世界をリードする民間ラボラトリーから学ぶ精度管理

2024.04.05

臨床検査市場で世界をリードする日本の民間企業があることをご存じですか?各国の結核対策で指導的立場にある臨床検査技師達が、その企業を訪問し、検査の精度管理を学びました。

世界の結核制圧にむけて研修員が来日

結核は、予防・治療可能な疾病です。しかしながら、WHOの結核報告書1によると2022年時点では、単体の感染症としてコロナウイルス感染症に次ぐ世界2位の死因となっています。2030年までに世界の結核を制圧するため、対策の強化が求められており、2023年9月には結核についての国連ハイレベル会合が実施されています。

このような世界的な流れを反映し、JICA東京でも結核制圧にむけた研修を実施しています。
2024年1月、7ヶ国8名の研修員が課題別研修「健康危機における結核制圧と薬剤耐性のための最新診断-実施指導による基礎技術から次世代シークエンス-」に参加するため来日し、主に公益財団法人結核予防会結核研究所で学んでいます。本研修は、質の高い検査を行うための技術と知識を習得することで患者の早期発見・早期治療開始を実現し、結核の蔓延を食い止めることを目的としています。

研修序盤、H.U.グループのH.U. Bioness Complex 通称:AkirunoCubeを訪問しました。この施設には民間検査会社である株式会社エスアールエルのセントラルラボラトリー(中央検査室)があります。全国の医療機関より毎日20万件以上の検体を預かって検査を行い、結果を提供するという受託臨床検査を行っています。臨床検査市場において世界でも上位の売り上げを誇る、日本の民間企業です。
また、H.U.グループは、「ヘルスケアにおける新しい価値の創造」をミッションに掲げ、臨床検査、検査試薬・検査機器の製造などヘルスケアに関わる多くを手掛ける世界でも類のない企業です。

AI技術の活用で人的エラーを防ぐ

研修員達は各国の国立結核基幹検査所NTRL(National Tuberculosis Reference Laboratory)で、国内の公的・民間ラボの精度管理QC(Quality Control)をする立場にあります。また、各国においては、民間ラボラトリーと連携した質の高い検査の実施が必要とされています。民間検査会社が 精度管理をどのように実施し、質の高い検査結果を担保しているかを知ることで、各国での連携促進に繋がることが期待されます。

AkirunoCube施設見学が始まり、まずウェルカムシアターへ。
映像と噴水が連動した迫力ある施設説明に研修員からは驚きの声が上がります。
続いてT-Cubeと呼ばれる検査ラボ棟を見学しました。AI技術ロボットなどによる工程のオートメーション化で、人的エラーを防ぎ、かつコストも削減している様子や、感染症検査室での結核検査の様子を見学しました。どの行程も、研修員にとって驚きの連続で、民間ラボがこれほど大規模かつ質の高い検査を実施していることを知ることが大きな刺激になったようです。

研修員の関心は検査ビックデータの管理

研修員からは、「それぞれの検査機器のメンテナンス頻度はどの程度か」や「毎日20万件以上の検査を実施するにあたり、検査データの保管方法や保管期間はどのようにしているのか」、「認証を受けているISO15189(臨床検査室-品質と能力に関する特定要求事項)はすべての検査技師が署名者として登録されているのか」等多くの質問が出て、関心の高さがうかがえました。

終了後には、ブータンの研修員から「このような規模の大きなオートメーションラボラトリーを初めて見ました」。モンゴル研修員からは「親切に受入対応してくれ、すばらしい経験をさせてもらった」といった感想が出ました。精度管理は1度切りではなく、継続していくものです。民間ラボラトリーがAI技術の導入と並行して、そこで働く職員を大切に育て、質の高い検査を維持している様子、また標準作業手順書(SOP)を用意し、複雑な検査の質を担保している様子等研修員は自国で取り入れられる多くの気づきを得たようです。

最後に、JICA担当としてとても嬉しかったことがあります。研修を受け入れてくださったAkirunoCubeに、JICA海外協力隊(JOCV)としてセネガルに派遣されていたOBが、いらっしゃったことです。帰国後に活躍され、JICA事業のよき理解者として研修員を受け入れてくださったこと、途上国の状況を理解したうえで質疑応答に対応頂いたことが、とても感慨深く、印象に残りました。

AkirunoCubeではAI技術ロボットによる検査を見学した

見学後、自分の職場の課題について問題分析をし、解決のための活動計画策定をする

各国の検査室の管理者として質の高い検査を主導できるように、検査の手技を学ぶ

◆関連リンク…H.U.Bioness Complex

◆研修概要
研修の目的:国家結核対策プログラムに携わる検査技師が、早期診断の強化に向け、結核/薬剤耐性結核に対応できる検査及びマネージメント能力を習得する。
2023年度参加国:ブータン、コンゴ民主共和国、モンゴル、ナミビア、ナイジェリア、フィリピン、ザンビア
2023年度研修実施時期:2024年1月18日―3月28日
研修実施機関:公益財団法人結核予防会 結核研究所 https://www.jata.or.jp/

◆引用文献
1 Global tuberculosis report 2023:World Health Organization;2023(Global tuberculosis report 2023 (who.int) )

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