【草の根技術協力】活動の本格化に向け第2回現地渡航を実施/パル市集団移転地における災害に強いコミュニティ形成事業

#11 住み続けられるまちづくりを
SDGs
#17 パートナーシップで目標を達成しよう
SDGs

2023.09.28

東日本大震災の経験をもとに、災害に強いコミュニティづくりを支援

 2018年9月に発生したスラウェシ島地震で、津波や液状化現象など甚大な被害を受けたインドネシア中部スラウェシ州。住民の集団移転が進む州都パル市では、宮城県岩沼市と公益社団法人 青年海外協力協会(JOCA)による草の根技術協力事業を通して、災害に強いコミュニティづくりに取り組んでいます。

 22年9月から3カ年計画で進行中の本事業は、ベースメント調査による現状分析を終え、活動をより本格化するフェーズに入りました。これにあたり、23年7月に事業開始以来2度目となる現地渡航を実施。日本側のプロジェクトメンバー5名がパル市を訪れ、約10日間にわたり現地のカウンターパートとの協議や住民へのヒアリング、各地の視察などを行いました。

集団移転地区で暮らす住民たちへのヒアリング

自主防災組織がある村はわずか1割。モデル地区・トンドに寄せられる大きな期待

 本事業が対象とするのは、沿岸から5kmに位置する集団移転地・トンド地区。2021年にパル市でもっとも早く移転が始まり、住民数も1,500世帯3,000人を有する大規模な移転地です。このトンド地区で住民を主体とする防災組織を立ち上げることが、事業の大きな目標になります。

 トンド地区での取り組みは、パル市全体の防災力強化にも関わるもの。そう話すのはプロジェクトマネージャーの星英次さんです。「8つの行政区とその中にある49の村で構成されるパル市では、村単位で結成する自主防災組織の枠組みを定めていますが、実践する村は現状5つにとどまります。さらに、トンド地区のような村よりも小さなコミュニティベースの防災に至っては、その仕組みも整備されていません。トンド地区での活動は、他の移転地や村への横展開を視野に入れたモデルケースで、非常に重要な取り組みと捉えています」

トンド地区の町並み

2度目のパル市訪問でより確かになった、カウンターパートとの協力体制

 自主防災組織の立ち上げに向けてキーワードとなるのは「人材育成」です。インドネシアには各地域に、日本の町内会にあたる「RT」、RTがいくつか集まってできる連合町内会「RW」という行政の出先機関が置かれます。トンド地区にも6つのRTと2つのRWがあり、自主防災組織のコアメンバーには、このRTやRWのコミュニティリーダーらを含めることを想定しています。

 加えてコアメンバーとして参加を期待されるのが、自主的に防災に取り組む住民たちだと、プロジェクトマネージャー補佐の内田恭男さんは話します。「トンド地区はたびたび大雨による水害に見舞われていますが、その際にボランティアで泥のかき出しなどを行っている住民グループがいることが分かりました。彼らにも、地域の防災リーダー候補としてプロジェクトに参加してもらおうと考えています」

 今回の渡航は、自主防災組織のメンバーとなるコミュニティリーダーや住民たちと顔を合わせ、活動をともにする意思を共有する機会でもありました。具体的な組織の仕組みなどは、既存の村単位の防災組織をベースとするため、これを管轄する市の防災局との協議も重点的に行われました。また、人材育成のためにはマニュアルの整備も重要です。こちらも防災局と連携しながら「ベースとなる日本のシステムをどのようにインドネシアに合わせていくか」といった検討が進められました。

自主防災組織の立ち上げに向けた、カウンターパートとの協議

トンド地区のコミュニティに息づく「ご近所さん」の関係性

 取り組みにはさまざまな課題があるものの、トンド地区には大きな希望が感じられます。それは地域防災においてもっとも重要な資質が同地区に備わっているからです。

 内田さんは1年前を振り返りこう話します。「我々は東日本大震災の集団移転で高齢者の独居生活による孤立などを経験してきたので、今回の移転地でのコミュニティ形成にも同じような問題があるだろうと予想していました。しかし事業開始時に初めて現地を訪れてみると、住民たちは自分たちのコミュニティの中で我々が予想していた以上に多くの交流を行っていることがわかりました。災害時に重要なのは、平時のつながりです。あの家には高齢者がいる、赤ちゃんがいる、身体障害者がいる。そうした情報が何気ないコミュニティ活動を通して共有されていることが、いざという時にはとても大切なのです」

 今回の渡航では、バドミントンやエアロビクス、さらには日本の盆栽と、趣味を通じて町内会を超えた交流を持つ住民たちの姿も印象的だったといいます。防災もこれをヒントに「無理やり人を集めるのではなく、皆が興味を持つことをきっかけにできたら」と考えているとのこと。星さんもまた「インドネシアには他人を気遣う国民性があり、かつての日本で見られたようなコミュニティがまだまだ息づいている」と取り組みへの手応えを語ります。

エアロビクスを行っているコミュニティグループの活動風景

行政の情熱も後押しに。現地との心強い連携で歩み続けるプロジェクト

 本事業にかける行政側の情熱もまた、取り組みをさらに加速させます。「2023年3月に行われた初の来日研修にはパル市長も同行し、『パル市を災害に強い町にするんだ』という強い意志を感じました。トップのイニシアチブのもと、現地の皆さんに積極性に事業に取り組んでもらえることを非常にうれしく感じています」と星さん。

 これからの目下の取り組みは、RT・RWのコミュニティリーダーを現地の指導者として育成すること。23年9月から10月にかけては2度目の来日研修を実施し、岩沼市の自主防災の取り組みなどを学ぶ予定です。現地の前向きなパワーと日本の経験を掛け合わせて前進を続けるプロジェクトの未来に、ますます期待が高まります。

ハディアント・パル市長(中央)を交えた集合写真。左から6番目は星さん、市長の右隣は内田さん

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