【青年研修】保健医療(母子保健)A/アフリカの未来を担う医療人材育成を目指して

2024.03.01

産前・産後を通して多くの母子の命が失われるアフリカの国々。2021~22年の調査データによると、日本とほぼ同じ人口を有するエチオピアでは、年間約10万人の赤ん坊が生後一カ月を待たずに命を落とし、約1万人の母親が妊娠関連の原因で死亡しています。これは日本の150~300倍近くにもなり、出生数に対する死亡率で見ればさらに深刻な状況にある国も少なくありません。

母と子の命を守るため、アフリカ各国の保健医療の向上を目指す

JICA東北では2023年11月30日から12月8日にかけて、母子保健の知識や技術の習得、管理能力の向上を目指す研修を開催しました。妊産婦や新生児の死亡率が高いアフリカの国々を対象とする本研修には、エチオピア、ケニア、リベリア、ナミビア、ザンビア、アンゴラ、モザンビーク、シエラレオネから8名が参加。医師、看護師、行政官など自国で保健医療に携わる研修員たちが宮城県仙台市を訪れ、大学や病院、助産院、子育て支援施設などの協力のもと講義や演習に取り組みました。

研修初日には意見交換会などを行い、各国が抱える課題を共有

研修初日には意見交換会などを行い、各国が抱える課題を共有

10年以上にわたり本事業を委託する宮城県青年会館の渡辺能久さんは「長年の取り組みでケニアなどの都市部では状況が改善されつつありますが、国や地方によって格差があり、全体としてはまだまだ課題が多いのが現状です。医療設備や機器、人材の不足などを背景に、本来育つべき命が失われていることに各国が大きな危機感を抱いています」と話します。

同時に、母子保健の分野では近年、望まない妊娠や虐待など医療技術以外の課題への対応も重視されるようになってきました。これを受け、前年度からは思春期教育や学校保健にも研修対象を拡大。今年度は初めて災害時の看護に関する講義も取り入れるなど、幅広い視点でカリキュラムを編成しています。

最先端の医療現場で周産期のハイリスク手術を学ぶ

多様なテーマを扱う本研修ですが、やはり大きな柱となるのは、生死に直結する医療現場での学びです。今回も、合併症や大量出血を伴うハイリスクな分娩などを取り上げた講義は研修員の注目を集めました。東北大学病院では、実際の手術映像を視聴したほか、手術室での医療スタッフの動線や器具の使用方法なども修習。自国で赤ん坊や母親が息絶えていく姿を目の当たりにしてきた研修員たちの目は真剣そのもので、具体的な質問が次々と投げかけられました。講師を務めた医師と英語で直接コミュニケーションを取れた点も好評で、「どのようにして命を守るか」という各国共通の課題に応える、有意義な学びの場となりました。

医療現場での具体的な事例に基づき、医師と熱のこもった質疑応答がなされた

医療現場での具体的な事例に基づき、医師と熱のこもった質疑応答がなされた

人生を豊かにするために、“点”から“線”へと変わる保健医療

一方、思春期教育や学校保健に関する講義にも大きな反響がありました。渡辺さんは「世界的な傾向として、保健医療を“点”ではなく“線”で捉える動きが広がっています。生まれてから亡くなるまでの人生設計を描き、その中で母子保健を考える講義は非常に好評でした」と話します。

宮城大学で行われた「子育て期から思春期のためのピア・エデュケーション、ピア・カウンセリング」はその一ひとつ。自身の人生を振り返りチャートを作るワークショップを行った際には、思うように人生設計が描けない自国の人々や自らの現状に悔しさがにじみ、思わず涙する研修員もいたと言います。仙台市内の中学校では「学校現場における保健室の役割」をテーマに養護教諭が講義を実施。アフリカにはない“保健室”という存在に研修員は驚きを示し、人生を豊かにするうえで重要な意味を持つ思春期の性教育に強い関心を寄せていました。

思春期教育に関するワークショップを行う研修員たち

思春期教育に関するワークショップを行う研修員たち

学校保健についての講義は、仙台市内の中学校で実施

学校保健についての講義は、仙台市内の中学校で実施

日本にも気付きを与えた研修員たちのアクションプラン

研修の最後には、帰国後の活動指針となるアクションプランを作成。国ごとに課題はさまざまですが、どのプランも「いかに現地での取り組みを良くしていくか、そのために自分がやるべきことは何か」という視点は共通で、一つひとつできることを積み重ねて国を変えていこうとする研修員の姿勢が見て取れました。以前は「お金がない」「援助してほしい」など資金や物資に頼るアクションプランが目立ったと言いますが、長年の研修と帰国後の活動を通し、重要なのは「物」だけではなく「人」なのだと、意識に変化が生まれているようです。

宮城大学の谷津教授からも「医療技術においては、日本と対等に議論できるレベルになってきている。避妊や虐待などに関してはむしろアフリカ各国の方が先進的な取り組みをしているケースもあり、日本が学ぶべき点も多かった」とのコメントがありました。

アクションプランの発表の様子

アクションプランの発表の様子

「若い命を守る」覚悟。実りある研修を実現した研修員たちの熱意

研修全体を通し、もっとも印象的だったのは「研修員の真剣な目」だと振り返る渡辺さん。「短い期間で何かを得ようとする集中力がすさまじく、『若い命を守る』という覚悟を感じました。それが国を守ることにつながると思うと、最前線にいる方たちのすごみに圧倒されました」

その熱量は研修の成果としても表れ、研修員からは「自国のシステムや職場の改善に意欲を抱かせてくれた」「母子を救うためのステップを自国政府に提案できると思う」など、日本での学びに確かな手応えを感じる声が聞かれました。

JICA東北の担当職員も「命を守る原点を感じた」と話すほど、実りあるものとなった本研修。自国の過酷な現実に向き合い、「自分がやらなければ誰がやるのか」との強い思いを胸に日本へやって来た8名は、これからのアフリカの未来を切り開く人材となってくれるはずです。

閉講式で笑顔を見せる研修員たち

閉講式で笑顔を見せる研修員たち

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