安全第一

2023.06.23

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安全管理部 参事役 丸尾 信

月日はめぐり、今年も7月が近づいてきました。
7月は、JICA事業に関わる者が忘れてはならない、人命にかかわる大きな事案が発生した月です。32年前、ペルーのワラルで3名の専門家が、そして7年前、バングラデシュのダッカで7名のコンサルタントの方々が、いずれもテロの犠牲となり尊い命を落とされました。奇しくも、いずれも7月のことでした。

JICA事業の関係者が不幸にして落命された事案はこれらに限りません。私たちは、病気・交通事故・強盗事件・航空機事故などで、多くの方々が志半ばにして尊い命を落とされた、その現実を直視し、二度と繰り返さないという誓いを胸に抱いて事業を行うことが大切だと考えています。

7年前のダッカ襲撃テロ事件を受けて日本政府が設置した「国際協力事業安全対策会議」の最終報告の結果も踏まえ、JICAは2016年11月に北岡理事長(当時)の名で安全対策宣言を公表しました。また、2022年10月には、同年4月に就任した田中理事長名で改めて安全対策宣言を公表しました。宣言では、「人命最優先」「最適の安全対策」「当事者意識」を重視して、安全対策の取組みを推進すると謳っています。

国際協力の碑「共により良い未来をめざして」

国際協力の碑「共により良い未来をめざして」
貴い生命を捧げた友人たちの霊をなぐさめるため、1993年10月に国際協力総合研修所(現 緒方貞子平和開発研究所)に建てられた

JICA事業の主な現場は途上国にあります。そして途上国で仕事をする以上、相応のリスクがあることは覚悟する必要があります。真に協力を必要としている人たちが置かれた状況を考えれば、往々にしてニーズとリスクは隣合わせにあることを忘れてはなりません。
安全対策宣言でも謳う「人命最優先」のためには、リスクを許容可能なレベルにまで低減させる必要があります。しかし、協力の現場において事業推進とのバランスを取ることは、非常に難しいものです。

私自身、今年の2月まで勤務していた、とあるアフリカの国においてこのバランスに頭を悩ませることも多くありました。さらに難しいのは、全ての関係者にも、しっかりと安全の意識を持って頂くことです。

4年間の在勤中、残念ながら無事故無事件とはいかず、管轄していた隣国を含め複数の事案が発生しました。中には防ぎようのなかった事案もありましたが、明らかな不注意によるものがあったのも事実です。労働災害の経験則である「ハインリッヒの法則」では、1つの重大事故の背後には29の軽微な事故があり、その背景には300の異常が存在するとされています。小さなものであっても事件・事故につながる要因を摘み取っておかねば、それが重大事案に繋がりかねません。
国際協力の現場では、赴任国への到着直後は緊張感をもって日々を過ごすからか、犯罪被害に遭う事例は多くありません。むしろ現地での生活・活動を進める中で、徐々に慣れが生じてきて油断が生まれ、犯罪被害や交通事故に巻き込まれるケースが多い傾向にあります。
JICA事業に関わっていただく方々の中には、豊富な途上国の現場での経験がある人も多く、その中には、幸いにしてこれまで何ら危険な目に遭ったことが無い方も相当数いらっしゃると思います。しかし、昨日まで何もなかったことがすなわち、今日も何もないことを担保するものではないのです。

JICAでは、安全管理は自助(個人レベル)・共助(組織レベル)・公助(国レベル)によって構成されると考え、関係者に対する研修の機会を通してお伝えしています。しかし、JICA(組織)として「最適の安全対策」を講じたとしても、個人の行動を完全にコントロールすることは不可能であり、安全管理は個々人が自らの行動を通して確保していくことが不可欠です。つまり、「当事者意識」に基づく自助が重要なのです。
自助の実践につなげるためには、理想論のような規範を示しても意味をなしません。行動に反映されるよう、手の届く範囲、頑張ればできる行動を促すことが重要です。また、人間は繰り返し同じことを伝えられても、徐々に心には響かなくなっていくものです。行動規範にメリハリをつけるなど、JICAとしての工夫が欠かせません。

コロナ禍により、海外に滞在するJICA事業関係者の人数は一時期、大きく減りましたが徐々に回復しています。また、派遣される海外協力隊員の数も2024年度中にはコロナ前の水準に戻る見込みです。通常時は25,000人規模にもなるJICA事業関係者の安全を守るためには、特定の人や部署に依存するのでなく、組織全体で支える共助も重要です。

国際協力事業に関わる各組織・個人が少しずつ、安全管理意識を持つことで、その積み上げにより総体としての安全管理能力が高まると考えます。JICA事業にまつわる安全管理を司る安全管理部では、情報収集を基に必要な対策を講じ、個々人の安全意識を高め、現場での活動を安全に実施できる体制を備え、事業関係者が開発協力の現場での事業に精一杯取り組めるよう、環境を整える責務があると強く認識しています。

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