【課題別研修】教員養成課程のアップグレード〜教師が変われば未来が変わる／教育の質を高める方法を学ぶ

JICAのグローバルアジェンダには「一人一人が生き生きと輝く、質の高い教育を」と教育課題への取り組みが示されています。世界には必要最低限の読解力や計算力を習得できない子どもや若者が6.1億人以上いるとされ、高等教育においては国による格差が生じています。

JICAは『良質な教育を提供し、みんなが尊厳を持って生きることができる社会基盤を築く』という目標を掲げ、教育が人間の安全保障の実現のために不可欠なものと捉え、教育協力に取り組んでいます。教員養成課程において教員の職能を高め、一人ひとりの習熟度に応じた学びの改善を図ることもその一環です。そこで、開発途上国において教員養成に携わる行政官や技官、また教育大学など教員養成機関の教職員や研究者を対象に、教員養成課程をアップグレードするための活動を提言、主導する能力の開発を目指す来日研修を行いました。

研修期間は2023年8月22日〜9月20日までの約１ヶ月間。ウズベキスタンやモザンビークなど10か国から集まった12名の研修員は青森県の弘前大学教育学部にて開講式に臨みました。昨年はコロナ禍のために１週間の隔離期間がありましたが、今年は隔離の必要がなくなり、活動に没入できる十分な時間を確保できました。

研修員として集まったのは、教育大学関係者や日本の文科省にあたる省庁職員など多様な立場で教員養成に関わる方々です。途上国における教員養成は、理論的学修と実習のつながりが不十分である点が課題とされており、今回は、弘前大学教育学部の経験や知見をもとに、その方法論を教授しました。講義は各国の課題や目的に即した教員養成に活用できるよう網羅的な内容となっています。教員免許制度をはじめ、教育委員会の仕組みや採用試験制度、さらに現場での学びも深めてもらうため公立校の視察、教師の授業研修や教育実習の見学などが盛り込まれました。

カリキュラム設定について、研修担当の鈴木惇職員は「本研修では小・中・高校をはじめ、さまざまな教育現場を見てもらいました。それに加え、弘前や青森という地域性を理解するための視察や体験なども組み込んでいただきました。教育は人を相手にするものであるため、各現場の視察はもちろんのこと、背景にある風土や文化、歴史や産業などの地域理解も重要です。講師陣からの専門的なインプットもあり、教育をより多面的に考えるきっかけになったと思います」と話します。

視察や見学を多く組み込んだ本研修。中でも研修の核となるのは、教育実習の見学です。「教育実習を単に制度として知るだけでなく、実際の様子を見学できたことは、研修員にとって得るものが多かったはずです。また授業見学にあたっては、『授業観察の手法』という講義を設定いただいたことで、授業で何を見るのかという授業改善の基礎となる着眼点を学ぶことができたのではないかと思います」と、鈴木職員。

研修員の感想からも充実の内容だったことが伝わります。「初期教師研修の重要性について大きな学びがあり、自国の教育の質を高めるための計画が深まりました。教師としての専門性の向上や知識の習得、その普及に貢献したい」と、語るモザンピークのザンダミラさんは使命感を新たにしたようでした。

１ヶ月にわたる研修の最後には、研修員たちが自国の教員養成課程の改善案をアクションプランとして発表。講師陣からは、「現場に入ってさまざまな視点で見学したことを各々の課題に活かし、実行に移されることを期待しています」と励ましが向けられました。

「どの講義も有意義なもので、非常に実りある研修でした。施設や設備、教材、小・中学校でのタブレットやPCの活用などICTに非常に感銘を受けました」と感想を残したのは、パプワニューギニアのブランドンさん。また、フィジーのシャムさんは「日本の教育が発展していると聞いてはいたが、自分の目で見て実際に体験してみて驚いた。私たちの最初の一歩は小さいかもしれないが、継続することで達成できるものがあると信じている。関係者の皆様には感謝しきれないほど良くしていただいた」と語りました。

鈴木職員は、「プランの実行はひとりでは難しいものです。学んだことを共有して自国で仲間を作ってぜひ改善を進めてほしい」と話します。研修員同士や講師陣との情報交換のためにコミュニケーションアプリを用いて気軽にメッセージのやりとりができる場所もあります。帰国した研修員たちの活躍に期待しています。