気候変動で開発途上国を取り残さないために

#13 気候変動に具体的な対策を
SDGs

2023.11.29

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地球環境部 次長 宮崎 明博

2023年、今年の夏は長く猛暑日が続き、気候変動を身近なものと感じた方が多いと思います。この現象は日本のみならず、世界的に見られ、6~9月はこれまでで最も平均気温が高く、9月末までで約1/3で平均気温が1.5℃を超えていると言われており、まさに地球沸騰化が進んでいます。

気候変動対策は、地球規模の課題として取り組む必要があり、気候変動の方向性を定めたパリ協定の下では、世界の平均気温上昇を1.5℃以内にするためには2030年までに温室効果ガスの排出量を半減させる(緩和策)ことが求められています。あわせて、すでに発生している気候変動の影響に対処する(適応策)ことも必要です。

この気候変動の影響は、様々な対応・準備が整っていない開発途上国においては更に大変なものとなります。開発途上国はエネルギー、食糧価格の上昇により人々の生活が苦しくなり、政府は対外債務の上昇に伴い気候変動対策に回す資金の余裕がなくなっています。干ばつや洪水などの自然現象の被害が拡大することも心配されます。国際機関や先進国は、その解決のために、気候変動に対応するための資金協力を行っています。しかしながら、気候変動、特に適応策に対する支援は、必要額とのギャップが10~18倍ある(UNEP 2023)と言われています。適応策の実施は、気候リスクの確認など開発途上国での協力、事業の実施は簡単ではなく、実施の準備、データの確認に時間を要するため、難易度も高いです。

このような状況の中、様々な関係者が気候変動対策に取り組んでいますが、JICAは開発途上国での気候変動対策を着実に進める方策として、開発事業との相乗効果を発揮する気候変動対策をコベネフィット型気候変動対策と呼んでいます。この推進を通じて、様々な開発課題の解決と共に、パリ協定目標の達成や、持続可能な発展を進めるために気候変動対策(緩和策、適応策)を講じて「気候変動に強靭な開発(Climate Resilience Development)」につなげることを目指しています。両方の便益を追い求めるためには、相乗効果(シナジー)を最大化して、負の影響(トレードオフ)を最小化することが重要になります。

エネルギー分野では、温室効果ガスの排出を減らすため再生可能エネルギーに変換する動きが世界中で見られます。例えば、パプアニューギニアでは約85%の人が安定した電気へのアクセスがありません。再生可能エネルギーを導入することでパプアニューギニアの人々の生活は豊かになりますが、現在電気が利用できていない人々がどのような生活の変化、発展が見られるか、電力を使う場合には高価で安定性が低く負担とならないかという面にも十分に配慮することが必要です。また、太陽光発電や風力発電を導入する際、野生生物、人の暮らしや環境を維持するために重要な森林などの自然を消失させること(トレードオフ)は避けなければなりません。このように、相互の効果(シナジー)が高くなる方法を関係する人々と検討して事業を進めることが重要となります。

コベネフィット型気候変動対策を推進するため、気候変動とその他の課題(JICAグローバル・アジェンダ:JGA)との関係を整理・分析するため、各課題に対応する関係者と共に、気候変動対策と持続可能な開発目標(SDGs)との相関を示した表を開発しました。緑がシナジー、オレンジがトレードオフ、黄色がシナジーとトレードオフの両方です。
同表からも開発を進めるためには、多くの考慮・注意事項があることがわかります。開発事業に関与する者が同考慮事項を認識・確認しながら、開発目的と気候変動及びSDGs目標の達成を目指すことが大事になります。

表 JGA、気候変動対策と持続可能な開発目標(SDGs)との相関関係*

*JICAが各課題への対応を進める際に配慮・考慮する事項を洗い出し、案件形成の時点で、特にトレードオフが発生すると考えられる項目を確認した上で、その影響を最小化する策を考えた上で案件形成を進めることが期待される。なお、本表は各課題解決のメニューを包括したものであり、全ての協力のシナジー、トレードオフを表現したものではない。

また、地球規模課題の解決には、開発途上国の状況に沿って対策・対応を着実に進めることも大切です。COP28では、どのように開発途上国での気候変動対策を進めるか議論を深めるため、「CRDとその道筋」をテーマとしたサイドイベントを開催予定です。この機会に皆さんも開発途上国の気候変動対策、持続的な開発と強靭な社会の構築について、一緒に考えてみませんか?

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