【大学生インターンが見た研修の現場】チリ 高齢者支援のための地域モデル形成支援研修

2023.12.28

横浜センター研修業務課でインターンを行いました深川真優です。インターンの目から見た技術研修の現場をお伝えしたいと思います。

研修の様子

インターン期間中に「高齢者支援のための地域モデル形成支援研修」という約1週間の研修に同行する機会がありました。研修には南米チリから7名の研修員が参加していました。

チリはラテンアメリカの中で最も高齢化が進んでいる国の一つで、チリ高齢者庁(SENAMA)によれば、高齢化率は19%近くに達しています。チリでは公的な介護制度が確立されていないため、家族による介護が一般的ですが、家族からの支援を得られない高齢者も増加しています。また、民間の介護サービスは高所得者しか利用できないという格差も指摘されています。

他方で日本には介護保険制度があり、高齢者の介護を社会が支える仕組みとして機能しています。介護が必要になった人は誰でも、少ない負担で介護サービスを受けることができます。

研修では、日本の介護支援政策の中でも地域支援モデルに着目した、様々な団体が連携して高齢者支援に取り組むシステムについての講義や施設視察が行われました。より多くの人が包摂される公的な高齢者支援制度を目指すチリにとって、日本のシステムへの理解を深め制度の実現に向けて新たな視点を持ってもらうことが本研修の目的といえます。

私が同行させていただいた8月31日のプログラムでは、午前に横浜市社会福祉協議会の方からの講義と横浜麦田地域ケアプラザの視察が行われました。講義では横浜市の高齢化の現状や地域ケアプラザの機能について詳しく紹介されました。チリにはない制度である、民生委員・ボランティアについての議論が最も盛り上がりました。横浜麦田地域ケアプラザへの訪問では、所長から活動についての詳細な説明を受けながら施設を見学しました。最初に訪れたホールではフラダンス教室が開催されており、研修員も飛び入りで参加しました。振り付けの指示は日本語で行われましたが、研修員も利用者の方々に合わせて一緒に踊り、楽しいひとときを共有しました。

午後のJICA国際協力専門員の中村さんの講義では、日本の法律や介護保険制度についても議論が尽きませんでした。中村さんからは、帰国後も全国レベルでの介護保険の仕組み作りのためのオンラインセミナーを行う提案もあり、今後の連携が期待されます。

最終日には、アクションプランの発表と閉講式が行われました。アクションプランでは、最終的な目標として男女同額の年金と、家族以外の第三者を巻き込んだ介護システムの構築が述べられていました。この中で、日本で高齢者が高齢者のサポートをするように、「老いることは人生の一通過点に過ぎない」という意識を広めることが具体的な行動案として示されました。チリの研修員が日本の大きな特長と捉えた、「高齢者も他者へのケアに参加する社会」の実現を推進するステップとなる、素晴らしいスローガンだと感じました。

本研修への感想

研修同行を通じて、日本の介護保険制度が柔軟であることや、高齢者自身のケア意識、ボランティアコミュニティが参加者の居場所になっている点など、日本にずっといた自分が気づいていなかった特長を知ることができました。特にボランティア活動に関して、「高齢になっても他者との交流や支援をあきらめない意識」という側面があることを知りました。高齢化自体をネガティブに捉えるよりも、高齢化が進む中で何が日本の強みとして機能しているかに目を向ける重要性に、改めて気が付きました。同時に、異なるバックグラウンドを持つ人からの視点がいかに重要なものかを実感した経験となりました。

私は1年前に学び始めたスペイン語を使って研修員との簡単な日常会話を楽しむことができました。ネイティブスピーカーに自分のスペイン語が伝わったときは、非常に嬉しかったです。初日からの明るく活気にあふれた雰囲気は最終日まで続き、積極的な姿勢、協力する姿勢が光りました。

本研修は、日本とチリの間で知識や経験が共有され、互いに新たな気づきを得た貴重な機会となりました。行動力に満ち溢れた研修員の方々が今後どのようにプロジェクトを実現されるのか、楽しみです。

研修事業に関する気づき

実はインターンの前は研修事業についてほとんど知識がありませんでした。最初に思い描いていたのは、日本は途上国に対して教える立場にあるというイメージでした。しかし横浜センターで様々な学びに満ちた日々を過ごし、こういった予想とは異なる研修事業の魅力に触れることができました。JICAの研修事業について、主に2点の気づきを紹介させていただきたいと思います。

第一に、研修事業がJICAの国際協力のあり方を体現している点です。私は研修の中で、通訳や閉講式の司会などの実際の運営に近い仕事も担当させていただきました。担当職員やコーディネーターの方々の業務の難しさを実感したと同時に、自分には欠けていたものに気がつきました。それは、JICAを含む研修の運営側が研修員の文化や意見を尊重する姿勢です。食事から通訳まで、研修員がスムーズに活動できる環境を築くための様々な工夫がどの研修でもみられました。研修期間の最終日に研修員とともに涙を浮かべながら別れを惜しむ姿は、深い信頼関係が築かれたことを示していました。研修員一人一人との信頼関係を大切にして実施される研修事業は、まさにJICAのビジョンである「信頼で、世界をつなぐ」事業といえます。

第二に、研修によって双方向の学びが生まれ、相互にプラスとなるサイクルが形成されている点です。JICAの研修事業には研修員が日本に直接訪れるという独自の特色があり、これが日本のシステムと共に日本の文化を知ってもらうことに繋がります。同様に、研修に同行する中で私も研修員の国の文化に触れたり、自身とは異なる考え方を知って視野が広がったりした瞬間が何度もありました。このように研修員を受け入れる日本にも、日本の仕組みを見つめ直すきっかけや新たな気づきをもたらすのがJICAの研修事業といえます。研修事業において日本は途上国に一方的に教える存在ではなく、知識を共有しながら課題解決を目指す立場にあることを実感しました。

JICA横浜センターでの2ヶ月間で、研修員と同じく課題分野について学んだり彼らとコミュニケーションをとったりと非常に貴重な経験を積むことができました。インターン期間は終了しましたが、将来社会人としてJICAの研修事業に関わる機会をぜひ持ちたいと考えています。JICAの研修事業とその成果に引き続き関心と期待を寄せながら、研修事業をさらに多くの人に知ってもらうことを目指して活動していきたいです。

研修業務課インターン
深川真優

最終日のアクションプランの発表は、2時間に渡りました。

討議の様子。高齢者庁(SEMANA)長官クラウディアさんの「チリの組織はトップダウン型で規律が多いが、日本のように柔軟で各組織に裁量権の大きい制度を取り入れていきたい」との言葉が新鮮で印象的でした。

日本食を楽しむ様子も!この日はハヤシライスでした。

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