2021年度SATREPS「開発と科学の共創セミナー」 -研究室からフィールドへ、社会実装を考える-

掲載日:2022.03.04

イベント |

概要

セミナー名:2021年度SATREPS「開発と科学の共創セミナー」 -研究室からフィールドへ、社会実装を考える-
開催日:2022年3月4日(金)
主催:国際協力機構(JICA)
場所:オンライン

主な参加者

発表研究者

東京大学 大学院農学生命科学研究科 教授 岡田 謙介 氏
名古屋大学 農学国際教育協力研究センター 准教授 伊藤 佳純 氏

研究者以外の発表者

JICA経済開発部 畔上 智洋 課長

パネルディスカッションファシリテータ

名古屋大学 名誉教授 浅沼 修一 氏

パネラー

玉川大学 農学部 准教授 石川 晃士 氏
筑波大学 名誉教授 増田 美砂 氏
JICA 経済開発部 佐藤 勝正 専門員

目的・内容

SATREPS事業の国際共同研究によって創出された知見や技術をいかに活用し、開発効果に繋げるかについて、生物資源領域をとりあげ、具体的な良い事例を共有しつつ、社会実装の方策について議論することにより、社会実装に繋がるSATREPS優良案件形成に貢献することを目的として、本セミナーを開催しました。

今回のセミナーでは生物資源領域をとりあげ、JICAの課題別事業戦略(グローバルアジェンダ)「農業・農村開発(持続可能な食料システム)」の概要について説明するとともに、研究成果の社会実装促進のための3つの工夫についてお話しました。

また、実際にSATREPS事業において、研究成果のインパクト拡大に向けて良い成果をあげられた2つの事業に関わられた研究者の方から、現場での工夫や取り組みについて具体的なお話を伺いました。

さらに、SATREPS事業の推進にご協力いただいている専門家の皆様によるパネルディスカッションを実施し、SATREPSのインパクトとインパクト拡大に向けた工夫と課題、またSATREPS事業に応募するにあたって留意すべきことについて、議論しました。

パネルディスカッションで議論されたポイント

(1)SATREPSのインパクトとインパクト拡大に向けた工夫と課題

  • 研究提案に先立ち、相手国の開発計画や政策にかかる情報収集をし、研究が相手国の抱える課題の解決に貢献するか、相手国としっかり協議することが重要。さらに、産業界や農家とも直接協議をするなど、エンドユーザーも巻込みつつ、普及へ向けた方策を検討する。
  • 日本側の人材育成や研究の発展だけではなく、相手国へのそれ以上の裨益が重要。
  • 研究自体が成功裏に終われば、社会実装はおのずと実現するという考えは誤り。自然環境や社会条件も検討し、現地の農法を改良する、種苗センターを作って終わりではなく生産者を含めて面的拡大を図る、などの工夫が必要。

(2)SATREPS事業に応募するにあたって留意すべきこと

  • 現地での情報収集・ニーズ調査を実施し、相手国の研究能力、実施体制、意欲を調査する。相手国からの情報収集とともに、現地のJICA事務所・日本大使館を活用。
  • 当初より出口戦略を考え、相手国と協議し、普及を促進する機関、民間企業、農家、NGOの取込みを検討。過去のJICA案件のアセットの活用、普及を見据えたドナー連携も。
  • 社会実装というのは、社会を変えていく、社会に適応させるという意味で、地域の人々に普及する形を一緒に考えるパートナーとして、社会科学者など現地に精通した方々を初めから含める。
  • 社会実装を研究計画の枠組みに明確に位置付け、指標を設定し、実施中に両国で全体モニタリングをするなどして運営管理体制の中に組込む。
  • 相手国とのコミュニケーション構築や人材育成の観点から若手研究員の長期派遣は有用。

【事前質問 回答】

聴講者の方からは多くの事前質問が寄せられており、その多くはセミナーでの発表やパネルディスカッションの中で回答されましたが、以下、回答します。

SATREPS終了後の活動継続事例

1)JICA技術協力「道路橋梁維持管理 能力強化プロジェクト(2020~2022)では、SATREPS「ミャンマーの災害対応力強化システムと産学官連携プラットフォームの構築(2015~2020)」で構築された産学官連携プラットフォームの実用化、具体的には、建設省とヤンゴン工科大学との連携が、活動の一つとして継続。

2)SATREPS「(南アフリカ)気候変動予測とアフリカ南部における応用」(2010年4月~2013年3月)の研究成果をもとに、JICA「途上国の課題解決型ビジネス(SDGsビジネス)調査」として採択され、一般財団法人リモート・センシング技術センターが「南アフリカ共和国 衛星データを活用した農作物生産性向上のための農業情報サービスビジネス(SDGsビジネス)調査」を実施した。(2019年12月~2022年1月)

協力国において、研究成果を普及につなげる仕組みの構築までを、SATEREPSまたはJICA事業で支援可能か

上に示した通り、SATREPS事業で得られた研究成果の社会実装への取組みを支援する仕組みとして、JICAの技術協力事業や民間連携事業へ引継ぐ事例のほか、市場化へ向けた日本や相手国の民間企業との連携、研究継続のための日本や他国の研究資金(例:NEDO、科研費など)の獲得や他ドナー、財団との連携(ADB、ゲイツ財団など)の実績あり。

具体的に研究結果がJICAの技術協力プロジェクト等とコラボした事例

SATREPS「ベトナム北部中山間地域に適応した作物品種開発(2012~2015)」では、同じ時期にJICAが実施していた「ゲアン省農業振興プログラム(2014~2015)(注)」との連携により、プロジェクトが育種したイネ品種の試験栽培をゲアン省で実施できたことが、品種登録のプロセスを促進しました。
(注)「ゲアン省農業振興プログラム(2014年6月~2015年5月)」は、当時ベトナムで実施中または完了した農業分野における協力の成果をゲアン省に集中的に投入・活用し、ゲアン省での農業バリューチェーン構築を目的としていました。

JICAでは2021年度に「SATREPS事業の社会実装にかかる事後レビュー調査」を実施、調査結果を「SATREPS事業の社会実装を促進する取り組み事例集」として取り纏め、研究成果が開発途上国の課題解決に貢献した要因や工夫について紹介しています。近日中にJICAホームぺージ上で公開を予定していますので、ぜひ参考にご活用ください。

最後に

今回のセミナーでは、事例紹介、パネルディスカッションとも、SATREPSの社会実装の意義、個々のプロジェクトのみならず事業全体の経験から得られた具体的な教訓もあげられ、説得力があり意義深いものとなりました。

最後に、研究を支援する仕組みは色々ある中で、SATREPSという枠組みは「地球規模課題の解決に繋げていくために、研究成果が社会実装される」ということを目指しているものであり、そのためにJST(国立研究開発法人科学技術振興機構)・AMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)とJICAが連携して事業を運営しています。JICAとしては社会実装という部分にしっかりコミットしていきたいと考えます。

事後アンケート結果

セミナーを聴講された方より多くの事後アンケート調査にご協力いただきました。以下、その一部をご紹介します。

  • 社会実装の工夫や対策について、現場からの経験を聞くことができ、SATREPS事業に取り組むにあたっての留意点が理解できた。
  • 早い段階から社会実装について相手国と検討し、事業の枠組みの中に組み込むこと、研究成果の普及の担い手を巻き込んで実施することが必要だとわかった。
  • 現地での情報収集、相手国とのコミュニケーションを密にし、ニーズに合った研究テーマの提案が必要。
  • SATREPSだけが研究開発成果の出口である社会実装までを担うのではなく、SATREPSの前後に応募の支援や、研究開発成果のチューニングを行う仕掛けを作り、社会実装の実現に向かうのが良い。
  • 社会実装をするためにアカデミア以外のパートナーの講演、質疑応答や討論の時間の確保、失敗事例からの学びの機会、他領域での同様のセミナー開催など、セミナーの継続と定期開催の希望。

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