によるマニュアル改善指導を行いました。

マニュアルの実行性を高めるためにメキシコ市の上下水道施設で、マニュアルを用いた応急活動の訓練を行いました。訓練には名古屋市から派遣した専門家も参加し、改善点について指導を行いました。これにより、実際の施設の状況や運用に合ったマニュアルに改善することができました。冒頭でメキシコでは奇しくも1985年と2017年の同じ日に大きな地震が起きていることをお伝えしましたが、メキシコではこの忘れられない日、9月19日を防災に関する非常に重要な日として指定し、毎年、大規模な防災訓練を実施しています。2022年の9月19日には、名古屋市の専門家もこの防災訓練に参加し、作成されたマニュアルの活用状況を確認することになっていましたが、なんとその訓練の最中に、メキシコ市でマグニチュード7.1の地震が発生したのです。この地震では揺れはあったものの幸い大きな被害は出ませんでしたが、プロジェクトでは、非常にリアルな状況下で、作成したマニュアルを元にスムーズに初期対応ができている状態を確認することができました。余談ですが、同月同日に同じ地域でマグニチュード7を超える地震が3回起きる確率は0.00000024%とのことです。

マニュアル更新体制の確立と周知

二次元コードでマニュアルにアクセスできます

プロジェクトでの取り組み以降、応急活動にかかる訓練はSACMEXの職員により自主的に行われており、マニュアルの記載内容と訓練の実施結果を確認しながら、不足する部分が継続的に改善されています。現在ではメキシコ市において、現場の職員による訓練からマニュアルを改定する業務の体制が確立されました。
完成したマニュアルは、いつでも誰でも見られるように工夫を凝らし周知されています。従来のように冊子にされたものが配置されるだけでなく、施設内の目につきやすい場所に二次元コードを掲示してデータを読み込みできるようにしています。こうすることで冊子の保管場所まで出向くことなく、マニュアルを閲覧することが可能になりました。大規模災害発生時に施設が停電した際にも非常用電源が起動し、データベースへのアクセスはできるようになっています。また、SACMEX職員への啓発用資料としての分かりやすい動画を作成し、組織内での研修で使用するなど、マニュアルが浸透しやすくなるよう工夫もされています。

今後の継続性

本プロジェクトで作成されたメキシコ市の上下水道施設における災害時の応急活動マニュアルは、SACMEX職員に広く周知されました。応急活動マニュアルの研修を受けたSACMEXの職員約5,300人に対して理解度のアンケート調査を行ったところ、90%以上の職員が理解できると回答をしたことから、とても効果的なマニュアルが作成され、地震対策が推進されていることが確認されました。SACMEXとしてもその効果を実感しており、緊急時訓練とマニュアル改定は非常に有用であると位置づけられ、プロジェクト終了後も訓練を3か月ごとに継続して実施していく計画があると聞いています。応急活動体制が確立していなかったプロジェクトの実施前と比較すると、大きく進歩できたと思います。日本と同じく地震大国であるメキシコにおいて、この応急活動マニュアルが市民の命を守る大きな助けになることを願っています。

災害時に活用できるよう、マニュアルの更新も必要です

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