開発協力大綱改定に思うこと ~不易流行~

2023.07.14

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企画部 部長 原 昌平

はじめに

 「不易流行」という言葉があります。これは俳聖・松尾芭蕉が唱えたといわれるもので、いつまでも変わらない本質(不易)を大事にしつつ、新しいこと(流行)を取り入れていくことで、両者は実は同一である、という考え方を表しています。
 開発協力大綱が策定された2015年には、持続可能な開発目標(SDGs)を含むアジェンダ2030と気候変動枠組条約のパリ協定が合意され、国際的な協調の機運が大いに高まりましたが、その後の世界は「国際関係において対立と協力の様相が複雑に絡み合う時代」(「国家安全保障戦略」(2022年12月))となり、「複合的危機」に直面しています。
 その間、JICAも大きく変わってきました。新ビジョン「信頼で世界をつなぐ」の採択(2017年)、TICAD 7・8の開催(2019年・22年)、そして新型コロナウイルスへの対応(2020年以降)などに加え、外国人共生の取り組み、JICA開発大学院連携、質の高いインフラ推進、中小企業・SDGsビジネス支援事業や海外投融資に代表される民間連携の定着・拡充、スタートアップとの連携を含む様々なイノベーション・DX推進、最近ではウクライナ支援、トルコ・シリアの震災後の支援などに積極的に取り組んできました。

改定大綱の「不易」と「流行」

 今回改定された開発協力大綱は、「人間の安全保障」を、「我が国のあらゆる開発協力に通底する指導理念」としています。その上で、複合的危機に直面した「新しい時代に対応する人間の安全保障の実現」に向けた「人間中心の開発を通じた強靭且つ回復力に富んだ国・社会づくり」が重要であって、「様々な主体の連帯を新しい時代の『人間の安全保障』の柱とし、人間の主体性を中心に置いた開発協力を行っていく」として、不変の価値と共に時代の変化に合わせた新たな要素を取り入れています。
 また、「平和と繁栄への貢献」や「開発途上国との対話と共同を通じた社会的価値の共創」を継承しつつ、特に後者については、「互いの強みを持ち寄り(略)『共創』により、新たな価値を生み出す」としています。これは改定に先立って行われた「有識者懇談会報告書」の、「日本と開発途上国の関係性を、現大綱に謳われる『対等なパートナー』から、共助と共創での新たな価値づくりを目指すパートナーシップに発展させるべき」との提言を受けたもので、従来からの日本の開発協力の特徴を基軸としつつ、開発途上国との双方向の協力関係に向けて、新たな段階に入っていくことを表していると言えます。
 自由で開かれたインド太平洋(FOIP)ビジョンなどの「平和・安全・安定な社会の実現」や、SDGの取り組み加速を含めた「地球規模課題への国際的な取組の主導」においても、「人間の安全保障」と新たなチャレンジに言及しつつ、課題解決に向けた日本のコミットメントを再確認しています(この関連で「今後始まるポストSDGsに向けた議論において日本は主導的役割を果たすべき」との有識者懇談会報告書の提言も心に留めておきたいものです)。「新しい時代の質の高い成長」には、時代の変化に応じた要素(人道状況の悪化・債務持続可能性・サプライチェーン強靭化・DX等の新技術)を取り入れています。その他、「開発協力の適正性確保のための実施原則」はほぼ前大綱を踏襲しています。
 このように、ゆるぎない太い幹を保ちつつも、時代に合わせた新たな要素が取り込まれたのが、今回の大綱の改定であったと思います。

共創の加速

 改定大綱は、「共創を実現するための連帯」として、複雑に絡み合った課題に対応するため、またイノベーションを取り込むためにも、ビジネス、市民社会、自治体、大学・研究機関、知日派・親日派・日系人など、幅広い関係者とともに、「開発の課題設定を行うとともに、開発途上国を中核に置きつつ、様々な主体を巻き込んだ開発のプラットフォームを形成・活用し、かつ、そこで生み出された解決策を、資金を含む多様な資源の動員を通じて力強く後押ししていくことを目指す」としています。
 これはJICAが推進している「JICAグローバルアジェンダ 」の考え方・アプローチにも通じるもので、「日本の強みを活かした魅力的なメニューを作り、積極的に提案していくオファー型協力を強化する」にもつながるものです。「オファー型」をはじめとする大綱改定に合わせた制度改善 については詳細を検討中ですが、一方的なアイデアの提示ではなく、パートナーである開発途上国の関係者との真摯な対話を通じて、二国間の長期的な信頼関係・財産につながる取り組みを進めたいと考えています。

より広いご関心とご参加を!

 さて、日本各地で行われた大綱改定に関する意見交換会では、毎回熱心にご参加頂いた方々が多く、また参議院の「政府開発援助等及び沖縄・北方問題に関する特別委員会」でも多角的な議論が行われ、厳しいご指摘も含め、とてもありがたく感じました。一方、国内の様々な課題解決にJICAが果たしうる役割など、もっともっと多くの方々に関心を持って議論して頂いたらよかった、という思いもあります。
 私自身、JICAの仕事は、開発途上国と共に課題解決に取り組むことを通じて、日本と一つ一つの国々とのパートナーシップを確固たるものにすること、さらに国際的な「共感・協力・協調」の機運を高めること、それをもって日本を強くすることにつなげていくものだと思っています。また、開発協力は、日本のあり方を世界に表すものであると同時に、世界と切っても切り離せない日本の現在と未来に向けたとても大切な取り組みであると思っています。
 ただ、言うまでもなく、それはひとりJICAのみで実現できることではありません。より幅広い方々に関心を持って頂くこと、改善するための意見を頂くこと、そして様々な形で支援・参加頂くことをもってこそ、日本と国際社会の未来を切り開いていくことができると思っています。
 その意味でも、開発協力大綱の改定は終わりではなく始まりです。大綱に込められたメッセージを国内外に積極的に発信し議論する、そしてその過程で、ビジネスをはじめとした社会課題解決の取り組みと連動し、従来の「援助/開発協力」という概念を超えたつながりやアイデアなどを取り入れ、我々自身も新たな流れの中でどんどん変わっていく、そんな、「選ばれる日本のための選ばれるJICA」となっていきたいと思っています。

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