地雷・不発弾対策で世界をつなぐ

#11 住み続けられるまちづくりを
SDGs
#16 平和と公正をすべての人に
SDGs

2023.11.06

サムネイル
国際協力専門員 小向 絵理

簡単に解決しない地雷・不発弾問題

 1997年に「対人地雷の使用、貯蔵、生産及び移譲の禁止並びに廃棄に関する条約(通称オタワ条約)」が発効してから既に25年以上が経過し、締約国は164ヵ国にのぼります。一方で今も世界のいくつもの国や地域において戦争、紛争が発生し、地雷や爆発物が使用されています。地雷や爆発せぬまま残った不発弾は、埋めたり投下するのにはそれほど時間がかからないのに対し、後日在り処を突き止めて掘り起こし、破壊するのには膨大な時間、労力、資金を要します。
 私は、紛争が完全に終結した1998年から二年経過した2000年にカンボジア地雷対策センター(CMAC)の活動現場を訪問し、その時、地雷を取りきるには100年程度かかるだろうと説明を受けました。

国を超えて知見を伝える

 2000年以降、CMACは探査や除去の手法や技術、機材を拡充することで、汚染地を縮小するスピードを上げ、2025年にオタワ条約を履行することを目指し、カンボジア国内に埋設されている対人地雷を取りきる目途をたてて活動しています。CMACが活動を開始した1992年から2000年頃まではCMACの年間の汚染地開放面積は10km2でしたが、活動の効果・効率をあげるために、調査研究や研修、制度整備をすすめ、それを現場で適用して更に改善するというプロセスを続けてきた結果、2022年には160㎞2まで拡大しています。
 JICAは、CMACが蓄積してきた知見をカンボジア以外の地雷・不発弾埋設国においても活用されるよう、CMACと他の国の地雷・不発弾対策組織を繋ぐ協力を進めてきました。2009年のコロンビア政府関係者への研修に始まり、ラオス、アンゴラ、イラクに対して、2022年までにCMACは延べ500人以上の地雷・不発弾対策に従事する政府機関の職員に対し研修を提供しました。2023年に入ってからは、CMACはJICAの協力のもと、ウクライナの地雷・不発弾対策に従事している政府職員に対して、ポーランドとカンボジアにおいて研修を行ったほか、カンボジア同様2025年にオタワ条約の履行を目指すコロンビアに対して、研修の提供にとどまらず、地雷除去活動の効率化を支援すべく、コロンビアとカンボジア双方の地雷除去現場でお互いの活動をみながら、技術的な分析と提案を行っています。

CMACで研修を受けるコロンビア政府地雷対策関係職員

CMACで研修を受けるコロンビア政府地雷対策関係職員

CMACで研修を受けるウクライナ政府地雷対策関係職員

CMACで研修を受けるウクライナ政府地雷対策関係職員

JICA-CMAC-国連が協力してアフリカの国々にアプローチする

 2023年10月にはさらに新たな取組みに向けて動き始めました。10月5日、6日の二日間に亘って、ケニアの首都ナイロビにおいて、JICA、CMAC、国連地雷対策サービス部(UNMAS)の3者共催で、エチオピア、ナイジェリア、ソマリア、南スーダンの4か国の地雷・不発弾対策を統括する政府組織を招いてワークショップを開催しました。エチオピアは独立後も各地方で反政府勢力との戦闘を経ており、最近ではティグレ紛争が勃発しています。これらの紛争の結果、国内10地域中7つの地域に地雷や不発弾が埋設している可能性があるとのこと。ナイジェリアはボコハラムの武装活動により、北東部のボルノ州、ヨベ州、アダマワ州に地雷や不発弾が埋設されています。ソマリアも広い地域が武力紛争に巻き込まれており、2023年だけで既に一般市民の73人が地雷や不発弾に、223人が即席爆発装置(あり合せの爆発物と起爆装置から作られた規格化されていない手製爆弾)の被害にあっています。南スーダンでは独立前の10年間に4,500人以上、2011年の独立以降も700人以上が地雷・不発弾被害にあったと記録されています。

ナイロビワークショップの様子

ナイロビワークショップの様子

 4か国全てにおいて地雷や不発弾が人々の生命を脅かしているだけでなく、国・地域の復興・開発の妨げになっています。しかしながら、4か国共にどの地域にどの程度地雷や不発弾が埋まっているか把握するための基本的な調査ができていないことも明らかになりました。CMACが活動の効率を上げることができた要因の一つは、除去作業に取り掛かる前の調査の精度が上がったことです。やみくもに機材を投入して探知・除去を進めるのではなく、対象地の汚染の特性や密度について一定程度把握したうえで適切な手法を選択することで、探知・除去のスピードが上がったのです。参加した4か国の関係者は、限られた資金を有効に活用するという観点からも、事前調査の重要性について認識を深めました。

解決に向けて重要なのは自国のオーナーシップ

 UNMASは国連平和活動の一環で地雷対策活動を行っています。UNDPやUNICEFも体制整備や回避教育等の支援をしています。ジュネーブ人道的地雷対策国際センター(GICHD)は地雷対策の情報管理システムや、新規技術の研究支援等の分野で活動を行っています。これらの組織とも協調しながら、JICAは地雷・不発弾汚染当事国政府が、問題解決できるための能力開発を支援します。戦争や紛争が終結した後も長期間に亘って残る地雷・不発弾は、住民の脅威であり、国の復興や開発の障害でもあることから、解決には当事国政府が強いコミットメントをもって息長く対応することが求められます。30年以上も地雷対策活動に改善を重ね、今や世界各国に対して知見を提供しているCMACは、JICAにとって重要なパートナーなのです。

\SNSでシェア!/

  • X (Twitter)
  • linkedIn