途上国の発展と、世界の資源の安定供給を目指して~資源の絆プログラム10年~

#7 エネルギーをみんなに。
そしてクリーンに
SDGs
#13 気候変動に具体的な対策を
SDGs
#17 パートナーシップで目標を達成しよう
SDGs

2023.08.14

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社会基盤部 部長 田中 啓生

近年、世界中で取り組んでいる課題の一つとして気候変動対策があります。この気候変動対策において、資源問題がクローズアップされていることをご存じでしょうか。JICAでは途上国での資源開発を促そうと10年前から「資源の絆プログラム」という人材育成の協力を行ってきました。これまでの10年を振り返り、今後について紹介させていただきます。

気候変動対策と資源開発

気候変動対策と聞くと、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー、電気自動車やそれに付随する蓄電池、などをイメージされる方が多いと思います。これらに必要なものが、銅、ニッケル、コバルト、レアメタル、といった多種・多様な金属資源になります。2021年にIEAから発表されたレポート(The Role of Critical Minerals in Clean Energy Transitions)でも、2020年と比較して2040年までに、リチウムは42倍、コバルトは21倍、ニッケルは19倍の量が必要になるとの分析結果も出ています。このような結果を踏まえ、世界的にも金属資源の重要性が再認識され、各国が資源開発、資源確保に動き始めている状況です。

資源の絆プログラム

JICAでは資源分野の人材育成を目的に「資源の絆プログラム」を10年前から開始しています。資源開発の核となる人材を育成すべく、資源ポテンシャルを有する国の鉱業分野の行政官、同分野での人材を輩出する大学の教官候補を対象に研修を行うものです。開始当初は、現在課題となっている気候変動問題による鉱物資源需要増大への対応というよりは、資源を自国に囲い込む資源ナショナリズムに対する危機感がありました。これに対し、途上国において資源開発を進めることで資源供給国の多角化を行い、国際鉱物資源市場に多くの国から安定的に資源が供給されるのが世界の共通の利益になるとの想いから、本プログラムの検討を始めました。

プログラムの立上げ

鉱業開発を行うのは民間企業です。したがって官分野への協力をおこなうJICAとしてやれることは、民間が参入できる適切な投資環境整備を整えること、鉱業開発で得た利益を国の発展につなげるべく財政管理や政策支援を行うことです。これに欠かせないのが、実際に政策を立案し実行する人材です。この人材育成こそJICAがやるべき仕事ではないか、と考え、技術的な専門分野の理解に加え、上述の政策面での知見も習得できるようプログラムの内容を詰めていきました。
研修の基礎となるのは日本の大学への留学です。幸い、日本は今でこそ鉱山はほとんどないものの、もともと鉱業が盛んで、そこから工業立国と変遷していった歴史もあり、大学でも鉱業関係の研究が続けられています。そこで鉱業系の学部が充実している北海道大学、秋田大学、九州大学を中心に、各大学を訪問しプログラムの主旨を説明し、研修員の受け入れ協力をお願いしました。
さらには、大学での研究だけでは実務面での知見習得が十分ではないため、夏期と春期にJICAで短期のプログラムを実施することとしました。例えば、夏期の短期プログラムでは、2週間の講義・演習で、資源政策、資源契約、プロジェクトファイナンス、財政管理、環境対策、地域開発など、日本の経験も交えながら幅広く学んでももらう形にしています。
このような準備を踏まえ2014年第一号の研修員がモンゴルから来日し、それ以来、これまで178名が来日、この秋来日予定の24名を加えると、当初目標としていた10年200名の目標に届くところまでやっときました。

資源の絆プログラムのこれから

当然ながら、200名の受け入れが最終目標ではありません。これら人材が自国で活躍し、鉱業開発につながっていくことが最終的な目標です。卒業生の中でも帰国後、昇進して重要なポジションにつくものも出始めており、いよいよこれからはこれら帰国生との関係をより強固にし、実際の鉱業開発につなげていくステージにあると認識しています。例えばマダガスカルのDésiréさんは、鉱山局長に就任し同国の鉱山開発を推進しています。またザンビアのGraceさんの研究成果は新しい鉱床発見につながる可能性のあるものであり、更なる調査が検討されています。そのほかにも帰国生を核にした共同研究やプロジェクトの実施、ネットワーク強化を目的に在学生と帰国生の交流会などの取り組みも今後予定しています。
人材育成にも資源開発にも10年単位での長い取り組みが必要になります。息が長い分、それだけ得られる成果も大きなものになると思っています。何年後かのカーボンニュートラルな社会において、必要な鉱物資源が多くの国から供給され、そこには資源の絆の卒業生が活躍していたことを想像すると、なんだかワクワクします。苦労の絶えないプログラムですが、いつかそんな日が来ると夢見ながら、日本の大学の先生方と、民間企業の方と、そして多くの資源の絆の在学生・卒業生とともに取り組んでいます。今後は、行政官、研究者に加えて、その国の代表的な資源関連会社の幹部候補生など民間人も対象として拡げて、産学官における核となる人材の育成と帰国後支援に一層力を注いでいきたいと思います。

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