【開発教育支援事業(教師海外研修)】開発途上国での体験を授業に~子どもたちの「世界のために考え行動する力」を育む~

#4 質の高い教育をみんなに
SDGs
#17 パートナーシップで目標を達成しよう
SDGs

2024.03.12

JICAでは、国際理解教育や開発教育に関心の高い教員に向けて、さまざまな研修を準備しています。中でも開発途上国に10日間ほどの日程で訪問し、その国の現状や日本との関係の理解を深め、さらにその学びを児童・生徒に教育活動を通して伝えることを目的とした『教師海外研修』は、人気の研修です。コロナ禍で休止していた本研修も、本年度から再開しました。

1.子どもたちに開発教育を行うことの難しさ

一人ひとりが地球上のさまざまな課題と自分たちの生活を結びつけ、自分事として考え、行動する力を養う開発教育。地球の未来を担う小中高生にとって、開発教育の必要性は認識されているものの、どんな方法で実践可能か、先生方は日頃から頭を悩ませているようです。

JICAの教員向けプログラム『教師海外研修』は、教員が開発途上国を実際に訪問することで、途上国の置かれている状況や課題、日本との関係、国際協力の実情について理解を深め、さらに海外研修で得た経験を児童・生徒への教育活動に役立ててもらうことを目的にしています。研修の対象者は、東北6県の小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等学校、特別支援学校、高等専門学校に勤務する教員です。

サイクロン被害を受け日本の協力で再建されたベイラ市の小学校での一枚

2.海外研修を経て、実践的な開発教育を行うまでのプログラム

本年度の海外研修は2023年8月10日〜20日までの11日間の日程で、アフリカのモザンビークで行われました。このプログラムで重要なのは、教員が海外研修を行うことだけでなく、教員が現地で感じたことや学んだことを開発教育として日本の児童・生徒たちにいかに伝え、何を考えさせるか。参加者として選ばれた8名の教員たちは、帰国後、12月までにそれぞれの学校で独自の授業を実施しました。海外研修に加えて、事前・事後研修、目玉となる子どもたちへの開発教育の授業や報告会を含め、1年を通したボリュームのあるプログラムとなっています。

参加者の応募動機で印象的だったのは、「子どもたちが世界の出来事を自分事化する力を育みたい」という内容が多かったこと。「日々生徒と触れ合う中で、『世界との繋がりを実感すること』や『世界で起こっていることを自分事として捉えること』が彼らにとっていかに難しいことかを実感しています。教師の自分が開発途上国の現状を自分の目で確かめ、生徒らに伝えたいと思った」と、応募書類からはこの研修の経験が教員自身のみならず、子どもたちにとっても世界を身近に感じるきっかけになるのではという期待と熱意が感じられます。

事前研修では外部講師による講義を行ったり、以前の参加者とのつながりを作ったりします

事前研修では授業のファシリテーションの手法なども学びます

3.モザンビークで改めて感じた、教育の価値と意義

本研修を担当したJICA東北 市民参加協力課の菊池真美子職員は、「次代を担う子どもたちにとって開発教育は重要であるという認識を持ちつつも、取り組むきっかけや実践法のバリエーションの少なさ、いかに継続するかという点に課題を感じている先生は少なくありません。このプログラムは、JICAの資源やノウハウを活用して教育現場での開発教育を後押しするための事業です。今回は、東北とのつながりを重視し、サイクロン被害で東北の地方自治体が防災教育を実施し復興を支援したモザンビークを選定しました。アフリカは個人では訪問しにくいという声もあり、魅力的に感じてもらえたようです」と話します。

参加者は、6月と7月に2度の事前研修を行った上で、学校の夏季休業期間を使用して現地へ訪問。予定していた出発便が飛ばないというハプニングがあったものの、現地に到着してからはモザンビークの歴史や産業、現状を踏まえた上で街を歩き、多くの人々とふれあいました。小学校など教育施設の視察や、現地で国際協力を行うJICA海外協力隊をはじめとした日本人との交流なども盛り込まれ、10日間でさまざまな体験をしました。参加者たちは「整理できない思いで頭がいっぱいになったとき、参加者同士で率直な意見や感想を共有しあうことで、新しい視点に気づいたり、理解が深まったりした」と教えてくれました。「日本との違いだけではなく、本当の豊かさや幸せ、平和や公正とはなにか、ということを考えさせられた」「さまざまな問題が全て教育につながっていて、教育の価値と意義について改めて理解した」という感想がありました。

JICA海外協力隊員と一緒に活動する現地の若手起業家(ココナッツオイルの製造)を訪問し、事業を見学しました


コミュニティスクールでは参加者が授業を行い、ダンスでコミュニケーションを図りました

スラム地区へも訪問。スラムのイメージを払拭する訪問となりました。


4.世界の出来事を自分事としてとらえるための授業づくり

帰国後の研修では、子どもたちにどんな授業を行うか、それぞれが計画しました。授業の準備のために他の参加者や長年開発教育に携わっている方に助言をもらったり、人を紹介してもらったりなど下準備に奔走しました。福島県あさか開成高校で国語を教える渡部真奈美さんは、「平和な世界のためにできることはなにか、戦争と文学から考えよう」と文学作品を読解しながら、登場人物の気持ちに共感し、平和の尊さや平和のための言葉の力について、約ひと月、12コマの授業時間を使ったシリーズで展開しましたが、中でも、戦争を題材にしたワークショップは白熱し、国のあり方や平和、公正について生徒一人ひとりが粘り強く考えるきっかけに。

授業後の生徒の感想では、平和についてさまざまな視点から考えたからこそ言える本質的な意見や、矛盾や難しさにどう折り合いをつけるべきかという視点もあり、生徒が自分事として考えたあとが見られて感動した、と報告がありました。

事後研修では、長年開発教育に携わる先生に助言をもらい、参加者同士意見交換をしながら授業案を検討。授業への準備を行いました(写真:渡部真奈美さん)

アクティブラーニングの手法を取り入れて授業実践を行いました

授業実践では、生徒の皆さんが主体的に関わっているのが印象的でした

5.JICAがサポートする、開発教育のはじめの一歩

「本研修を経験し、『世界が分かり、視点が広がった』という先生が多くいらっしゃいます。実際に行ってみたいと思っていても、多忙な教員生活の中ではタイミングが難しいという声も。JICA東北では、児童・生徒に向けた協力隊出身者の出前授業や訪問学習、教員に向けた研修など、開発教育のはじめの一歩に取り入れやすいコンテンツをご用意しています。開発教育は始めることも継続することも、ひとりではハードルが高いかもしれませんが、仲間を見つけたり、サポート体制を構築したりするお手伝いが可能です」と、菊池職員。JICA東北では、未来を担う子どもたちが世界に関心を持ち、多様な考え方に触れ、自分事として世界をとらえて行動できるようになるための多角的なサポートを今後も進めていきます。

参加者の大変前向きな姿勢に、講師陣・JICA東北スタッフの助言やサポートにも熱が入りました

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