【防災・復興支援】根浜MINDに見る協働の力~防災分野のコレクティブインパクト創出を目指して~

2024.04.02

「コレクティブインパクト」とは、特定の社会課題の解決に向けて、企業、NPO、行政、市民などが組織の境界を超えて協働すること。JICA東北では、立場や地域、国、世代を超えて、防災・復興支援の分野でコレクティブインパクトを創出すべく、東北でJICA草の根技術協力事業を実施する団体や協働する学生から成る「東北防災チーム」を結成しました。今回はその一員である一般社団法人 根浜MINDの活動にスポットをあて、防災における協働について考えます。

人と活動をつなぐ根浜MINDの地域づくり

東日本大震災で甚大な被害を受けた岩手県釜石市・根浜地区は、内外の多くの人たちと関わりながら、住民主体で復興を成し遂げてきました。その中で“根浜海岸のハブステーション”として人と活動をつなぐ役割を担ってきたのが、一般社団法人 根浜MINDです。イギリスの住民主体型レスキュー組織との出会いから始まった「英国式ボートレスキューシステム」の導入をはじめ、語り部ガイド、海岸の自然再生、地域の特産品開発など、さまざまな活動を通して地域づくりに取り組んでいます。

安心安全な観光地の復活を目指し、住民主体型のボートレスキューシステム導入が進む根浜海岸

そんな根浜MINDにとって初の国際協力活動となるのが、2022年から始まったインドネシア共和国バンダ・アチェ市でのJICA草の根技術協力事業。2004年のスマトラ島沖地震から20年が経ち、防災意識が低下する同国で、学校などでの防災教育を中心とする防災プログラムの構築・実践を目指す3年がかりの取り組みです。プロジェクトマネージャーの細江絵梨さんは「特に重視するのは、主体性を持ってもらうこと。ノウハウを伝えるのはもちろん、自分たちで考え、自走できる仕組みや体制の基盤づくりができれば」と話します。

アチェの防災プロジェクトから見える「連携」の意義

しかし、文化も価値観も異なる土地での活動は一筋縄ではいかないもの。サブプロジェクトマネージャーの常陸奈緒子さんは「社会の階層構造や男女格差などの背景から、インドネシアはボトムアップで物事を変えていくのが非常に難しい環境だと感じます」と話します。プロジェクトが目指す“主体性”においても、「そもそもインドネシア語に“主体性”という言葉がない」と言われたことがあるのだそう。

一方で、これまでの常識が通用しないからこそ得られる、新たな視点もあります。「防災の取り組みというと、日本では無条件に素晴らしいことだと認識されるように思いますが、アチェの活動ではその概念を覆されることもあり、そこから“自分が防災に取り組む理由”を一人ひとり見つけることが重要だと考えるようになりました。それは例えば“楽しいから”といったものでもいい。防災の取り組みにも多様な形があっていいのではないかと思っています」と常陸さん。

多くの葛藤もありながら、釜石の経験やノウハウがアチェでも大いに役立つものだと確信を得るなど、プロジェクトは一歩ずつ前へ進んでいます。細江さんが「外との連携によって、自分たちだけでは忘れがちな視点に気づくことができる」と話すとおり、海を越えた協働は、これまでにない発見や自らが持つ価値の再確認につながっているようです。

アチェの教員とともに津波防災教育の授業計画を作成する

ファシリテーター研修で行ったワークショップの様子

アチェを通じて生まれた大槌町の高校生との連携

プロジェクトはまた、地元・岩手での新たな連携も生み出しました。2023年12月に実施されたのは、大槌高等学校 復興研究会(岩手県大槌町)の生徒4名と顧問教諭1名による5日間のバンダ・アチェ市訪問です。「震災直後から生徒たちが自ら考え地域の復興や防災に取り組み続け、それを学校として支えてきた大槌高校の経験は、アチェの活動の見本になる」そう見込んだ根浜MINDが、復興研究会に現地訪問を打診したのです。

アチェでは防災関連施設の見学や、防災イベントへの参加、学校での出前授業実施などを通して、現地の学生や住民の方と交流。言語や宗教など日本とは全く違う環境で防災を伝えた経験は、何より生徒たちのモチベーションにつながったそう。「学んだことをそのままにせず、発信したい」「日本でも防災に関心のない人に向けて今までと違った伝え方をしていくのはどうか」といった感想に、生徒たちの視野の広がりが感じられました。

大槌高校 復興研究会(中央)とアチェの学生たち

大いに盛り上がった大槌高校復興研究会による出前授業

東北防災チーム始動!世代を超えた対話から広がる可能性

そして今、新たに動き出そうとしているのが、JICA東北の防災復興プロジェクト実施団体同士の協働を目指し結成された「東北防災チーム」です。メンバーは根浜MINDと復興研究会に、それぞれマレーシア、インドネシア・パル市で地域防災に取り組む東北大学(宮城県仙台市)、JOCA東北(宮城県岩沼市)を加えた4者です。

2024年3月9日に開催された『仙台防災未来フォーラム2024』での4者によるパネルディスカッションは、チーム連携の第一歩。国ごとの文化的・宗教的背景などの相違点や共通点を挙げながら各プロジェクトの経験を共有し、「次世代への継承」をテーマに語り合いました。根浜MINDにとって海外での活動経験が豊富な東北大学やJOCA東北は心強い先達者で、特に「防災に取り組む意識のない人々に“責任”を与えることで活動が活発化した」というマレーシアの経験はアチェの活動のヒントになるものでした。

一方、復興研究会と初めて活動をともにする2者にとっては、世代を超えた対話が大きな刺激に。「過去の経験や教訓の伝承と同時に、未来を見据えた若い世代にしかできない新たな防災活動もある。彼らをどう支援できるのか一緒に考えていきたい(東北大学)」、「どうしたら復興研究会のような防災に意欲的な若い方が育つのか不思議なほど。パル市でも学校での防災教育が始まろうとしており、今回の機会は非常に勉強になった(JOCA東北)」とのコメントがありました。

研究会の生徒たちも「自分たちに対する期待の大きさに気づいた」と、今後の活動への意欲をさらに高めた様子。異なる世代の存在を踏まえた取り組みや、若い世代だからこそできることなど、日頃抱く疑問についての質疑応答も大きな収穫となりました。

「次世代への継承」がテーマのパネルディスカッション。大槌高校の菊池さんからは「各世代をどのようにつないでいくのか?」との大切な問いかけが

大切なのは、相手を知り、不確実を楽しむこと

今後は4者が関わってきたバンダ・アチェ市、パル市、マレーシア間の交流も期待しているという根浜MIND。震災以降さまざまな人や活動をつないできた根浜の経験も、ますます重要性を増しそうです。異なるバックグラウンドを持つ者同士の協働について、細江さんはこう話します。

「大切にしているのは話を聞くこと。何が好きで何が嫌か、どんな価値観で、何を大切にしてここで生きているのか。そうしたことをたくさん聞くようにしてきました。それから、未知の事象や不確実な状態を楽しむこと。考え方が違う人たちと協働すると、予想できないトラブルもあれば、魅力的な発見もあります。その状況をできるだけ楽しむことで、違いを“受け入れる”とまでいかずとも、“受け止める”ことができるようになるのではないでしょうか」

国内外で自然災害の脅威が高まる今、震災から得た知見の共有がこれまで以上に求められています。立場や世代を超えた東北防災チームの協働から、今後どのようなインパクトが生まれるのか、東北発の国際協力にご期待ください。

・JOCA東北による防災事業:
【草の根技術協力】活動の本格化に向け第2回現地渡航を実施/パル市集団移転地における災害に強いコミュニティ形成事業
https://www.jica.go.jp/domestic/tohoku/information/topics/2023/1518387_14650.html

・東北大学による防災事業:
【草の根技術協力事業】災害の増えるマレーシア/重要性を増す地域主体の持続的な防災活動
https://www.jica.go.jp/Resource/tohoku/topics/2022/h2nf2c0000000u9i.html

【JICAインドネシア事務所FB】
・大槌高校によるバンダ・アチェでの防災教育の様子
https://www.facebook.com/100064820075940/posts/pfbid02mpxELwtqAdmL8xRm4isAiEZiBjd2mmctaQqYkf6vPuppBWW6dQYcLHy3zXfznEVil/?app=fbl

\SNSでシェア!/

  • X (Twitter)
  • linkedIn
一覧ページへ