アフリカ×群馬・栃木!品質管理と多文化共生・共創を学ぶ

2024.03.04

JICAの課題別研修「企業経営強化支援(ビジネス開発サービス/アドバンスト・カイゼン)(B)」で、アフリカ9か国から9名の研修員が来日しました。
本研修は、アフリカで中小企業の企業経営力強化のために提供されるビジネス開発サービス(BDS)やカイゼンに係るサービス強化を目的としています。自国で中小企業を支援する政府・民間の職員らが来日し、日本の中小企業支援制度や人材育成・能力強化にかかる仕組みや手法を学びました。研修の一環で2月13日~14日の1泊2日で、群馬県・栃木県に研修旅行に行ってきました。

見える化による安全・品質管理の徹底

 研修旅行初日となる2月13日には、群馬県太田市にある株式会社明電舎の太田事業所を訪問。同社は主に発電機などを製作しているメーカーですが、発電機と言っても水力発電やガスタービンなど、産業用の特殊なものばかりです。また自動車のエンジンや車両の試験設備も製作していて、同社の製品はほとんどがオーダーメイドで大型のものが多く、研修員の自国にはそのようの大型の設備を製作する企業はないようで、工場視察ではその規模の大きさに驚いていました。
 広い敷地内にいくつもの工場が並び、各所で大型の設備が製造されていますが、同社ではその作業現場での安全・品質管理にも力を入れています。
 工場内の様々な箇所には写真付きのマニュアルが貼り出されていて、作業ミスや事故を防ぐ工夫が見られました。研修員も「工場内に事故ゼロ日数、次の目標日数が掲示されていて、従業員の安全意識の向上に非常に良いアイデアだ」と話していました。“見える化”は途上国でも簡単に取り入れることができるので、安全・品質向上のためにぜひ視察先で学んだ様々なアイデアを現地の企業でも導入していってほしいと思います。

同社ではEV車専用の試験設備も製造しています。研修員たちは「EV自動車は既に市場に出ているのか。実走しているのか。」と興味津々でした。

同社工場前にて集合写真

ロボットで高効率・高品質なものづくり

 その後、株式会社ジーテクト(同市)を訪問。同社は自動車部品やその金型を製造・販売する会社ですが、企画段階から溶接工程をパソコン上でシュミレーションするなど、最適な生産ライン設定をして高効率・高品質な製品造りを行っています。
 工場では実際にロボットで部品を製造しているところを見させていただきました。自動車部品の中でもフレームナンバーを打刻する部品はほんのわずかな傷でも製品にはならないため、ロボットによる「自動検査装置」でキズがついていないかカメラ判定しています。また、デジタル技術も活用し、細かく製作管理・データ分析を行うことで、製作中のものは修正し、製作予定のものは不良品が作られないような予防策をとることができるとのことです。説明の中で「私たちは何より安全・品質を第一に考えてものづくりをしている。ロボットなどによる自動化も導入しているが、各部門でも地道にカイゼンを実施している。ぜひ皆さまの国にもこのような日本企業の取り組みを持ち帰っていただきたい」とお話がありました。本視察では、自動車部品だからこその徹底した品質・安全管理を学ぶことができました。
 また同社では、ミャンマーや中国からきた従業員が働いており、質疑応答で研修員から「素晴らしい技術と環境だ。自国から研修に来させてもらえないか」と要望が出ましたが、「今のところ予定はないが、今世界はグローバル化していて、今後はアジア以外の方も海外から受け入れるべきだと考えている。ただ受け入れるだけではなく、我々も海外の方から色んなことを学びたいと思っている」と前向きなコメントがあり、この研修での視察がきっかけとなって同社とアフリカの関係が生まれることになれば、嬉しい限りです。
 研修員は「現地では日々効率的な業務ができるようにカイゼンコンサルタントとして中小企業に指導しているが、こちらへの視察を通してカイゼンを取り入れることへのモチベーションが高まった」と話しました。研修員には日本のものづくりメーカーの仕事へのプライドを感じてもらい、妥協ない安全性・品質管理の徹底を自国でも取り入れてもらいたいと思います。

作業着をお借りして工場見学。

工場見学の後は質疑応答タイム。「プレスの製造ラインでは大きな音がするが従業員の健康管理や、事故が起きてしまった際は周りにどう伝えているのか」など、実践的な質問が飛び交いました。「通常は耳栓をして作業をしている。何かが起こった時には笛を吹いて周りに知らせるなどしている」と回答があると、研修員は同社の安全管理に驚いていました。

5Sの町、栃木県足利市で学んだ「5Sが中小企業にもたらす効果」

 2月14日にはお隣の栃木県へ移動。“5Sの町”と呼ばれる足利市にある菊地歯車株式会社を訪問。「5S」とは、日本語の「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「しつけ」のそれぞれの頭文字「S」をとったもので、英語でも「Sort」「Set」「Shine」「Standardize」「Sustain」と、5つの単語で表されています。これらはカイゼン活動の基礎であり、品質管理のために欠かせないものとして、製造現場で導入されています。なお、「足利流5S」では「整理」→「清掃」→「整頓」の順番で取り組むことが特徴です。整理したものを清掃し、それからきちんと整頓することで、合理化を図っています。
 同社の菊地社長は5Sの啓発やインストラクター要請講座などを実施する足利5S学校の校長でもあります。同社は徹底した5Sの取り組みを行っていて、「5Sは仕事だけに限らず、家でもどこでも使えるもの。国内だけでなく世界にも広めたい。自信を持って取り組んでいるものなので、ぜひ皆さんの国に持ち帰ってもらいたい」と研修員に呼びかけました。自主性を尊重することが特徴の“足利流5S”ですが、まずはオフィスから整理を始め、その後従業員が自主的に工場にも5Sを取り入れていったといいます。文房具置き場や引き出しの中もきちんと整理されていて、研修員は「文房具の借り出しを従業員番号で管理していて、徹底さに驚いた」と現場以外の5Sの取り組みに感心していました。工場での5Sや見える化の効果として、「不良品が減りクレームが減った」「営業に行っても相手にしてくれなかった大手企業が、この工場を見に来た際に5Sの徹底ぶりに驚き、『この会社なら信用できる』とすぐに取引が決まったことがあった。5Sは素晴らしい!と感動しました」と説明があり、研修員はカイゼンを企業が導入することによる企業支援の好事例を学ぶことができました。

同社の5Sはオフィスから始まります。引き出しの中も、仕切りなどで文房具などを整理・整頓できるように工夫されていました。

廃油設備を見学。使ったオイルは何度かリユースされたのち、廃油業者に販売するということです。環境に配慮した取り組みも研修員にとっては良い学びになりました。

工場内の各所に写真付きのマニュアルや作業スケジュールが貼り出されていました。研修員は徹底した“見える化”による安全管理・品質管理を学びました。

ものづくりは人づくり

 群馬県と栃木県では複数の企業を訪問しましたが、いずれの視察先でも共通して安全・品質管理のため5Sを徹底して取り入れていました。カイゼンや5Sは目的ではなく手段であり、それを取り入れることによって企業が安全に高品質な製品を作ることができ、結果として売上が上がり、従業員のモチベーションアップに繋がり、さらには企業も成長する…そんな良いスパイラルを生み出す力がカイゼンにはあると学びました。また、そうやって企業が成長していくためには、どのように安全に高品質な製品を作れるかを従業員自身も日々考えていく必要があり、それは従業員自身の成長にも繋がります。研修員には、企業がカイゼンに取り組むことで得られる効果、そして「ものづくりは人づくり」であることを今回の視察を通して学び、自国に持ち帰ってもらいたいと思います。

同社の皆様と集合写真。リーダーのザンビア研修員から、伝統的な木彫りの贈り物が手渡されました。

産学連携~SUBARUx群馬大学~

 その後、群馬県太田市に戻り、群馬大学が取り組んでいる産学連携について学びました。同校ではリカレント教育(社会人が夜間に大学の講座を受けるなどして基礎から学び直すこと)にも力を入れており、太田市の活力源である「ものづくり」を後押ししようと、企業の従業員が学び直せる機会を提供しています。従業員は知識・技能を習得して業務に活かすことができ、企業にとっては人材育成になるので、「産学連携」の好事例と言えます。
 また、同校ではSUBARU社との共同研究も行っており、自動車のバーチャル運転体験をさせていただきました。同校は「企業との共同研究による新しい技術の開発や、リカレント教育講座での人材育成を通して、社会貢献・イノベーションの活性化に貢献できている」とおっしゃっていました。
 「産学連携」は企業だけでなく、社会にも貢献することができると学ぶことができました。同校への入学に関心を示している研修員も多く、今は同校の講座を受講している外国人は太田市に住む外国人従業員だけとのことですが、この視察や研修全体が一つのきっかけとなって、今後より一層アフリカと日本のつながりが深まり広がることに寄与できればと思います。

体験させていただいたガーナ研修員。このあとすぐに木にぶつかってしまいました・・。

安全な自動車作りを産学が連携して日々研究している様子を、実際に施設を見学し、学ぶことができました。

リカレント教育講座では座学の他に実習も行っており、実際に学生が学んでいる実習場を見学しました。

多文化共生・共創をめざして

 最後は県庁32階まで上がり、官民共創コワーキングスペース“NETSUGEN”を見学。ここでも「共創」をキーワードに、行政が提供する情報や場所へ、アイデアを持つ起業家や若者たちが集まり、刺激し合い、イノベーションを起こすことで、社会の変革を目指しています。
 群馬県庁への訪問を通して、官民連携した新しい形の企業支援・多文化共生を学ぶことができました。日本における外国人労働者数は右肩上がりに増えていますが、群馬県では多文化共生社会の実現に力を入れて取り組んでいます。共に生きる「共生」だけでなく、共に価値を生み出す「共創」が大事だと考え、多様性を生かして新たな価値を創造することで魅力ある地域を目指しています。
多文化共生・共創に取り組んでいる企業は「多文化共創カンパニー」として表彰され、昨年にはベトナムのチン首相も企業訪問するなど群馬県の取り組みは世界に向けて発信されていて、企業にとっても認知度が上がるきっかけとなります。アフリカにおいてもグローバル化は進んでおり、外国人との共生について行政が取り組む好事例を学びました。
 今回の研修員は行政や民間企業といった様々な所属先からの参加となります。所属先において様々な環境・考え方を持つ人と共に仕事をしていく機会も多いです。そのため「共創」の考え方は企業支援をしていく際にも非常に大切になると思います。

県庁に併設されている「ぐんま外国人総合相談ワンストップセンター」では、外国人へのサポートについて説明を受けました。アフリカからの在住者は県全体で200名程度とのことですが、ナイジェリアやガーナなど、研修員の母国の中には30名程度在住している国もあると聞き、驚きの声が上がりました。

コワーキングスペース「NETSUGEN」には、スタートアップなどに関する書籍や群馬県各地のお土産などが展示されています。地方自治体による創業支援の新しい形を学ぶことができました。

スタジオ「ツルノス」を見学。群馬県が鶴の形をしていること、アイデアを巣のように温め育てる場所になるようにと名づけられました。コストをかけずにタイムリーに情報を発信できるように、県庁内にスタジオが作られています。YouTubeは県外、国外にも発信されています。

群馬県庁前で集合写真。セネガルの研修員から、現地の伝統的な手工芸品が贈られました。

この視察で学んだこと

 2日間を通して、カイゼンを企業が取り組むことで得られる効果、グローバル化・多様化する企業にとって必要な多文化共生・共創の考え方と、現場での取り組みから行政の新しい企業支援の形まで、幅広く学ぶことができました。業の現場で実際カイゼンがどのように取り入れられその結果、もたらす効果がどのくらい大きいかを学んだ研修員。帰国後は、視察で見てきたカイゼンの推進方法や効果を現地企業に伝え、日本で学んだことをアフリカでも活かしてもらいたいと思います。
 また、視察先に到着するといつも視察先の皆様に暖かく迎えていただき、帰り際は手を振って見送っていただきました。研修員はそのような日本のオモテナシにも感動していました。各所で感じてもらった「日本流のおもてなし」、そんなところもアフリカに思い出として持って帰ってもらいたいと思います。

◆課題別研修「企業経営強化支援(ビジネス開発サービス/アドバンスト・カイゼン)(B)」
カメルーン、エチオピア、ガーナ、ケニア、マラウイ、ナイジェリア、セネガル、タンザニア、ザンビア(9か国、9名)
遠隔研修:2024年1月22日~1月29日
来日研修:2024年2月5日~2月16日

◆関連リンク:
◇中小企業大学校へ訪問しました
https://www.facebook.com/jicatokyo/posts/pfbid06o2XyADfyrEXSfjjr4rSYcKYgxKAdV7cvN9emvJ9ATqu29nLsDkciPJPdmgu8jFrl

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