鉱物分野の“絆”づくりのために~「鉱物資源分野における連携強化プログラム」~

2024.03.29

2021年度~2023年度にかけて行っていた課題別研修「鉱物資源分野における連携強化プログラム」を終了しました。日本の鉱物資源政策について理解を深め、ネットワーク構築を図ることを目的としたこのプログラム。参加した研修員の姿をレポートします。

JICAが行っている「課題別研修」とは? 鉱業の課題とは?

 JICAが実施する「課題別研修」は、共通の課題を持った研修員が世界各国から一堂に集まり、日本の知見を学び、日本の関係者と学び合う研修で、Knowledge Co-Creation Program(KCCP)とも呼ばれています。JICA東京では、保健医療や環境、産業開発・公共政策などそれぞれの課題・テーマに沿った研修を年間約500コース実施しており、120カ国以上の国から年間約4,000人の技術研修員を受け入れています。

 鉱業は国や地域の経済発展にとってとても重要な産業ですが、探鉱・採鉱など実際の鉱業活動には多くの資金や高度な技術が求められます。しかし、開発途上国といわれる国々においては資金も技術も不足しており、政府にも知見が乏しい例が見られます。日本は明治以降、鉱業の近代化を急速に進め、産業を発展させてきた歴史があり、この過程で得た高い技術や行政の知見は開発途上国には非常に有益なものです。
 また、JICAでは2014年より日本の大学や企業と連携し、持続可能な鉱業開発のための資源分野の人材育成プログラム「資源の絆」を行っており、これまでに100名以上の長期研修員が参加してきました。今回ご紹介する課題別研修「鉱物資源分野における連携強化プログラム」は、日本の鉱物資源政策や知見を研修員に共有するとともに、「資源の絆」プログラムを自国でどのように活用するかを考えて頂き、資源分野のネットワークを作っていくことを目的として実施してきたものです。

茨城県つくば市の産業技術総合研究所(AIST)地質標本館を視察。日本列島の地質に関する様々な情報が立体的に表示され、研修員の皆さんも興味津々。右からウズベキスタンのモブラノフさん、カンボジアのコンさん、キルギス共和国のナジラさん。

九州の鉱山視察や国際シンポジウムに参加して

 23年度に参加したのは、カンボジアのコンさん(鉱山エネルギー省・鉱物資源総局)、キルギス共和国のナジラさん(天然資源省・地質局)、ウズベキスタンのモブラノフさん(地質科学大学・地質イノベーション技術センター)の3名。
 来日の翌日に開催された、資源の絆10周年を記念した「資源の絆フォーラム」に早速参加し、資源の絆プログラムの留学生や、留学生受入大学でもある北海道大学や秋田大学の方々と交流を持つことができました。
 経済産業省・資源エネルギー庁(METI/ANRE)、エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)、一般財団法人カーボンフロンティア機構(JCOAL)への訪問では、日本の鉱物資源に関する政策、鉱物資源の安定供給策などを学び、それぞれの国の資源について熱く説明することも。
 茨城への視察では、資源の絆プログラムに関わる筑波大学の研究室で絆留学生と交流。産業技術総合研究所(AIST)地質標本館の見学では、鉱物の効果的な展示や、日本列島の立体模型にプロジェクション・マッピングで投影される地質に関する情報量や、その見せ方の工夫に感嘆の声をあげていらっしゃいました。
 そして今回の研修で皆さんが楽しみにしていた九州への視察。鹿児島では赤石鉱山や大霧地熱発電所の実地研修を行い、実際の鉱山の活動や人材育成についての情報交換をすることができました。また、九州大学で行った地球科学技術に関する国際シンポジウムへの参加ではたくさんの絆留学生と交流し、絆プログラムへの理解をさらに深めることができました。カンボジアのコンさんが「鉱物資源の分野は技術面を高めていくことだけではなく、こうしたコミュニケーションが非常に大事」と、たくさんの方と交流の機会を持てたことに非常に満足そうな表情をされていたのが印象的でした。

鹿児島県・南九州市の赤石鉱山(あけしこうざん)を訪問。左手には日本百名山の開聞岳が。施設見学の他、技術的な問題や人材育成体制についても理解を深めることができました。

研修の途中で立ち寄った霧島神宮にて。手水舎で柄杓を使うキルギス共和国のナジラさん。日本の文化についてもたくさん興味を示してくれました。

鉱物分野における“絆”づくりのために

 研修最終日には帰国後それぞれの国で今回の学びをどのように活かすのか、行動していくのかを「アクション・プラン(AP)」としてまとめて発表。
 カンボジアのコンさんは「(同国の)内戦で採掘業に関わる専門家を多く失い、鉱業は回復基調にあるものの、資源管理や開発、環境問題に関する知識は限られており、鉱山機器や技術サービス部門が未成熟など、課題はたくさんある。今回のプログラムを通じて、日本の鉱業部門や大学との関係を強めることができた。一歩ずつ前進していきたい」と述べ、日本との技術協力についての抱負を語りました。
 キルギス共和国のナジラさんは「安全で環境への悪影響がないクリーンな鉱山開発が求められており、今回のプログラムで学んだことの自国への適用性は高いと思う。日本で出会った関係機関とのコネクションを自国で共有しプロジェクトを提案したい」とコメント。
 ウズベキスタンのモブラノフさんは「鉱業はあらゆる方面から統合される必要があり、日本で学んだことを自国に適用したい」と熱く語ってくれました。モブラノフさんは地質学者でもあり、地質標本館をはじめとする施設の展示の仕方などにも大変興味を持たれたようです。

 本研修は21年度と22年度にはブータン、フィジー、モンゴル、アンゴラ、ボツワナ、モザンビーク、タンザニア、ザンビアから研修員をお迎えしました。近隣の国同士の方々をはじめ、今も遠隔で情報交換を行っている様子が伝わってきてとても嬉しく思っています。
 開発途上国の鉱物資源開発を支援することは、鉱物資源の国際的なマーケットへの安定的な供給に繋がり、各国の持続的成長にも役立つと考えられています。課題別研修のタームである3年間を無事に終え、本研修に参加した研修員の皆さんを通じて鉱物資源分野の“絆”が大きく広がり、各国の持続的成長や世界経済の発展に繋がることを期待しています!

本研修では、実施機関として一般財団法人カーボンフロンティア機構の皆様に大変お世話になりました。この場をお借りして深くお礼を申し上げます。

研修プログラムの最終日、修了証書を携えて。右からナジラさん、コンさん、モブラノフさん。

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