JICA-JISNAS(農学知的支援ネットワーク)シンポジウム2023開催報告 「改定開発協力大綱における国際頭脳循環への取り組み」

掲載日:2023.12.25

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JICA-JISNASシンポジウム2023が2023年12月11日(月)、対面とオンラインのハイブリッド形式により開催されました。
本シンポジウムは、農林水産分野や地域開発における特定テーマについて、JICA/JISNAS間で討論・意見交換を行い、双方の知見を深め、若手人材の積極的かつ主体的な参加を奨励して能力開発を図ることを目的として開催しております。今回は、理工学部やJISNASメンバーと商品開発を行っている民間企業も参加し、活発な議論が交わされました。

開会挨拶

JICA窪田上級審議役より、気候変動や長期化する国際紛争が世界規模で食料システムに影響を及ぼしていることが言及されました。6月に改訂された国際協力大綱では「共創」がキーワードであり、知見を持ち寄って課題に対応することの重要性が指摘されました。また、複雑化する国際問題に対応するためには、ますますの国際化が重要であり、本シンポジウムが大学や研究機関とJICAの「国際頭脳循環」を促進し、さらなる連携強化の契機となるよう期待の旨発言がありました。

講演

外務省国際協力局の日下部審議官より、「開発協力大綱の改定のポイント」と題して、開発協力大綱が改定された背景とねらいについて説明がありました。特に、変化する国際社会の複合的危機に対して、より開発途上国との関与を強化して、共に取り組むために、様々なアクターの取り込みとその連携強化を促す重要性が強調され、「質の高い成長」と貧困の撲滅に向けて、実施体制を強化していく旨が共有ました。

続いて、JICA人間開発部の上田次長より、JICAの高等教育協力における国際頭脳循環に係る取組みに関して、JICAの高等教育協力の事例と共に報告がありました。とくに、ASEAN10カ国を対象とする人材育成事業SEED-Net(ASEAN工学系高等教育ネットワーク)を通して、学位取得や共同教育、共同研究プログラムが実施されたことや、取り組みを通してネットワークが構築されてきた成果が紹介されました。続いて、将来計画として日・アフリカ間の大学ネットワークを通じた人材育成支援の一環として、高度人材5,000人育成構想について共有されました。

質疑応答

JICAが想定する国際頭脳循環のターゲットパートナーは、という問いに対して、これまでにJICAの協力によって新設された大学を育てながら、そこを核とした共創を創り出すこと、そして日本の新たなパートナーとなり得るリーディング大学が想定されると、JICAから回答を行いました。また、外務省の日下部審議官より、JICAの協力終了とともにパートナー大学との関係性も切れてしまうことを避けるために、民間を巻き込んだ連携関係の構築が求められる、との補足がありました。

既存の研究助成事業の対象となりにくい学生発のアイデアに基づく研究(留学)を助成するスキームの存在や、今後新設する方針はあるか、という質問に対し、協力隊のスキームを活用し、大学とJICA間のMOUに基づき、学生を協力隊として派遣する例はある、との共有がJICAからありました。

パネルディスカッション

パネルディスカッションでは、名古屋大学農学国際教育研究センターの江原教授をモデレーターとして、「国際頭脳循環の促進に向けた先進事例の共有と展望」をテーマに意見交換が行われました。名古屋大学大学院生命農学研究科の大蔵教授からは、コロンビアにおける牛肉生産性向上を目指したスマート畜産技術の開発と、高付加価値なバリューチェーンの確立による地域開発をめざす「地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)」が紹介されました。最後に、アジア諸国における名古屋大学アジアサテライトキャンパスと本邦キャンパスとの連携によるハイブリッド型博士学位取得プログラムについても共有されました。

九州大学大学院システム情報科学府の古閑教授からは、農業生産における窒素循環の危機的課題に対して、工学系の見地、とくにプラズマ技術の活用によって取り組む研究のこれまでの成果と、開発途上国の食糧安全保障への応用の可能性について説明がありました。

九州大学熱帯農学研究センターの百村教授からは、同センターにおける国際共同研究を通じた国際協力の取り組みに関して、ペルーで展開されているSATREPS事業も交えて説明がありました。同事業では、国内の複数の研究機関とも連携しながら、現地の大学と共に、気候変動の影響を受ける森林の統合型管理システムの開発とその普及に取り組んでいる旨説明がありました。

東京大学大学院農学生命科学研究科の山本教授からは、同研究科内の英語コースであるInternational Program in Agricultural Development Studies (IPADS)プログラムの概要について共有した上で、国際連合工業開発機関(UNIDO)との連携や、エジプト日本科学技術大学との海洋プラスチックごみ削減のための共同研究および教育事業交流等について説明がありました。

名古屋大学の横井特任教授からは、大学の途上国支援への参加という点では、JICAの草の根技術協力のスキームは活用しやすいのではないか、というコメントが出され、それに対して百村教授から、草の根技術協力事業のなかで学生を現地に長期間派遣することができ、研究と現地のための活動ができた、とのご自身の経験の共有がありました。

JICAの浅沼専門嘱託(名古屋大学名誉教授)から、現場の問題解決の支援とその応用を支援するJICAの立ち位置を確認した上で、SATREPSの成果をより現場に適応するために技術協力プロジェクトを実施する新しい取り組みについて紹介がありました。そして、研究からより実践へつながる応用へ大学関係者が貢献することに期待を述べました。最後に、来日した学生や研究者が自国に帰った後に活動や研究を続けるために、JICAと大学の新たな連携の模索の重要性が指摘されました。

国際頭脳循環や国際協力に参加するような海外を志す学生が、コロナ禍後に減少している兆候に対して、どのような対策をどうしているか、という質問に対し、パネリストらも同様の認識を述べたうえで、山本教授は、海外に出たい学生が減少しながらもまだ多く存在しており、インターンシップや海外留学、英語授業のプログラムの充実化や、国際機関の職員による講演の場を増やす重要性を述べました。

最後に、会場で参加していた東南アジアの農産物を扱う民間企業の代表から、企業も開発途上国の現場に入っている例は多くあり、企業を参画させた情報共有の場を設けることが重要性である、とコメントがなされた上で、江原教授よりJISNASとして今後さらなにコーディネーション機能を果たす旨述べられました。

閉会挨拶

JISNAS運営委員長である名古屋大学の山内教授は、これまでJISNASは創設以来一貫して人材育成に関して議論してきた経緯があることを共有しました。続いて、ODA大綱の改定に伴って盛り込まれた「オファー型協力」の理念に則り、これまで大学が蓄積してきた議論と経験を活かして開発協力の場で共創するステージに入ったと述べられました。また、大学の科学技術力や研究力の低下とともに海外に向かう学生の絶対数が減少傾向にあるという大学が置かれた状況について、大学関係者がしっかり自覚する必要があるとコメントされました。最後に、こうした社会的な兆候に対して、今後は多分野、多機関とのネットワークをつくっていきたい旨抱負が述べられました。